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マイナカード自主返納の愚―2

2023年08月12日 | 社会問題
マイナカード自主返納の愚―2

2013年5月末、個人識別番号の利用に関する所謂(番号法=マイナンバー法)ガ成立し、2016年1月1日からマイナンバー制度、国民総背番号制がスタートした。
国民背番号制は1968年佐藤内閣の時に検討が開始されたが、当時部落解放同盟が反対声明を出し、これを後押しする形で「国民共通番号制に反対する会」を中心に、猛烈な反対運動が始まった。街宣で評論家の桜井よし子は「牛は(狂牛病対策で)10桁で一生を管理されることになった。人間は11ケタの番号で管理される、 私は番号になりたくない」或いは「住基ネットは国民を裸で立たせるものだ」と言う様な凡そ意味不明の言説で民衆をアジって反対運動を先導した。作家・田中康夫元長野県知事は反対運動を盛り上げようと、セキュリティの脆弱性を訴える為、知事の権限を利用して不正処理まで行っていたとの記事まで出て来る始末、国民背番号制は沙汰止みとなり、日本のデジタル化遅れの元となった。

次の国民背番号制の試みは、1980年、大蔵省が所得税法改正により、マル優(少額貯蓄非課税制度)の限度額を管理するという理由でつくったグリーンカード(少額貯蓄等利用者カード)である。300万円以下の貯蓄を非課税にするという(マル優制度)を作ったが、複数の口座をつくって脱税する人が後を断たなかった為、これを防ぐ方法として名寄せを行い、1人に1口座に纏めようと言うのがグリーンカードである。この仕組みは多くの口座に分散された貯蓄が名寄せ出来る為、納税者番号としても使えると言うメリットがあったが、この制度は国民背番号に通じるものであるとして野党が騒ぎ、パチンコ屋などの中小企業主や政治家から「収入がガラス張りになる」、銀行業界からは「貯蓄が海外に流出する」などと言う反対論が噴出し、究極的には(上限を300万円に制限されていた郵便貯金)との競合を恐れた郵政省、郵政族議員、郵政族のドンだった金丸信が反対に回ったことが決定打となった。このため、グリーンカード情報を処理するコンピュータセンターまで出来上がっていたのに1985年に廃止された。その後金丸は総額33億円に及ぶ所得を隠しており、その資金の流れを把握されることを嫌っての反対だった事が明らかになった。
この様な私利私欲の為の反対運動によって、不公平税制の是正はおろか、多くの労力と注ぎ込んだ資金が無駄となり、日本に於ける官・民の情報化が大幅に遅れ、デジタル後進国としての名を世界に馳せることになった。国民総背番号をきらう人々の反発を恐れていろんな役所がばらばらに制度を造った為に横断的なシステム化を困難なものにしたのである。マイナ制度が分散型にならざるを得ず、各システムとの紐付けでトラブルが多発しているのも此処に原因が有ったのである。

そのような状況の中(マイナンバー制)を後押しする一大事件が発生した。第一次安倍内閣が倒れる引き金となった「消えた年金」事件である。1986年に紙台帳の記録からオンラインによる記録へ移行し、1997年に厚生年金(会社員)、共済年金(公務員)、国民年金(個人事業主など)夫々加入する制度により別々に付与されていた番号を「基礎年金番号」に統一したが、その際社会保険庁の労働組合(自治労傘下)が基礎年金番号による業務合理化に反対し、「国民総背番号だ」という理由で業務をサボタージュしたため、紙の帳簿からコンピュータにデータを転記する際に大量のミスが発生した。2007年に、被保険者、年金受給者を合わせて約3億件分のうち、基礎年金番号のデータベースに入って居らず誰のものかわからない年金記録が5,095万件存在している事が判明した。
政府は多額の予算を投入し、消えた年金記録の照合を進め、各家庭には「ねんきん特別便」が送付され、年金記録の漏れがないかどうかの確認が行われた結果、2008年~2012年の間に約230万人の年金受給者の年金記録が修正され、総額1兆6000億円の年金が一時金として支払われた。しかし判明したのは3千万件程で残りは未解決のままとなっている。(尚ミスの原因は「①転職が多い、②結婚等による姓の変更、③名前の読み方が違うのが多すぎる。」等で転記の際の要注意事項である)
この不祥事もあり、2007年の参議院選挙で自民党が敗北、安倍第一次内閣が倒れる原因となった。社会保障番号の導入をマニフェストに掲げ2009年に政権交代を果たした民主党政権は「社会保障と税の一体改革」で国民共通番号(マイナンバー)の導入を決め、2012年にマイナンバー法を国会で成立させたのである。当に消えた年金問題が大きく後押しすることになったのであるが,此処に辿り着くまでに如何に長い時間と労力、無駄な巨額税金を費消することになったかを我々は銘記すべきである。社会保障・税番号制度(=マイナンバー制度)は、行政を効率化し、国民の利便性を高め、公平・公正な社会を実現する社会基盤である事は間違いない。
公平な社会の一例を挙げれば国民の税負担には脱税も含め大きな偏りがある。世に言われる課税当局による所得捕捉の業種間格差、クロヨン或いは、トーゴーサンピンである。「クロヨン(9:6:4)とは」、サラリーマンなどの給与所得は9割、自営業者などの事業所得は6割、農業や水産業、林業を営む事業者の所得は4割、「トーゴーサンピン(10:5:3:1)とは」、サラリーマンなどの給与所得は10割、自営業者などの事業所得は5割、農業や水産業、林業を営む事業者の所得は3割、政治家の所得は1割 を意味する。
この様な正直者が馬鹿を見る不公平税制度を是正する為には個人の所得を把握することが大前提であり、マイナンバー制の導入と活用が不可欠なのである。不正を働いて居なければ自分の所得が全てオープンになった処で、心配することは何もない筈である。公的な生活支援や所得に応じた色々な手当の支給にも所得の把握が大前提であることを認識する必要がる。
行政の効率化に関しては、まず第一歩として、国民背番号が(・健康保険(証)番号・雇用保険番号・基礎年金番号・住民票コード・免許証番号・パスポート番号・納税者番号・マイナンバー)の様に、色々な役所が個人に何種類も番号をつけて極めて煩雑であり、マイナンバーに紐づけて1本化する時期に来ている。

