これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

お肌にアイロンを!

2017年09月24日 20時57分55秒 | エッセイ
 以前はローションパックにはまっていた。
 薄く剥がしたコットンに化粧水をたっぷり浸し、肌に貼ったあと、上からラップを重ねて蒸しタオルを当てれば、お肌の張りが戻る。いわば、アイロンの要領である。しかし、コットンを貼る手間がかかるのと、化粧水がジャンジャン減っていくのが悲しくて、新しい方法を考え出した。
 まずは、洗顔する。化粧水を塗ったあと、ラップはせず、直に蒸しタオルを当てる。蒸している間は、床にごろ寝をして腸のマッサージ。これで便秘対策もバッチリだ。毛穴が開いたところで、再度化粧水を塗り、クリームで仕上げる。ショボショボしていた目もシャキッとするし、楽して化粧のりがよくなるから気に入っていた。
 しかし、先週は忙しかった。夏休みにのんびりし過ぎたせいか、娘の弁当再開がやけにツラくて、毎朝時間と戦っていた。
「ああ、もうこんな時間。蒸しタオルはいいや~」
 と、連日スルーしたせいか、週末にはお肌がボロボロである。張りを失った頬がたるみ、ほうれい線が目立つ。顔色も冴えず、肌が薄汚く見える。これはいかん。
「大変、大変。早く蒸しタオルをしなくちゃ」
 あわてて土日は手当てをした。おかげで、ちょっとは張りが戻ってきたが、明日からまた怠けたら、老け顔一直線となるに違いない。時間的には、5分余分にかかる程度である。鏡を覗き込んだときの焦りを忘れずに、弁当と両立させねばならぬ。
 そんなお肌事情とは関係なく、来月末で切れる職員証の更新手続きを始めた。
「3cm×4cmのカラー写真と、この申請書を提出してください」
 担当者に書類を渡され、娘のアイフォンで写真を撮ってもらった。これまでは、デパートの写真館で撮影し、肌を明るくしてもらったり、目を大きく、口角を上げるなどの修正が欠かせなかった。しかし、自宅でもキレイに撮れるアプリがあると聞き、ためしにトライしたというわけだ。
「撮れたよ。うーん、ちょっと盛り過ぎた」
「どれどれ。あっ、これはすごい!」
 カメラ360というアプリのプリクラモードで撮った私は、別人のように若返っていた。
 拡大して見ると、まつげが3倍くらい長くなっているし、頬がうっすらとピンク色に輝き、地味な唇は華やかな赤に変身している。目もひと回り大きくなったようだ。シミやソバカスは無視されるのか、写っていなかった。女心を実によく理解していて、何と賢いことか。
 それに引き換え、デジカメは忠実だ。まぶたの下がり具合に、くすんだ肌やカサカサした唇もバカ正直に写すものだから、「ムキキ~!」と腹が立って仕方ない。誰が、こんな写真を職員証にするものか。
 念のため、盛れた写真を同僚女性に見せてみた。
「ねえこれ、職員証に使っていいと思います?」
「あっ、すごい。こんな風に撮れるんですね。全然問題ないですよ。就活で使う写真だって、修整するんですから」
「それもそうですね。じゃあ、これにしようっと」
「当然ですよ」
 さて、私はこれから毎朝、蒸しタオルをサボらないようにしなくては。
 写真の自分に近づこうとするなんて、考えてみたらおかしな話だけどね。


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