しましましっぽ

読んだ本の簡単な粗筋と感想のブログです。

「本泥棒」 マークース・ズーサック 

2010年05月22日 | 読書
「本泥棒」 マークース・ズーサック     早川書房
 THE BOOK THIEF      入江真佐子・訳

わたしは死神。自己紹介はさして必要ではない。
好むと好まざるとにかかわらず、いつの日か、あなたの魂はわたしの腕にゆだねられることになるのだから。
これからあなたに聞かせる話は、ナチス政権下のドイツの小さな町に暮らす少女リーゼルの物語だ。
彼女は一風変わった里親と暮らし、隣の少年と友情をはぐくみ、匿ったユダヤ人青年と心を通わせることになる。
リーゼルが抵抗できないもの、それは書物の魅力だった。
墓地で、焚書の山から、町長の書斎から、リーゼルは書物を盗み、書物をよりどころとして自身の世界を変えていくのだった…。
   <カバー見返しより>



死神が語り手になった物語。
それらしく、今までにない構成も面白かった。
この物語の死神は、死んで行く人の魂を天に持って行くのが仕事。
やはり上司がいて、上司に対してちょっと文句も出る。
死ぬのは運命で、死神と関わったからではない。
子どもの魂は優しく抱いてあげる。感じる心がある死神。
戦争でたくさんの人が死んで行くことにも心を痛め、人間より人間的。

主人公は本泥棒と呼ばれた、リーゼル。
養父のハンス・フーバーマンを始め、リーゼルの周りにいる人達は誰もが優しい。
少しはそうでない人物もいるけれど。
もっと大変なこともあったと思うし、実際なら自分のことしか考えない嫌な人物もいたと思うが。
それでも、戦争をしている時代の苦しみは充分に伝わって来る。
第二次世界大戦中のドイツ。
人間が人間として生きられなかった時代。
それはユダヤ人だけでなく、ドイツ人も同じ。
ただ、ユダヤ人は直に命に関わることだから、その重みは違うかも知れないが。
それまで、相手がユダヤ人という意識もなく、友人として普通に付き合っていた人たちがたくさんいた。
そのことで、心を痛める人達には耐えられないことだろう。
ヒトラーがいてナチスがあった為、ドイツ人は戦後それだけで責められる。
しかし、多くのドイツ人も被害者だ。
「ワルキューレ」で、「ヒトラー以外にもドイツ人がいること示したい」と言った将校。
ヒトラーの言葉を、政策を、そのまま信じてしまう人が居るのも、分かる気がする。
特に子どもは、どう教育されるかが大きい。
言葉で支配する巧さ。
本=言葉に魅かれるリーゼルを通して、その素晴らしさと怖さも伝えてくれる。
人間について、戦争について、そして言葉の力について、深く考えさせられる。
とても心に響く物語。

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