マイナカード自主返納は 一体化作業の過程での誤入力がメデイア等により、針小棒大に過剰報道された為、情報リテラシイの乏しい人達の不安を煽り、返納する動きが活発化した。ハッシュタグ(#)をつけた「#マイナンバーカード返納運動」として返納を呼び掛ける投稿も相次ぎ、一種のヒステリー現象の様相を呈している。トラブルは大きく分けて次の五つ、「(1)コンビニ交付サービスでの住民票写し等の誤交付、(2)マイナ保険証の別人の誤登録、(3)公金受取口座の誤登録、(4)マイナポイントの誤付与、(5)マイナポータルでの他人の年金記録閲覧 」であるが、(1)以外は根本的なシステムの欠陥ではなく、システム稼働初期によくみられる人為的ミスで、しかもその発生件数は0.01%以下、実害は全く発生していない。(1)に付いては富士通のシステムに欠陥があり、住民票写しの発行要請が集中した時に、どれを受け付けるかの処理に難点がある事が判明して居り、これを修正すれば解決する問題である。但し発生件数は印鑑登録を含め0.0006%、これがカード返納の一因になったとすれば富士通の責任は重大である。
 2015年にマイナンバー制度が導入された当時、「マイナンバーは個人情報であり、絶対に他人に知られてはいけない」等と恐怖心を煽り過ぎた為、上記の様なミスで自分が丸裸にされてしまうのではとの印象を与え、国家による個人情報の把握を嫌う人たちの扇動に乗せられてナンバーカード返納に繋がった可能性が高い。
マイナンバー制度は全国民が対象であるから、どの様な人によって、どのような使われ方がされるか分からない。そのためIT業界で、「ポカよけ」とか「バカよけ」という言葉が有るように、間違った使い方が出来ないように設計することが重要になって来る。上記(4)のミスは、自治体の支援窓口の端末を使って口座登録をした時に、前の人がログアウトを忘れ、その人のマイナンバーに、次に使った人の口座が登録されてしまうと言うトラブルが発生したものだが、ログアウトしないと警告が出る様な仕組みを設けて置けば防げた話である。他にもミスを誘発するものは無いのか、運用する側・使い手側の視点で点検する必要がある。
公金受け取り口座の誤登録は子供の預金口座に紐づけるべきものを親の口座に紐づけしたものと考えられ、件数も10万件超と多いが、修正は簡単、間違えた各人が修正すれば容易に修正可能である。
マイナカード普及を滞らせている理由は「(1)通知カードで間に合っている (2)必要性を感じていない (3)何となく抵抗がある、監視社会に繋がる、誤入力等トラブルに対するメデイアの過剰報道により、制度そのものに対して国民に不要な恐怖心を植え付けてしまった。」事が挙げられる。
(1)(2)に付いては、マイナカードは顔写真付きの身分証明書として利用できるのが大きなメリットだが、身分証明書として運転免許証や健康保険証で代替できるし、行政手続きも通知カードでも間に合う場面が多く、特に必要性を感じないと言うことであろう。但し健康保険証は顔写真が無い為、不正利用が横行して居り、身分証明書と犯罪の温床に成って居る。其の為、携帯電話会社では本人確認として受付しなくなって居り、今後このような動きが増加する筈である。運転免許証を持たない人にとってマイナカードは必要不可欠になって来るだろう。
(3)の、なんとなく抵抗があるという心理的な抵抗感がマイナカードを作成しない最も大きな理由のひとつである。
個人情報漏洩のリスクに不安を感じている人も多いし、更に個人番号、住所、生年月日、性別、健康保険証、銀行口座など個人的なデータがひとつのカードに集約されることから、「マイナンバーで個人情報が収集され監視者化に繋がる」と考える人もいるようだ。しかしながら、行政機関は元々行政を円滑に行う為に昔から個人のデータを保有している。住民票に始まり、税金のため、健康保険のため、子育て支援のためなど様々な事情で住民の情報を国や自治体は把握しているのである。マイナンバーによって新しく個人情報が収集されるのではなく、もともと国も自治体も個人情報を集め保存していたのである。
