金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

アベノミクス、失速か?構造的破綻か?

2016年06月02日 | 英語・経済

今日の新聞一面は昨日安倍首相が記者会見で発表した消費税引上げの2年半(2019年10月まで)の延長だ。日経新聞のタイトルは「首相、消費税延期を表明 19年10月に10%『世界経済リスクに備え」「参院選で信問う」だ。

WSJ日本語版のタイトルは「消費税の再延期、アベノミクス失速浮き彫りに」である。日本語版は英語版を訳したものだが、英語版を見るとタイトルは

Japan's delayed Tax increase shows 'Abenomics' is sputteringである。日本語訳との間に微妙なズレを感じるのはsputteringを「失速」と訳すところにある。Sputteringは「エンジンがプスンプスン音を立て今にも止まる状態」をさす。この表現は安倍首相の「景気減速リスクを振り払うためアベノミクスのエンジンを最大限ふかす必要がある」英語ではrev up the engine of Abenomicsという言葉を皮肉ったものだろう。

何故皮肉っているか?というと「プスンプスン音を立てて止まりそうなエンジンは「燃料噴射装置」や「エンジンの点火装置」などエンジン内部に大きなトラブルが起きていることの前兆でまず修理工場で点検することが大事、ということが常識になっているからだ。つまり止まりそうなエンジンをふかしたところでかえって車を傷めてしまうというニュアンスがそこには込められている。

WSJは直接的に消費税引き上げ延期に賛否を示していないようだが、記事の最後にジャパン・マクロ・ アドバイザーズのチーフエコノミスト、大久保琢史氏の「投資家や企業幹部はすでにアベノミクスの成功を諦めていると思う。問題は代替策がないことだ」と述べた、という言葉を載せて締めくくっている。

代替案は本当にないのだろうか?私はやるべきことでやっていないことが幾つかあると思っている。長期的に経済を安定成長路線に戻すには、人口減に歯止めをかけることだが、それには時間がかかる。短期的な解決策の一つは移民政策だ。もっと積極的に移民を増やすと良い。特に過疎化が進む農村地方で農業に外国人の力を借りることは検討しても良いのではないか?

次に高齢者の労働力を活用するような施策を打つべきだろう。人工知能やロボットの力を活用して、労働力を捻出し、その労働力を成長分野に投入するといったことも必要だ。これらの施策には当然反対する人がいる。古くなった燃料噴射装置を取り換えるようなもので、コスト(痛み)が伴うからだ。だがエンジンの基本パーツを入れ替えないとエンジンをふかすことはできない。

話は少し変わるが昨日あるところで日本のインフラのピラミッド構造が抱えるリスクの話をした。

上のグラフは年次毎の橋梁の新設件数を示すもので、1970年~75年のピークには年間1万本以上の橋をかけていたことが分る。その橋の寿命があと数年先に迫っているのだ。コンクリートの寿命を50年とすると2020年頃から大量の橋をかけ替える必要が発生する計算になる。

インフラの長寿命化計画も進められているので、架け替え需要を緩和することはできるだろうが、多少の先延ばしの話である。橋だけではない。道路、トンネル、上下水道などのインフラを大量に更新しないと国土が持たなくなる時期は5年から10年先に来ていると思う。

残念ながら今のままではその財源はどこにもない。このような近未来のことを考えると、消費税引上げの見送りは間違った政策だったと私は感じている。もしインフラに大きな破たん(トンネルや橋の崩壊、上下私道の漏水拡大など)が起きるとそれこそ車を動かすことができなくなる。

エンジン失速程度では済まないのである。

 

コメント (1)
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