これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

能登紀行1 金沢に向かない靴

2018年01月07日 23時04分12秒 | エッセイ
 年明けの家族旅行は石川県にした。
「家を出るのは6時20分だよ。大宮を7時46分に発車する北陸新幹線に乗るから、余裕を持たないと」
 家族旅行の行き先や段取りを決めるのは私だ。夫と娘にも、前もって行程表を渡しておけば、行動がスムーズになる。そのはずだった。
「さあ、出かけよう。忘れ物ない?」
「あ、俺トイレに行ってなかった」
「じゃあ、ゆっくり歩いているから、鍵閉めてきてよ」
「うん、わかった」
 夫は一応、高齢者である。しかし、歩くスピードは速い。すぐに追いつくことを期待して家を出たのに、振り返ったところで一向に姿が見えない。
「お父さん、大丈夫かなぁ」
「なにやってんだろう」
 ちょっと心配になった。認知症の初期症状として、家まで帰る道がわからなくなるというものがある。まさか、駅までの道を忘れたのではないだろうか。
「あ、来た来た」
 やきもきしていたら、角を曲がってくる夫のジャンパーが目に入った。よかった、駅までは来られそうだ。
「どうしたの?」
「いや、靴ひもに時間がかかっちゃって」
 観光タクシーを予約したとき、北陸は雪や雨が多いから防水の靴がよいと聞いた。そこで、夫は新しい靴を買ったのだが、よりによって着脱のしづらいデザインを選んでいた。



 便利なサイドファスナーもついていない。手先の不器用な者に限って、手間のかかる靴を買うとは不思議だ。
 かがやきに乗れば、大宮から金沢まで125分で着く。早起きして疲れたのか、夫はずっと居眠りをしていた。
「ご乗車ありがとうございました。金沢、金沢、終点です」



 金沢在住の友人から、最近はほとんど積もらないと聞いていたのに、今年は雪が多いそうだ。しかも、前日の3日夜から降り始め、私たちが到着した4日は12cmを記録した。何という不運!
「雨女返上で、雪女を名乗ろうか」
「いいね~」
 私も娘も天気に恵まれない方だ。去年の3月は大雪の富士急ハイランドに行き、スケートをする以外になかった。それに比べたら、足場が悪いというだけで選択肢はいくつもあるのだから、どうってことはない。
「最初に、武家屋敷跡 野村家という場所に行ってみよう」
 2人を引き連れてバスを降りたが、私はウルトラ方向音痴である。たちまち道に迷い、娘のスマホに助けを求めた。



「何で自分のを使わないのよ」
「だって、バッテリーが減るじゃん」
「ケッ」
 イヤな顔をしながらも、娘がスマホを見ながら道案内をしてくれた。細い道は雪に埋もれているものの、主要道は水で雪を融かす設備が整っていて感心する。



「着いたよ」
「おお~」



 この屋敷は、11代に渡り加賀藩の重臣を歴任した野村家が拝領したものだという。武家らしく、最初に視界に飛びこんでくるのは鎧兜だ。



 禄高千石から千二百石、という基準はよくわからないが、かなりの金持ちだったのだろう。室内も庭園も美しい。











 茶室もあり、抹茶をいただいて休憩することにした。



 私用の器が一番キレイだと、口端を上げてニンマリする。小さなことでも、幸せに結びつけるのは特技かもしれない。
 刀の展示もある。よく手入れされており、ドヤ顔しているようにピカピカと輝いていた。



「さて、お昼を食べに行こう」
「うん」
 私と娘は、くるぶしまでのショートブーツをスポッと履くだけだが、夫は座り込み、慣れない手つきでひもと格闘している。道理で、家を出るとき、なかなか追いついてこられなかったわけだ。
 ランチ後は、ひがし茶屋街に向かう。
「あ、志摩ってところだ。入ってみよう」
 この界隈には、お茶屋文化なるものが残っており、志摩は1820年の建物がそのまま保存されている。国指定重要文化財なのだから一見の価値はあるだろう。
 また靴を脱ぐ。順路に従って歩くと、武家とは正反対の佇まいに驚かされる。







