今日は母の日だが、大学生の娘は出かけている。帰りは夜だ。何か買ってあげるとも言われていない。
「ママ、カーネーション買ってきたよ」
夫が気を利かせたつもりで、スーパーから戻ってきた。気持ちはありがたいのだが、1輪だけというのが引っかかる。
「ありがとう。でも、おばあちゃんのは?」
「おふくろの?」
義母は認知症を患い寝たきりだ。二世帯住宅の一階に住んでいるから、これをあげればいいのにと思った。
「おばあちゃん、花が好きだったじゃない。きっと喜ぶよ」
「そうだな。じゃあ、そうさせてもらうよ」
カーネーションは夫に連れられ、階段を下りていった。
義母のそばには、夫の弟がいたらしい。
「おふくろ、起きてる? カーネーションなんだけど」
「今トイレ。ああ、花瓶がキレイだね」
おっと、花瓶かい……。どうにも嚙み合わない会話である。男の兄弟は、こんなものなのだろうか。
ともあれ、義母は母の日であることを理解し、大喜びしたとか。
めでたし、めでたし。
携帯電話を取り出し、娘にメールを送る。スマホではなくガラケーだ。
「母の日スイーツは、ねんりん家のバウムクーヘンがいいな~」
私の母は、意外に控えめな人間で、自分から〇〇が欲しいなどとは決して言えない。思っていても口に出せないのである。察してくれるのを待ち、もらえなかったら我慢する。子どもの側からすれば、「言ってくれればいいのに」となるから、不思議で仕方なかった。
そんな母には先に、クッキーとチョコレート、ドリップコーヒーを渡してある。これで安心だ。
夕方になり、やっと娘から返信がきた。
「わかった。お店で電話するから、何を買えばいいのか決めておいて」
やった~!
賞味期限が先の、丸いものからいただいた。ふわふわしていて、口当たりがよい。いくらでも食べられそうだが、血糖値を心配して4分の1にとどめておく。
細いほうは21日まで日持ちする。でも、その前に確実になくなるだろう。
「おいしい」
夫も娘もガバガバ食べている。義母はすっかり食が細くなり、スイーツどころではなくなった。元気に食べられるうちが華である。
実は、スイーツだけでなく、他にも欲しいものがあった。
「ねえ、今度は黒のワイシャツ買って~。ワンピースの下に合わせたいのよね」
「…………」
バイト代が入り、娘の懐が潤っていることは知っている。断られなかったから、近いうちに買ってくれるだろう。
図々しいくらいがちょうどいい、ってことでいいかしら。
↑
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※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
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夫が気を利かせたつもりで、スーパーから戻ってきた。気持ちはありがたいのだが、1輪だけというのが引っかかる。
「ありがとう。でも、おばあちゃんのは?」
「おふくろの?」
義母は認知症を患い寝たきりだ。二世帯住宅の一階に住んでいるから、これをあげればいいのにと思った。
「おばあちゃん、花が好きだったじゃない。きっと喜ぶよ」
「そうだな。じゃあ、そうさせてもらうよ」
カーネーションは夫に連れられ、階段を下りていった。
義母のそばには、夫の弟がいたらしい。
「おふくろ、起きてる? カーネーションなんだけど」
「今トイレ。ああ、花瓶がキレイだね」
おっと、花瓶かい……。どうにも嚙み合わない会話である。男の兄弟は、こんなものなのだろうか。
ともあれ、義母は母の日であることを理解し、大喜びしたとか。
めでたし、めでたし。
携帯電話を取り出し、娘にメールを送る。スマホではなくガラケーだ。
「母の日スイーツは、ねんりん家のバウムクーヘンがいいな~」
私の母は、意外に控えめな人間で、自分から〇〇が欲しいなどとは決して言えない。思っていても口に出せないのである。察してくれるのを待ち、もらえなかったら我慢する。子どもの側からすれば、「言ってくれればいいのに」となるから、不思議で仕方なかった。
そんな母には先に、クッキーとチョコレート、ドリップコーヒーを渡してある。これで安心だ。
夕方になり、やっと娘から返信がきた。
「わかった。お店で電話するから、何を買えばいいのか決めておいて」
やった~!
賞味期限が先の、丸いものからいただいた。ふわふわしていて、口当たりがよい。いくらでも食べられそうだが、血糖値を心配して4分の1にとどめておく。
細いほうは21日まで日持ちする。でも、その前に確実になくなるだろう。
「おいしい」
夫も娘もガバガバ食べている。義母はすっかり食が細くなり、スイーツどころではなくなった。元気に食べられるうちが華である。
実は、スイーツだけでなく、他にも欲しいものがあった。
「ねえ、今度は黒のワイシャツ買って~。ワンピースの下に合わせたいのよね」
「…………」
バイト代が入り、娘の懐が潤っていることは知っている。断られなかったから、近いうちに買ってくれるだろう。
図々しいくらいがちょうどいい、ってことでいいかしら。
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