今週は愛知県の某地方金融機関と相続・民事信託の勉強会を行う予定だ。民事信託はその名前のとおり、民間(特に家族間)で行う信託であり、金融機関が扱うものではない。ただし高齢化社会において、高齢者の資産・事業・負債などが、スムーズに相続人に継承されていくことは、金融機関にとっても重要な課題だ。そこで上記の勉強会を企画した次第。
民事信託の実例については、詳しい司法書士から説明して貰う予定だが、骨子については私が説明を行う予定だ。
その中で一つ注意点を上げておきたいと私は思っている。というのは巷に出回っている民事信託(=家族信託)の本にはバラ色の話が多く、色々な難問を解決する万能薬的な説明がされている点だ。確かに民事信託を上手に活用すると遺言書では実現することができなかった「次の次の世代への財産承継」を設計できる等のメリットはある。
しかしまだ余り大きな問題にはなっていないが、受託者(主に相続人の子ども)が委託者兼当初受益者(主に親)の財産(信託財産)を着服するというケースは幾つか散見されている。民事信託もリスクを内包しているのである。
民事信託より広く行われている成年後見制度については、後見人の着服について最高裁が調査結果を発表している。それによると2015年度の着服件数は521件金額は29.7億円に上った。またこの内弁護士等専門職による犯罪は37件金額は1.1億円だった。後見人全体による着服件数は減少傾向にあるが、専門職による犯罪は過去最多となっている。
もっとも本当の被害総額はもっと多いと考えるべきだろう。2015年9月の東京新聞Webサイトは「2014年の被害額は少なくとも56.7億円で専門職による横領は5.6億円だった」と書いている。被後見人の判断能力は低下している(だから後見が必要になる)ので、被害を被害と認識できない場合も多いと思われるから、実際の被害額は相当大きいと考えてよいだろう。
民事信託には成年後見制度を補完する機能がある。本来「委託者のために委託者の勘定で金銭を管理するべき」なのだが、委託者の金銭を自分のものとして費消することが時として起きる。親一人子一人ならそれでも容認されるかもしれない(親が死ねば子ども一人が相続するので)が、子どもが複数でその中の一人(例えば同居する長男)が受託者となっている場合は、他の兄弟との間で揉め事が起きる可能性は高い。
ちなみに振り込め詐欺など「特殊詐欺」の昨年度の被害金額は476億円だった。後見人や遺言執行者による着服は発覚し難いあるいは事件になり難いという点から全体像は把握されていないが、私は特殊詐欺被害額の2割程度はあっても不思議ではないと考えている。
「特殊詐欺」「成年後見人等による高齢者の財産の横領」を前門の狼とすれば、高額の寝具等を次々の販売する「次々販売」や証券会社・銀行等によるハイリスク商品の販売は後門の虎である。
こちらは完全に犯罪行為と決めつけることができないだけに被害総額(そもそも被害かどうかも判然としない)の推測を行うこともできない。
なお消費者センターによると70歳以上の人の相談件数は年間20万件前後に達している。
こんなことを考えていると「年を取るのも大変だな」と思う。
ではどうすれば良いか?というと、決定的ではないにしろ、一つの有力な解決策は「個や孫への積極的な贈与で財産を減らしておく」ことではないか?と私は考えている(残念ながら私には子どもはいても孫はいないし、積極的に贈与するほど大きな財産もないので机上の空論なのだが)。
つまり教育資金であれ、結婚・子育て資金であれ、余裕のある人(将来遺産として残してあげたいと考えている人)は、今積極的に贈与すれば良い(税法上のメリットも活用できる)のである。財産が少なくなると、振り込め詐欺や横領に遭う被害金額も少なくなるからだ。
また貰う子どもや孫にしても将来貰うよりも今貰う方が役に立つ。また財産はあるけれど身寄りがない、死んだら財産を公(おおやけ)のために寄付したいと考えている人も死ぬ前に財産の大部分を寄付した方が良いかもしれない。例えば専門職を遺言執行者として遺言を作成しても、その執行人に着服されてしまうリスクがあるからだ。金は眼が黒い内に使ってしまうというのが、鉄則ではないだろうか?