金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

【イディオム】Endowment Effect 所有効果

2015年02月24日 | 英語・経済

ここのところ相変わらず、本の執筆に時間を取られている。飲み会など雑事が入るので、やや遅れ気味だが、それでもボリュームベースで半分くらいのところまで漕ぎ着けてきた。

今書いているのは、投資に関するバイアスの部分。行動ファイナンス論の分野だ。今回書いている本のテーマは「インフレに負けない投資」なのだが、投資の話になるとバイアスの話は避けて通れない。

バイアスというと、単に証券投資だけではなく、資産負債に係わるあらゆる分野で我々は我々の脳が引き起こす色々な錯覚に引きずられている。週末に相続学会の山梨支部のセミナーに参加していたが、そこで話題になっていたのが農地の相続問題だった。

農地のみならず不動産全般の相続問題を見ていて感じるのは、不動産に対する高年齢層と相続財産を受け取る側の中年層の思いの違いだ。相続財産を引き渡す高齢者側には「先祖代々引き継いできた土地、あるいは自分が苦労して手に入れた住宅・賃貸物件などは次世代に渡したい。そして大事に守っていって欲しい」という思いが強いようだ。その不動産の現在および将来の価値がどうなのか?という問題は二の次にしてである。

このような自分の所有物に高い価値を与えたいというバイアスを行動経済学では「所有効果」(あるいは「付与効果」)と呼ぶ。行動経済学はアメリカで生まれた学問分野だから、「所有効果」という言葉も英語で作り出された。その名前はEndowment effectだ。直訳すれば「遺贈効果」である。つまり人は遺贈されたものに特別の価値を見いだすことから、所有物に対し特別の愛着を持つバイアスをEndowment effectと名づけたのだ。もっとも今日本の相続で起きている問題は不動産に着を感じているのは、遺贈を受ける世代ではなく、遺贈する人または非相続人になる人だ。

所有バイアスに隣接するバイアスが「現状維持バイアス」だ。行動経済学の教科書を見ると実験結果で「人は遺産を受け取った時に既に投資している資産を維持しよう」とする傾向が強いことが分かった。それはなぜ起きるのだろう?というと人間は現状を変えたくないという本能があるからだ。現状を変えるということは「認知的不協和」を起こす場合が多いからだ。だから人は自分にとって都合の良い情報を探して現状を追認する傾向がある。

「不都合な真実」をフィルターにかけて避けてしまうように人間の脳は作られているようなのだ。

ところが世の中には「不都合でも避けて通ることができない」真実がある。その真実を一般の人に分かりやすく説明して、避けて通ると後でとんでもないことになるから、真っ直ぐ向き合おうというのが、本当の社会にリーダーというものだ。

「不都合な真実」から目を背けたいのは、どこの国でも大半の国民は同じようなものだろう。国によって違いがあるとすれば、政治家や思想家あるいは学者と呼ばれる連中の中に、どれだけ火中の栗を拾って「不都合な真実」を国民に受け入れさせるために努力する人がいるか?という違いなのだろう。

恐らく「所有効果」など各種のバイアスから離れることができた人を「覚者」というのではないか?と私は考えている。バイアスからの離脱が覚者の十分条件ではないかもしれないが、必要条件であることは間違いないと私は思っている。

禅宗では「執着」のない状態を「本来無一物」と呼ぶそうだ。「執着」をバイアスと考えると無一物の状態に心を置くとき、色々なバイアスから解き放たれるということなのだろう。

巷を賑わしている相続争いの多くの部分は「執着心」から生まれている。執着心を捨てるには無一物になることだ、といっても本当に無一物になっては生きていくことはできない。無一物に生きていくのに必要な程度の財産まで含めて、それ以上のものを求めることを貪欲として戒めれば、世の中ひょっとするともう少し住みやすくなるのではないか?と考えたりする。

そしてそんな精神状態になれば、バイアスから解放されて資産運用も流れる如し、になるのかもしれない。でもそんなことを考えると結局また執着に陥ってしまうのかも・・・・

 

コメント
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