これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

2022 三姉妹忘年会

2022年12月04日 21時54分02秒 | エッセイ
 東京には「意地でも手袋をはめない」人もいるが、私はそうではない。家を出た瞬間、コートのポケットからレンガ色の手袋を取り出し暖まる。肌がカサカサにならず、寒さも和らいで一石二鳥だ。
 しかし、人差指の部分に小さな穴が空いてしまった。
「ああっ、自転車に乗ったせいかも。新しいのを買わなくちゃ」
 その日はちょうど、忘年会の食材を買いに駅ビルまで行く用事があった。12月になると、姉と妹と3人で料理を持ち寄り、飲んでしゃべって一年の締めくくりをする。ビルの1階がスーパー、3階に雑貨が売られているので、ついでに覗いてみようと決めた。
「うーん、どれにしよう」
 たくさんの手袋を前にして私は迷った。よさそうなデザインを見つけたはいいが、ベージュ、黒、グレーの3色あって、どれも捨てがたい。さあ、どうしよう。
 ふと、名案が浮かんできで、そそくさと会計をすませた。
「さて、スーパーに行こう」
 今回は姉があれこれ作ってくれるらしい。私が用意するのはカボチャの素揚げ、アボカドにわさびマヨネーズをかけて焼いたココット、瓶詰のアラビアータを和えた切り干し大根しかないから、買い物も楽だ。
 忘年会当日は、料理を持って昼過ぎに家を出た。目指すは姉のマンションだ。
 最寄り駅に着き、改札を出たところで、宗教の勧誘と思しき怪しい女が近寄ってきた。私はよく、この手の人種に声を掛けられるので、無視してやり過ごそうとしたが、ちょっと違ったようだ。
「ねえ、姉さんじゃないの?」
「えっ!?」
 怪しい女ではなく、それは妹だった……。
 メガネを掛けていないと、こういうことが起きるので気をつけねば。
「どれから飲む?」
 姉がシャンパーニュを調達してくれた。うちではなかなか飲めないのでウレシイ。



 しかし、味の違いがわかるわけでもなく、おまかせにする。
 私の料理も皿に盛りつけられた。



 お互いの家族のこと、仕事のこと、両親のこと、話題は尽きない。
「じゃあ、シチューを温めるね」



「おいし~い♪」
 コロナ禍で姉は料理の腕を上げたようだ。クリーミーで口当たりのよいシチューだった。
「漫勉見ようよ」
「うん」
 いつから、忘年会になると「浦沢直樹の漫勉」を見るようになったのか。



 リラックスしたせいか、私は眠ってしまったらしい。
「はっ」
 目覚めたら22時だった。いかんいかん。
「あら起きたの。じゃあケーキにしようか」
 デザートは、宗教の勧誘に間違えられた妹が調達してくれた。私も寝ぼけながら、バッグから手袋の入った包みを取りに行く。



「これはナニ?」
 姉も妹も、珍しいものを見るような目を向けてきた。
「大したものじゃないんだけど、プレゼントよ」
 つまり、私はあのとき、ベージュと黒とグレーの手袋3つを買ったのだ。先に姉と妹に選んでもらい、残った色を自分のものにしようと決めた。
「じゃあ、これもらうね」
「ありがとう」
 さて、何が残っているのやら。色違いを姉妹で持っているというのもいいだろう。
 ラ・メゾンのケーキは久しぶり。



 こってり感とフルーツのみずみずしさが好きだ。
 デザートのあとは帰るだけとなる。
「おやすみ」
「ごちそうさま」
 家に着き、包みを開けてみた。



「ああ、グレーだったのね」
 タグを取り、右手をそっと中に入れる。
 ふわふわで柔らかなボアに包まれ、手のひらが暖かくなった。
 この冬はこの手袋で乗り切ろう。

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コメント (6)
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