しましましっぽ

読んだ本の簡単な粗筋と感想のブログです。

「最後の証人」  柚月裕子 

2015年09月24日 | 読書
「最後の証人」  柚月裕子    宝島社    

東京の中野で法律事務所を開く弁護士の佐方貞人。
12年前は、東京から新幹線で北に2時間ほどの所にある米崎市で検察官をしていた。
ある事が切っ掛けで、検察官になって5年で辞めた。
その米崎市へ、弁護の依頼を受け12年振りにやって来ていた。
それは、米崎市内の高層ホテルの1室で起きた殺人事件。
動機は交際関係のもつれから、凶器はルームサービスのディナーナイフ、被害者は胸を刺されて死亡。
状況証拠はすべて依頼人に不利なものだった。
世間もマスコミも依頼人が犯人だと確信している。
しかし、依頼人は無実を訴えていた。
佐方は、この事件は単純なものではないと睨み、依頼を引き受ける。

裁判と平行して、もう一つの物語が同時進行する。
高瀬光治、美津子夫婦の小学5年の息子、卓は塾からの帰りに交通事故で死亡する。
後ろから自転車で走っていた友人の直樹がただ一人の目撃者。
交差点の自転車側の信号は青。渡っている時、赤信号を無視した車が突っ込んで来て前を走っていた卓を撥ね飛ばす。
車から降りて駆け寄って来た運転手の息は酒臭かった。
しかし、その運転手は不起訴となる。信号無視は卓の方で過失は卓にあると。
その運転手は、島津邦明、51歳。地元の建設会社社長で、県の公安委員長を務める男だった。
公安委員会は地元警察の監督を務める機関。
警察と密接な繋がりがある。
高瀬は、事実が捻じ曲げられた事を知る。
島津は、1度も高瀬家を訪れる事はなかった。











同時進行の物語は、事件の真相を知らせてくれていると思っていた。
裁判は、検察側の庄司真生の証人尋問がほとんどで、佐方が何を考えているのかは伝わって来ない。
読者だけが知る真相で、全体が分かったような気持ちに。
でも何かありそうな予想はあったのだが、最後まで分からなかった。
最後まで隠されていた事実には驚かされた。
しかし、高瀬夫妻の復讐は、これだけで良かったのだろうか。
交通事故の真相を世の中に知らしめる事は含まれていなかったのだろうか。
結果的にベストの形になったと思うが、それは佐方と言う弁護士がいたからだろう。

この物語はどこから書くかによって、随分驚きが違う。
構成が上手い。
しかし、裁判の場面はあまり緊迫感がなくゆるゆるな感じ。
証言は記録するから頷きだけでは駄目と思っていたが、それでOKになっていたり話している途中で口を挟んだり。
そして、こんなにあっさり覆される事で自信満々では駄目だろう。
結局、状況証拠しかなかったのだから。
裁判のシーンより高瀬夫妻の物語をメインとして読んでいたので、まあいいかと言う感じか。
最後の証人が誰かは、予想が付いた。
しかし、すべて人間がしている事。
人間とは何と業が深い生き物なのだろう。
とても、痛々しく生々しい物語だ。

卓の理不尽な事故処理を物語だけだと思いたい。
前にテレビで、警察が身内を守って事実を捻じ曲げる事があるのを知った。
テレビの取材では、矛盾点がたくさん見つかっているのに、検察側もそれを認めない。
だから実際に、このような事や佐方が検察を辞める理由になった事が起きているのだろう。
本当に信用出来る物なんてないのかも知れない。
その事実に直面した高瀬夫妻の苦しみがとても痛々しくて、物語の中だけにして欲しいと痛切に思う。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「お料理名人の事件簿① 桃の... | トップ | 「お料理名人の事件簿② かぼ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

読書」カテゴリの最新記事