これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

衣替えの心理

2010年06月03日 20時43分03秒 | エッセイ
 6月といえば、衣替えである。
 ウン十年前、中学、高校に通っていたころは制服があったので、5月の終わりになると先生がこう言った。
「明日から6月です。夏服で登校しましょう」
 5月も中旬を過ぎると、半袖でも過ごせるくらい暑い日がある。冬服では大汗をかき、「早く夏服にしてくれ~」と悲鳴をあげる。だが、肝心の衣替えを迎えると、雨雲がしゃしゃり出てきて太陽を隠し、打って変わって寒くなることがあった。
 それでも、私は半袖のワイシャツを用意した。
「今日は寒いわよ。長袖でいいんじゃない」
 母は、臨機応変な服装を勧めるが、聞いたためしがない。
「やだ。みんな半袖で来るもん。ちょっとぐらい寒くたって大丈夫」
 鳥肌を立てながら腕を出し、肩をすぼめて登校する。教室に入ると、予想通り、クラスメイトの大部分が半袖だ。私の判断は間違っていなかったと胸をなでおろす。
 決して、「先生が夏服と言ったから」という理由ではない。少し寒いからといって長袖に頼るのは、自分に負けるような気がしたからだ。「こんな寒さがなんぼのものじゃ」と強がり、半袖を着て気骨のあるところを見せるのが、私の世代では普通だった。
 裏を返せば、融通が利かないともいえるだろう。
 一方、堂々と長袖を着てくる生徒もいた。「この寒いのに半袖なんか着ちゃって、バカじゃないの!?」と言わんばかりの態度である。彼らは合理的で柔軟性があるけれども、根性なしと見なされ、いざというとき頼りにされなかった。
 もっとも、やせがまんするのは登下校だけで、教室の中は生徒の体温で温かい。「まるで牛小屋の原理だな」と私は思った。

 やがて時代は変わった。
 今の中学・高校では制服の移行期間というものがあって、「5月×日から6月×日までは、冬服でも夏服でも、どちらでも構いません」と決めている学校が多い。もはや、精神論などの出番はないようだ。
 さぞかし過ごしやすいだろうと思いきや、衣替えという線引きがなくなったことにより、いつまでも冬の格好をしたままの生徒があらわれるようになった。彼らは、7月の暑いときでも、長袖のワイシャツにセーターを重ねた服装で授業を受ける。下手すれば、ブレザーを着ていることもある。
「暑くないの?」と聞けば、「暑いです」と返ってくる。だったら、軽装にすればいいのだが、不思議なものだ。
 半袖を着て寒さを我慢するよりも、セーターを羽織って暑さを我慢するほうが、根性がいるかもしれない。
 単なる不精者だったりして……。




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コメント (16)
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