しましましっぽ

読んだ本の簡単な粗筋と感想のブログです。

「真実の10メートル手前」 米澤穂信 

2021年02月06日 | 読書
「真実の10メートル手前」 米澤穂信   東京創元社    

太刀洗万智が主人公の6編からなる短編集。

「真実の10メートル手前」
東洋新聞大垣支局の記者、太刀洗万智は、新人で教育係を任されている藤沢と甲府に向かう。
姿を消した早坂真理を探す為だった。
真理は経営破綻したベンチャー企業会社の、社長の妹で広報担当だった。
太刀洗は真理にインタビューした事があり、その時同席した真理の妹の弓美から、居場所の情報を得る。
太刀洗は真理が言いたい事を、世間に伝えたいと思った。

「正義感」
夕方のラッシュを迎えた吉祥寺駅で人身事故がある。
それを平然と、もしくは嬉々とした様子で取材する女がいた。
それを見て、青年は許しがたい行動だと憤慨する。

「恋累心中」
高校生の心中事件。
二人が死んだ場所の名をとって、それは恋累心中と 呼ばれた。
週刊深層編集部の都留は、フリージャーナリストの太刀洗と 合流して取材を開始するが、徐々に事件の有り様に違和感を覚え始める……。
太刀洗はなにを考えているのか?
滑稽な悲劇、あるいはグロテスクな妄執――
己の身に痛みを引き受けながら、それらを直視するジャーナリスト、太刀洗万智の活動記録。
   <単行本カバー見返し側より>

「名を刻む死」    
中学3年の檜原京介は、近所に住む田上良造が死んでいるのをブロック塀の風抜き穴から発見する。
田上は62歳だった。
マスコミの取材がひと段落した頃、訪ねて来たフリーの記者、太刀洗万智がいた。
太刀洗はいままで他の記者が聞かなかったことを聞いて来た。
檜原には今まで誰にも言えなかった事があった。

「ナイフを失われた思い出の中に」
これは、『蝦蟇倉市事件2』に掲載されたもの。
16歳の少年が3歳の女の子を刺し殺す事件が起きる。
その2人は姪と叔父の関係だった。
ルポライターの太刀洗万智は、少年の書いた手記を手に入れ、事件の真相を知る。

「綱渡りの成功例」
8月、長野県南部を襲った水害で、山の斜面に近い高台にある3軒の民家の側で土砂崩れが発生する。
1軒は埋まり、1件は寝室部分だけに土砂が押し寄せ、1軒は無事だった。
しかし、前面は川が流れ、孤立した住人を救助するのに3日掛る。
助かったのは高齢の戸波夫妻だけだった。
水も電気も途絶え、夫婦は三男が正月に来て非常食だと置いて行ったコーンフレークで生き延びたと話す。
取材に来ていた太刀洗は、夫婦の様子からある事に気が付く。






主人公の太刀洗万智は背が高く、長い黒髪で切れ長の目。そして無表情。
自分の心情を話し事はない。そんな人物として書かれている。
新聞記者を6年で止めてフリーとなる。
『王とサーカス』では、〈月刊深層〉の記者としてネパールにいた。
「綱渡りの成功例」では記者10年目と書かれていた。
太刀洗は、提示された謎や自分が謎に思った事を、インタビューやその場に行って解き明かしていく。
「警察も気が付いている事」と言って、警察と接点がある訳ではない。
なので、謎解きと言ってもそれほど推理物としては大掛かりではない。
これはジャーナリストとは何かを太刀洗が真っ直ぐにとらえて、考えている物語。
ジャーナリストはこうあるべき、と言うものかも知れない。
でも、それは人それぞれ違うものだから。
色々な事件に登場してくる太刀洗だが、その事件を選ぶ基準になっているのは何だろう。
まだまだ、太刀洗の人物像が見えてこない。
人を救いたいと言うのはあるのかも知れないが。
「名を刻む死」で少年を助けたのは偶然の様な気がする。
「綱渡りの成功例」は助かった夫婦に目を向けた事から始まったと思う。
しかし、この物語は、自分には納得出来ない。
あれが罪悪感を抱くことだろうか、世の中から非難されることだろうか。
命が掛っている時に。
厳格に生きている人、人に迷惑を掛ける事、手助けを申し訳ない思う人がいる。
反対にその人たちは、他人が困っている時には迷惑に思うのだろうか。
人から助けを受けたくない人は、助けないのだろうか。
自分が今出来る事をして、自分が出来ない時は助けてもらう。それが当たり前の社会だと思うが。
そしてもう1つ。
自分は、コーンフレークはそのまま、それだけで食べる。
液体でふやけた物の食感が嫌いだから。まあ、好んでコーンフレークは食べないけど、フルグラは好き。
だから、コーンフレークを食べていた事に疑問は感じなかった。
それより「コーンフレークの食べ方が分からない」「コーンフレークを作る」の方に疑問だった。
そして、孫が食べているのを1度も見なかったのだろうか。
お正月一緒にいて、どんな家族なのだ、って。
それより“飲料水は大丈夫だったのか”の方が問題ではないだろうか。
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