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農業への巨大投資、期待と懸念

2008年06月06日 | 社会・経済

ニューヨークタイムズ(NT)によると、幾つかの大手プライベート・エクイティが、農業施設への投資を始めつつある。既にヘッジファンドが、小麦や大豆の先物市場に巨額な資金を投じていることは周知の話だが、それはペーパー上の投資だ。しかし数は少ないけれど、幾つかのファンドは実際に農地やグレイン・エレベーターという巨大な穀物貯蔵庫兼出荷設備を購入しようと計画している。

例えばニューヨークのブラックロック・ファンドは数億ドルを投じて、サブ・サハラから英国にいたる農地を購入しようと考えている。これらの投資家達は、小規模農地を統合して、そこに最新技術を導入して農業の生産性を高める予定なので、短期的には世界の穀物生産を増やすという点で歓迎する声が多い。

しかしながら長期的な影響は短期的な影響に比べるとはっきりしない。これらの投資家は利益を最優先しているので、伝統的な農業界のように「市場が良い時も悪い時も農業を続ける」というコミットメントを持っているかどうか疑うものもいる。

特にプライベート・エクイティのような投資家に利益を与える可能性があるのは、グレイン・エレベーターのような巨大な穀物貯蔵設備だ。何故ななら貯蔵設備を持つことで、彼等は「紙の穀物」を売買するのではなく、現物を売買することができるからだ。現物を売買するということは現物を売り渋ることが可能だということだ。

穀物価格が上昇している時、彼等は売り渋ることで大きな利益を得ることができる。また世界各地の穀物価格を比較して、最も利益の出る地域に穀物を輸出するといった裁定を行うことも可能だ。

このことを良く知っているのでホワイトボックスというヘッジファンドの設立者は「現物取引を出来ないことは極めて不利だ」と言っているとNTは報じている。

日本の歴史を見ると為政者達は、業者が穀物つまり米の値段を操作することに頭を悩ましていた。例えば江戸時代の初期には米の空売りは死罪をもって禁じられていた。芭蕉の弟子に杜国(本名 坪井 庄兵衛)という名古屋の米屋がいた。彼は米の空売りをした罪で、家財没収の上追放されている(罪一等減じて死罪にはならなかった)。貞享2年1685年のことだ。

杜国には「うれしさは 葉がくれ梅の 一つ哉(かな)」という句があるが、渥美半島に追放された後の句だろう。

だが、米の値段は高過ぎても安過ぎても問題を起こす。高過ぎると米を買う庶民が困るし、安過ぎると米の売り手である武士(扶持米を現金化する)が困窮するのである。米の価格を安定させるために、やがて先物取引は解禁され、八代将軍吉宗の時には、大阪の米会所が認可されたのである。享保15年1730年のことだ。

話を現代に戻すとグローバルに投資を行う巨大ファンドを一国の政府が取り締まることは困難だ。彼等が農産物の生産拡大に貢献する時は良いが、もしマイナスになるような場合だれがコントロールできるのだろうか?

もっとも農業投資を行うプライベート・エクイティをカーギルなどの巨大穀物取引業者の同類と考えるならば、そのリスクを過大視することはないのかもしれない。いずれにせよ注目しておいて良い話だ。

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