但し行政効率化の課題として、それを横断的に連携させる仕組みがなかったので、既存の情報同士を連携させるために情報提供ネットワークシステムを含めた(マイナンバー制度)が活用される事になったと言うに過ぎない。
もう一つの誤解である「マイナンバーであらゆる情報が漏えいする」というのも事実ではない。マイナンバー制度が導入されることで、各行政機関等が保有している個人情報を特定の機関に集約し、その 集約した個人情報を各行政機関が閲覧することができる『一元管理』の方法をとっているのではない。 マイナンバー制度が導入されても、従来どおり個人情報は各行政機関等が保有し、他の機関の個人情報が必要となった場合には(マイナンバー法別表第二)で定められるものに限り、情報提供ネットワークシステムを 使用して、情報の照会・提供を行うことができる『分散管理』の方法をとっているのである。
マイナカードには4つの情報と(ICチップ)の本人認証キーしか入っていないので、カードがあっても税務署が健康情報を見る事は出来ないし、保健所が納税記録を見ることも出来ない。税と医療保険のデータは別々に分散管理されているからである。
従って漏洩リスクは従来と何も変わらないと言っても過言ではない。監視社会になると言う懸念も2003年に個人情報保護法ができた事により行政機関における個人情報の取扱いに関する基本的事項が定められて居り、自己の情報がどのように使われるのかマイナポータルで確認出来るシステムも出来ている。
マイナカード、マイナ制度には「何となく抵抗がある」、日本人は自分達の「個人情報を知られる事」への嫌悪感が余りにも強すぎるのではないか。これを乗り越えないと国や自治体で行われている(無駄な業務=税金の浪費)を防止し、国を挙げての生産性向上を図る事は不可能、ひいては国家が衰退の一途を辿るであろう事を冷静に考える必要がある。
かって防犯カメラ、監視カメラの設置に強い反対の声があったが、最近の犯罪検挙に大きな役割を果たしている事も反映し、その数や設置場所が飛躍的に増加したが、反対の声は全く聞かれなくなった。
何もせず現状維持の儘で行き、問題が起これば不満を投げつけるだけでいいのか、マイナンバー制度を進め日本の改革を図る事のメリットは何かを政府は懇切丁寧に説明する必要がる。
最後に現在のマイナンバー制度の改革点も挙げておきたい。
(1) マイナンバーはいろいろなシステムが混在しているため、パスワードが4種類あり、煩雑で,セキュリテイ上も問題が無い事は無い。認証を思い切って指紋(生体認証)に切り替えれば、パスワードの漏洩防止や認知症患者にとっても対応可能である。この際、外国人も含め住民票交付時に全員指紋登録を義務化すれば、冤罪や犯罪の迷遇入りも大幅に軽減できるメリットがある。
(2) マイナカードに付いて
(A)マイナカードは氏名、住所、性別、生年月日の基本4情報と顔写真が記載され、本人確認書類として必要な情報が全て備わって居り、更に、カードに組み込まれたICチップを使った公的個人認証サービス、「署名用電子証明書」と「利用者証明用電子証明書」として利用できる。この難しいお役所用語、マイナカードが敬遠される要因でもあり、早急に誰もが分るような表現に切り替えた方が良い。
(B)マイナカードの生年月日が和暦、西暦が併記されている。公文書の年号表記の西暦1本化こそが改革の1丁目1番地。デジタル庁の腰抜けぶりを表す象徴である。こんなへっぴり腰では国民を先導し啓蒙する事など全く期待できない。
同様に当用漢字にも無い漢字が使われて居りこの際戸籍法を改正し当用漢字にない漢字は使用禁止にすべきと考える。併せて番地表記も法律で1本化すべきである。
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