オーブントースターの扉を開けると、つられるように、焼き網が体を伸ばした。思ったより、幅が広いことを確認し安堵する。
昨年、どこぞの学園祭でアツアツの焼き立て煎餅をいただき、でき立ての香ばしさから煎餅愛が芽生えている。たまたま生協のカタログに、「オーブントースターで3分焼いてできあがり」という煎餅生地が載っており、勢いで買ってみた。
ところが、落としぶたのようにバカでかい生地が届き、「大きいけど入るかしら」と困惑していたところである。でも、これなら何とかなりそうだ。
袋を開けて生地を出す。5mmほどの厚さがあり、やたらと硬くておしろいを塗ったように白い。舞妓さんのように、赤い口紅が似合いそうだ。中心部には空気抜きと思われる穴が、6か所開いていた。
焼き網に生地を載せ、扉を閉める。そそくさと、網が奥に引っ込んだ。あとはツマミを3分にセットして待つだけだ。ほんわかと、餅の焼けるようないい匂いが漂ってきた。
チ~ン。
もう一度、扉を開けて驚いた。先ほどの色白な舞妓さんは、日焼けサロンで小麦色に変身しているではないか。平板な生地が膨らみクレーターに似た凹凸が出現すると、まん丸のお月様に見えてきた。
刷毛で醤油を塗ると、月はジュッと声を上げた。「もっと優しく塗りなさいよ」と叱るみたいに。それではと丁寧に重ね塗りをして、褐色のお月様に変身させる。
「ねえ、焼き立て煎餅食べる?」
夫と娘に勧めてみたが、「いらない」と冷たく断られた。煎餅愛を抱いているのは私だけなのだろうか。醤油を塗って塗って塗りまくっても、パリパリした歯ごたえがたまらないのに。
月のウサギが餅をつく、という伝説は嘘だ。
本当は、うるち米をついていて、煎餅を作っているに違いない。
↑
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※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
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ところが、落としぶたのようにバカでかい生地が届き、「大きいけど入るかしら」と困惑していたところである。でも、これなら何とかなりそうだ。
袋を開けて生地を出す。5mmほどの厚さがあり、やたらと硬くておしろいを塗ったように白い。舞妓さんのように、赤い口紅が似合いそうだ。中心部には空気抜きと思われる穴が、6か所開いていた。
焼き網に生地を載せ、扉を閉める。そそくさと、網が奥に引っ込んだ。あとはツマミを3分にセットして待つだけだ。ほんわかと、餅の焼けるようないい匂いが漂ってきた。
チ~ン。
もう一度、扉を開けて驚いた。先ほどの色白な舞妓さんは、日焼けサロンで小麦色に変身しているではないか。平板な生地が膨らみクレーターに似た凹凸が出現すると、まん丸のお月様に見えてきた。
刷毛で醤油を塗ると、月はジュッと声を上げた。「もっと優しく塗りなさいよ」と叱るみたいに。それではと丁寧に重ね塗りをして、褐色のお月様に変身させる。
「ねえ、焼き立て煎餅食べる?」
夫と娘に勧めてみたが、「いらない」と冷たく断られた。煎餅愛を抱いているのは私だけなのだろうか。醤油を塗って塗って塗りまくっても、パリパリした歯ごたえがたまらないのに。
月のウサギが餅をつく、という伝説は嘘だ。
本当は、うるち米をついていて、煎餅を作っているに違いない。
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