母は夕方になると買い物に出かけた。私が小学生だったときは、スーパーではなく、近所の商店街を利用していた。
しかし、その日は出かけようとしない。
「財布の中から、400円がなくなってるよ。誰かとったでしょ」
母は、小銭が減っていることに腹を立て、娘たちを疑っていた。
「アタシはとってないよ」
まったく身に覚えのない話に仰天した。
「アタシも」
「アタシだって」
姉と妹も同様だった。おそらく、勘違いではないかと思うが、母は頑として譲らなかった。
「正直に言わないと、おやつはなしだからね」
「えー」
私はおやつが食べたかった。400円さえあれば、買ってもらえると安易に考え、自分の財布から100円玉を取り出した。
「お母さん、400円あるよ。これで買ってきて」
小学生に400円の出費は痛かったが、シュークリームが食べたい一心で、自腹を切ることにした。
ところが、そんなに単純なものではなかったようだ。
「そうか、砂希が犯人だったんだね」
母は鬼のような形相で私をにらみ、400円をひったくると、さっさと自分の財布に収めた。
「おやつは?」
「あるわけないでしょ! どろぼうしたくせに、何言ってんの」
これはショックだった。盗っ人呼ばわりされた上に、400円は没収。おやつはなし。抗議したけれど、到底受け入れてもらえない。余計なことをすると、疑われるのだと初めてわかった。
何年かあとにも、母の誤解がとけていなかったと知ったときは、さらに悔しかった。
「砂希が、お母さんの財布から、小銭を盗んだときがあったね」
何を言っても、母の記憶は塗り替えられない。もういいやと諦めた。
なぜ、そんなことを思い出したかというと、バレンタインデーに姉からチョコレートをもらったからだ。
デメルの猫ラベル。
フサフサの毛並みを見ると、どろぼう猫からは程遠い、育ちのいいニャンコのようだ。
猫の舌をあしらったような、チョコレートの形も愛らしい。
こういう猫だったら、たとえ食卓から焼き魚がなくなっても、「この子じゃないわよねぇ」と素通りされるに違いない。
昨日は、さらに追い打ちをかける出来事があった。
私が夕食係のときは、ときどきモロヘイヤのおひたしを作る。だが、昨日のモロヘイヤは、なぜか量が少なかった。サラダボウルに入れたはいいが、夫と娘と三等分したら、一人分が少なくなってしまう。遠慮して、ひと口だけで終わらせたのだが……。
「あっ、今日のモロヘイヤ、ちょっとしかない。お母さん、取りすぎたでしょ」
娘のひと言が突き刺さった。
さあさ、猫ラベル食べて、元気出しましょっ!
↑
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※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
しかし、その日は出かけようとしない。
「財布の中から、400円がなくなってるよ。誰かとったでしょ」
母は、小銭が減っていることに腹を立て、娘たちを疑っていた。
「アタシはとってないよ」
まったく身に覚えのない話に仰天した。
「アタシも」
「アタシだって」
姉と妹も同様だった。おそらく、勘違いではないかと思うが、母は頑として譲らなかった。
「正直に言わないと、おやつはなしだからね」
「えー」
私はおやつが食べたかった。400円さえあれば、買ってもらえると安易に考え、自分の財布から100円玉を取り出した。
「お母さん、400円あるよ。これで買ってきて」
小学生に400円の出費は痛かったが、シュークリームが食べたい一心で、自腹を切ることにした。
ところが、そんなに単純なものではなかったようだ。
「そうか、砂希が犯人だったんだね」
母は鬼のような形相で私をにらみ、400円をひったくると、さっさと自分の財布に収めた。
「おやつは?」
「あるわけないでしょ! どろぼうしたくせに、何言ってんの」
これはショックだった。盗っ人呼ばわりされた上に、400円は没収。おやつはなし。抗議したけれど、到底受け入れてもらえない。余計なことをすると、疑われるのだと初めてわかった。
何年かあとにも、母の誤解がとけていなかったと知ったときは、さらに悔しかった。
「砂希が、お母さんの財布から、小銭を盗んだときがあったね」
何を言っても、母の記憶は塗り替えられない。もういいやと諦めた。
なぜ、そんなことを思い出したかというと、バレンタインデーに姉からチョコレートをもらったからだ。
デメルの猫ラベル。
フサフサの毛並みを見ると、どろぼう猫からは程遠い、育ちのいいニャンコのようだ。
猫の舌をあしらったような、チョコレートの形も愛らしい。
こういう猫だったら、たとえ食卓から焼き魚がなくなっても、「この子じゃないわよねぇ」と素通りされるに違いない。
昨日は、さらに追い打ちをかける出来事があった。
私が夕食係のときは、ときどきモロヘイヤのおひたしを作る。だが、昨日のモロヘイヤは、なぜか量が少なかった。サラダボウルに入れたはいいが、夫と娘と三等分したら、一人分が少なくなってしまう。遠慮して、ひと口だけで終わらせたのだが……。
「あっ、今日のモロヘイヤ、ちょっとしかない。お母さん、取りすぎたでしょ」
娘のひと言が突き刺さった。
さあさ、猫ラベル食べて、元気出しましょっ!
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