しましましっぽ

読んだ本の簡単な粗筋と感想のブログです。

「発火点」 真保裕一  

2006年04月30日 | 読書
これは30歳近くなった敦也が、過去を振り返って綴った物語である。
敦也は12歳の夏に父親を殺される。
殺したのは、その時同居していた、父の同級生、沼田。
沼田は自殺しようとしたのを、敦也に発見され命を取り留めていた。
行き場所のない、沼田を自分の家に招いたのは母親と敦也だった。
その頃、父は家庭を捨て様としていて、敦也は父親を繋ぎとめる防波堤として、沼田を呼び寄せ、母親も同じ気持ちだったと思っている。
敦也が21歳の時、沼田が仮出所したと雑誌記者に聞かされる。
敦也は、それまで人間関係をうまく取れない事から仕事が長続きせずにいた。
その性格は、自分が嫌っていた父親に似ていると自覚し、苦しんでもいた。
その記者の出現から、敦也は父親事件の事をもっと知ろうと動き出す。


過去から自分を見詰めて書いているので、その時の感情は多少、オブラートに包まれている感じはするが、それでも、敦也の尖って荒れ狂う感情は読んでいて痛くなるし苛立たしい気持ちにもなる。
振り返っているので、「今にして思えば」と言う気持ちが書かれているので多少ほっとするのだが。
大人になって分かる事もある。「親になって親の気持ちが分かる」とはよく言われるが、これは敦也の成長の物語。
しかし、自分で分かっていてもコントロール出来ない気持ちは、いくつになっても持ち合わせるものだろう。
最後まで、再生出来なかった父親と違い、敦也は再生を果たす。それは周りの人の助けがあったから。
でも、本当にこのまま敦也は穏やかな生活が出来るのだろうかと、ちょっと意地悪い気持ちで思ったりもする。
感情の激しさは持って生まれるものだろうか。それは、本当にかわるのだろうか。

被害者の気持ちは乃南アサさんの「風紋」「晩鐘」で触れた。
気持ちは自分でも分からないのに、他人の気持ちは分かるはずがない。まして、傷付いた人の気持ちは。
そんな時はなるべく近付かないで置こうと思ってしまう自分は、人付き合いが苦手だ。
推理的な要素があったので、その点は面白かったが、敦也の感情に付き合うのは、結構、苦しかった。







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