これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

高齢化の波

2015年06月04日 21時35分06秒 | エッセイ
 今や、4人に1人が高齢者という時代である。笹木家も例外ではなく、隣接した4世帯のうち、3人に1人が65歳以上だ。
「テレビの音が大きいね」
 我が家の1階に住む義母は耳が遠い。補聴器は頭痛がするからと言ってつけず、音量を最大の50にしてしまう。ニュース番組を見ているのか、バラエティ番組を見ているのか、2階にいてもわかるほど音が大きい。この頃は暑くて窓を開けているから、近所迷惑になっているのではないかと心配になる。
「うるさいから、ボリューム下げてくる」
 息子である夫が動き、やっと音が小さくなる。でも、5分も経てば、義母は注意されたことをすっかり忘れ、また音量を50に戻すのだ。
 高齢者とのつきあいには根気がいる。
 夫も高齢者だから、従兄弟たちも高齢者である。先日はこんなことがあった。
「ルルルルル、ルルルルル」
 義母宅の電話が、これまた最大音量で鳴り響いていた。音が大きいと、「ブブブブブ、ブブブブブ」と聞こえて耳障りだ。しかし、義母の耳には届かず、いつまでも鳴り続けている。
「しょうがないな。取ってくる」
 夫が贅肉のついた腰を上げ、電話を受けにドスドス歩いて行った。すぐに、しかめ面で戻ってきた。
「ダメだよ、ピーッって音がするだけで、誰だかわからない」
「ああ、それはFAXだね。おばあちゃんちの電話にはFAXがついていないから、送信できないのに」
 普通だったら、エラーが出た時点で諦めるはずなのだが、この人はそうではなかった。「またダメだった、今度こそ」と考えたのか、繰り返し繰り返し、何十回もFAXを送り続けるのである。
「ブブブブブ、ブブブブブ」
「ブブブブブ、ブブブブブ」
「ブブブブブ、ブブブブブ」
 聞こえの悪い義母は気づかないが、2階の私たちにとっては相当なストレスだった。これはたまらない。
 どうしたものかと思案していたら、今度はうちの電話が鳴り始めた。
「ピー、ピー」
 FAXだ。送信者を見ると、夫の従兄弟になっている。従兄弟同士の交流会を企画したので、ぜひ来てくださいとの内容であった。
「わかった、おばあちゃんのFAXも、こいつが送ったんだ。いつも実家にかけてくるヤツだから」
 うちに届くとわかれば、それで一件落着となるはずだったのだが……。
「ブブブブブ、ブブブブブ」
「ブブブブブ、ブブブブブ」
 相変わらず、1階の電話が鳴っている。受話器を取れば「ピー」。もし、例の従兄弟だとしたら、FAXの届いた番号を忘れてしまったとしか思えない。
 いい加減ウンザリして、義母の電話機の音量をゼロにしてしまった。もう解約した方がいいだろう。
 呼び出し音は聞こえなくなったが、やはりテレビの音は聞こえてくる。
「5日は夕方から雨でしょう」
 今度は天気予報を見ているらしい。夫がまた、お腹の肉をブルルと震わせ、義母のもとへ向かう。
 高齢者の相手は、本当に根気がいる……。


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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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コメント (12)
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