これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

2017 おねだり母の日

2017年05月14日 21時48分52秒 | エッセイ
 今日は母の日だが、大学生の娘は出かけている。帰りは夜だ。何か買ってあげるとも言われていない。
「ママ、カーネーション買ってきたよ」
 夫が気を利かせたつもりで、スーパーから戻ってきた。気持ちはありがたいのだが、1輪だけというのが引っかかる。
「ありがとう。でも、おばあちゃんのは?」
「おふくろの?」
 義母は認知症を患い寝たきりだ。二世帯住宅の一階に住んでいるから、これをあげればいいのにと思った。
「おばあちゃん、花が好きだったじゃない。きっと喜ぶよ」
「そうだな。じゃあ、そうさせてもらうよ」
 カーネーションは夫に連れられ、階段を下りていった。



 義母のそばには、夫の弟がいたらしい。
「おふくろ、起きてる? カーネーションなんだけど」
「今トイレ。ああ、花瓶がキレイだね」
 おっと、花瓶かい……。どうにも嚙み合わない会話である。男の兄弟は、こんなものなのだろうか。
 ともあれ、義母は母の日であることを理解し、大喜びしたとか。
 めでたし、めでたし。
 携帯電話を取り出し、娘にメールを送る。スマホではなくガラケーだ。
「母の日スイーツは、ねんりん家のバウムクーヘンがいいな~」
 私の母は、意外に控えめな人間で、自分から〇〇が欲しいなどとは決して言えない。思っていても口に出せないのである。察してくれるのを待ち、もらえなかったら我慢する。子どもの側からすれば、「言ってくれればいいのに」となるから、不思議で仕方なかった。
 そんな母には先に、クッキーとチョコレート、ドリップコーヒーを渡してある。これで安心だ。
 夕方になり、やっと娘から返信がきた。
「わかった。お店で電話するから、何を買えばいいのか決めておいて」
 やった~!
 




 賞味期限が先の、丸いものからいただいた。ふわふわしていて、口当たりがよい。いくらでも食べられそうだが、血糖値を心配して4分の1にとどめておく。
 細いほうは21日まで日持ちする。でも、その前に確実になくなるだろう。
「おいしい」
 夫も娘もガバガバ食べている。義母はすっかり食が細くなり、スイーツどころではなくなった。元気に食べられるうちが華である。
 実は、スイーツだけでなく、他にも欲しいものがあった。
「ねえ、今度は黒のワイシャツ買って~。ワンピースの下に合わせたいのよね」
「…………」
 バイト代が入り、娘の懐が潤っていることは知っている。断られなかったから、近いうちに買ってくれるだろう。
 図々しいくらいがちょうどいい、ってことでいいかしら。


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コメント (9)
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