月曜の朝は眠い。
ひとまず、身支度をして職場に向かうと、すでに何人もの職員が仕事を始めていた。
「おはようございます。これ、どうぞ」
年配の村田さんが、小さな包みをそっと差し出してきた。そうか、今日はホワイトデー。バレンタインデーに配った義理チョコの、お返しをいただいたらしい。
「ありがとうございます」
袋の口から花柄の缶が目に入る。どうもクッキーのようだ。安物のチョコに対して、豪華過ぎないか? 気が引けると言いつつも、いただいちゃうけど……。
その日は朝イチで会議があった。11時頃戻ってくると、今度はチョコレートとおぼしき小さな箱が、机のすみっこにひっそりと置かれていた。
「ややっ、これはこれは」
箱には小さなメモがついていた。
「いつも遅くまでお疲れ様です。甘いものでリフレッシュしてください」
チョコもうれしいが、どちらかというと、こういうメッセージの方に惹かれる。食べ物はなくなってしまうけど、メモはちゃんと保管しておこうと決めた。
「でも誰からだろう。名前が書いてないや」
筆圧や字の雰囲気から男性との目星はついた。あとは消去法だ。
「イシカワさんの字に似ているけど、あの人は絶対、自分の名前を書くだろうな」
まずは、名乗るほどの者じゃないし、といった奥ゆかしさのある人を絞り込むことにした。アピールの強い人はここで候補から外される。
次に筆跡鑑定をしたかったのだが、職員とのやりとりがメールや活字ばかりで、直筆が少ないことに気づいた。これでは誰だかわからない。
「そうだ、日直日誌は?」
予想通り、日直日誌は手書きで一日の様子を記入するので、筆跡鑑定の手がかりが豊富にあった。日付順に、メモの字に似た筆跡を追ったところ、英語科のヨシダ先生らしいとわかった。長身で20代、ユニークな授業が持ち味の彼にはファンが多い。バレンタインのチョコをたくさんもらったと話していたから、ひょっとしてお返しが余り、私のところにもおすそ分けとなったのではないか。
「そうか、ヨシダさんね。では安心していただこう」
チョコレートはすぐに食べてしまったが、たしかこんな感じだったはず。
昼休みになって、ようやくヨシダ先生が席に戻ってきた。
「ヨシダ先生、ごちそうさまでした。美味しかった」
振り向いた彼は「あれっ」という表情のあとで、ニッと笑った。
「ならよかったです。僕ってわかりましたか?」
「はい。筆跡鑑定しちゃったから」
「こえ~!」
「あははは」
私は4月から別の職場に異動することになった
こんなやりとりができるのも、あと2週間。
いい学校にご縁があり、幸せだったと思う。
↑
クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
ひとまず、身支度をして職場に向かうと、すでに何人もの職員が仕事を始めていた。
「おはようございます。これ、どうぞ」
年配の村田さんが、小さな包みをそっと差し出してきた。そうか、今日はホワイトデー。バレンタインデーに配った義理チョコの、お返しをいただいたらしい。
「ありがとうございます」
袋の口から花柄の缶が目に入る。どうもクッキーのようだ。安物のチョコに対して、豪華過ぎないか? 気が引けると言いつつも、いただいちゃうけど……。
その日は朝イチで会議があった。11時頃戻ってくると、今度はチョコレートとおぼしき小さな箱が、机のすみっこにひっそりと置かれていた。
「ややっ、これはこれは」
箱には小さなメモがついていた。
「いつも遅くまでお疲れ様です。甘いものでリフレッシュしてください」
チョコもうれしいが、どちらかというと、こういうメッセージの方に惹かれる。食べ物はなくなってしまうけど、メモはちゃんと保管しておこうと決めた。
「でも誰からだろう。名前が書いてないや」
筆圧や字の雰囲気から男性との目星はついた。あとは消去法だ。
「イシカワさんの字に似ているけど、あの人は絶対、自分の名前を書くだろうな」
まずは、名乗るほどの者じゃないし、といった奥ゆかしさのある人を絞り込むことにした。アピールの強い人はここで候補から外される。
次に筆跡鑑定をしたかったのだが、職員とのやりとりがメールや活字ばかりで、直筆が少ないことに気づいた。これでは誰だかわからない。
「そうだ、日直日誌は?」
予想通り、日直日誌は手書きで一日の様子を記入するので、筆跡鑑定の手がかりが豊富にあった。日付順に、メモの字に似た筆跡を追ったところ、英語科のヨシダ先生らしいとわかった。長身で20代、ユニークな授業が持ち味の彼にはファンが多い。バレンタインのチョコをたくさんもらったと話していたから、ひょっとしてお返しが余り、私のところにもおすそ分けとなったのではないか。
「そうか、ヨシダさんね。では安心していただこう」
チョコレートはすぐに食べてしまったが、たしかこんな感じだったはず。
昼休みになって、ようやくヨシダ先生が席に戻ってきた。
「ヨシダ先生、ごちそうさまでした。美味しかった」
振り向いた彼は「あれっ」という表情のあとで、ニッと笑った。
「ならよかったです。僕ってわかりましたか?」
「はい。筆跡鑑定しちゃったから」
「こえ~!」
「あははは」
私は4月から別の職場に異動することになった
こんなやりとりができるのも、あと2週間。
いい学校にご縁があり、幸せだったと思う。
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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
手書き作業は減りましたが、ゼロにならないと思います。
何でもPCでは味気ないし。
ディジタル音痴はいなくなりません(笑)
そのうち人類は字が書けなくなったりしませんかね~。
残りわずかの今年度を楽しみたいと思います。
そういえば、そんなこともありましたね。
「文は人なり」と言うので、全体感で捉えるのが大事かも。
特徴のない人だと難しいと思いますが。
ブログのコメントには筆跡ないし~(笑)
ディジタル化が進んで行くと、味気ない世の中になりそうです。
仕事そっちのけで筆跡鑑定していました(笑)
気になっちゃってついつい。
文字の全体感を見ると、すぐわかります。
結構しつこい性格かも……。
おかげで贈り主もわかり、めでたし。
もうすぐ異動だと思うと、毎日が貴重。
素敵な思い出も増えて、よかったです。
メモの筆跡鑑定しちゃうなんてすごいです。