 特に素敵だったのが、小道具の数々だ。
 櫛やかんざし。



 キセルに小判。「金だ、金だ」などと喜びの声を上げて見ていたのは、私たちだけかもしれない。



 九谷焼にも心を奪われる。



 金箔の輝きが素敵。



 じっくり堪能したあとは、靴を履いて外に出るのだが……。
「ちょっと待って、うーんうーん」
 また夫が、考え考え靴ひもを結び始めた。このあと、少し奥にある「懐華樓(かいかろう)」という茶屋にも行きたかった。でも、苦労して履いた靴をまた脱がせるのも酷だし、やめておこう。
「あとはお土産を見て、早めにホテルに入ろうか」
「もう靴は脱がない? ああよかった」
 夫は安心したようだった。
 旅行から帰ったときにわかったことだが、トイレの電気がつけっ放しだった。どうやら、私と娘が先に出かけたことに焦った夫が、消し忘れたらしい。靴ひもも言うことを聞かず、「別の靴にすればよかった」と思ったのではないか。
 旅行はまだ始まったばかり。
 早く慣れるしかないのだぞ。


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8 コメント

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地震の時の旅行は金沢だったんですか? (鹿島田の純)
2018-01-08 06:12:37
金沢は親父の母校があったので(旧制四校)家族でよく行きましたよ。兼六園や忍者寺やいしかわ四校記念公園や近江町市場等見る所は沢山あり、また食べ物も魚が美味しいですよね~!旦那さんのブーツは見た目はカッコよく温かいでしょうけど脱いだり穿いたりするのには実用的ではないですね。確かに金沢じゃ地震は感じなかったかな?(笑)次の更新を楽しみに待ってま~す
兼六園 (砂希)
2018-01-08 16:10:32
>鹿島田の純さん

はい、北陸にいました。
金沢にいたのは5日の午前までですから、地震のときは和倉に移動していたかも?
忍者寺には行きませんでした。
何しろ天気が悪いものですから、早く帰りたくなったんです。
でも、相当な人気みたいで驚きました。
兼六園には行きましたが、いつアップするか悩みます。
盛りだくさんで楽しい旅行ができました。
雪の金沢 (白玉)
2018-01-09 21:01:26
金沢は何度か行ってますが、冬はまだです。
足元が悪かったり寒かったりで、お疲れになったでしょう。
ダンナ様のブーツ、カッコいいですね。
脱がなくてよかったら、最高でしたのに。
さすが百万石、見どころ満載でしたね。
ご近所 (砂希)
2018-01-10 20:30:35
>白玉さん

ご近所というか、お隣さんというか(笑)
お近くでいいなぁ。
暑い夏に灼熱の高知に行ったり、寒い冬に積雪の金沢に行ったり、何だかな~という旅行ばかり(笑)
でも、北陸は冬がおススメと情報誌に書いてありました。
海の幸が充実しているからですって。
防水でない靴ならば、着脱しやすいタイプが多いのに。
金沢に友人がいます。
彼女のイチオシは桜の時期でした。
金沢城はキレイなんだろうなぁ……。
【幻】 (心機朗)
2018-01-14 00:15:38
年始は金沢だったんですか…。
僕も兼六園に行ったような記憶があるから、たぶん金沢に行ったんだろうけど、何のタイミングで行ったのか?さっぱりですわ。
いいものを見て、食べて、濃~い旅だったみたいですね。ミキさんも大学3年ですか?この先、親子3人での旅って、もう幾らか経つと、難しくなってくるんじゃないですかね。でも、その先に4人で…、+αの人数で旅が出来る時期がくるといいですね。
ファイナル (砂希)
2018-01-14 11:42:26
>心機朗さん

そうですね、来春から社会人になる予定ですから、家族旅行もあとわずか。
4人での旅行が実現する日が来るのでしょうか。
彼氏ができたためしもなく、ちょっと難しいような……。
兼六園は雪だらけでよく見えませんでした。
香川の栗林公園のほうがキレイだったかもしれません。
兼六園に行く途中で迷いました。
地元の方がすぐに声をかけてきて、入口まで案内してくれました。
居心地のよい街には、また行きたくなります。
リアルタイムで (Hikari)
2018-01-16 07:18:15
更新されるとすぐに読んでいるのに、スマホからコメントするのが誤字まみれになるから億劫なうちに半月過ぎてしまいました。ごめんなさい。
ご主人と同じ型の暖かい靴を持っていますが、あれほどほしかったのに面倒で、滅多に履きません。秋田の帰省でも置いてきぼりでした。
旅行の靴には防水とファスナーが欠かせませんな!
お気になさらず (砂希)
2018-01-16 19:22:29
>Hikariさん

のどの調子はよくなりましたか?
コメントは気が向いたらで構いませんよ。
読み逃げと言う方もいらっしゃいますが、私は来ていただけるだけで嬉しいので。
旅行に備えて私もブーツを買いました。
スーパーの2階で売っている超安物ですが、ボア付きで暖かいところは正解です。
ケチってペラペラのレインブーツを履いていったら凍死したかも……。
1400円くらいだったと思いますから、寒い時期はどんどん履いて元をとります♪

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