しましましっぽ

読んだ本の簡単な粗筋と感想のブログです。

「孤宿の人(こしゅくのひと)」 宮部みゆき  

2006年09月30日 | 読書
四国は讃岐の国、丸海藩。丸海藩の西方には金毘羅大権現の社がある。
ほうは江戸の建具商「萬屋」の若旦那と女中の間に生まれた子。
ほうが9歳の時、萬屋で病が流行り、それは萬屋を恨んでいる魂が障りになっていると言われる。心当たりは死んだほうの母親だった。
その恨みを取り除く為に、ほうは女中と二人、金毘羅さまに行かされる。
しかし、女中は目前で路銀を持って逃げ出し、ひとり残されたほうはお救い小屋のお寺の連れて行かれる。
和尚は、ほうがそれまで世話をされずに育ってきたので、読み書きなども出来ず、自分の名前は「阿呆」の「ほう」だと言うのを聞き、井上家で世話になれるようにする。
井上家には当主の舷洲(藩医で「匙(さじ)」と呼ばれている)と長男で後継ぎの啓一郎とその妹の琴江がいた。
ほうは井上家で始めて人間らしい暮らしをし、言葉や文字を教えてもらう。
その丸海藩に江戸より流刑になった罪人が来る。妻子と家来を殺した勘定奉行の加賀殿で乱心していると言う。
加賀殿を幽閉する為に、涸滝の浅野家の空家を修理することになったが、浅野屋敷も因縁のある場所だった。
修理の工事中に事故が起こり、加賀殿の所業が影響していると噂が立ち恐れられる。
そんな中、琴江が死ぬ。



宮部さんの物語は本当に面白い。
そしてこの物語は、心に深く響く。考えさせられることも多い。
宮部さんはストーリーも面白いが、人物がみんな生き生きとしている。この物語にも魅力的な人物がたくさんいた。
しかし、今回は死んでしまう人が多く、そういう時代ということもあるが、結構辛く悲しかった。
始めの琴江の死も、きっと重要人物なんだろうと思っていたし、ほうとの係わりもとても良かったのでショックだった。
そして最後に、あの人まで、と思った人が死んでしまう。

途中で、ほうと加賀殿が出会う事は予想出来たが(誰でも予想すると思うけど)、身分も年齢も状況も全く違う二人はどのように出会うのだろうと興味があった。
そして、とてもドラマチックに無理なく出会い、それがその後の伏線にもなり、「宮部さん、さすが」と感心した。

この物語のテーマは、難しい。
テーマ自体はよくある事で、大なり小なり現代にもあることなのだが、それをどのように考えていくかが難しい。
運命にも置き換えられる話だと思う。
身を任せるのがいいのか、逆らって自分で切り開いていくのがいいのか。
一概には決められないし、状況によっても変わっていくだろう。
もしかしたら、その様に悩むことに意義があるのかも知れない。人の心は弱く、そして強い。

「ほう」は、阿呆の「呆」から方向を知った「方」になり、最後は世の大切なもの、尊いものの「宝」になった。
「ほう」にとてもたくさん漢字があるのを、今変換して気が付いた。
とてもいい出会いが出来たほうが幸せになれるように、ほうの未来を信じたい。
そして、こんな出会いが今の世の中でも出来たらいいのにと思う。始めのほうのような扱いを受けている子は、形は違っても現代にもいると思うから。
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