動物行動学といえば、以前コンラート・ローレンツ氏が著した「ソロモンの指環―動物行動学入門」 という本を読んだことがあるのですが、著者の日高敏隆氏はその訳者であり、日本における動物行動学の第一人者でもあります。
本書は、その日高氏によるエッセイ集です。
テーマはタイトルのとおり「ものごとの見方」についてです。キーワードは「イリュージョン」。
(p28より引用) 真理があると思っているよりは、みなイリュージョンなのだと思い、そのつもりで世界を眺めてみてごらんなさい。
世界とは、案外、どうにでもなるものだ。人間には論理を組み立てる能力がかなりあるから、筋が通ると、これは真理だと、思えば思えてしまいます。
スジが通っているからといって真理とは限らない、ちょっと考えてみればそのとおりだと気づくのですが、でもついつい多くの人々はそう思い込んでしまうのです。もちろん私もそのうちのひとりです。
(p36より引用) 人間は理屈にしたがってものを考えるので、理屈が通ると実証されなくても信じてしまう。・・・
・・・科学的にものを見るということも、そういうたぐいのことで、そう信じているからそう思うだけなのではないかということだ。
これは、一流の科学者(動物行動学の第一人者)の言葉であるだけに、とても興味深いものがあります。
(p39より引用) 何が科学的かということとは別に、まず、人間は論理が通れば正しいと考えるほどバカであるという、そのことを知っていることが大事だと思う。
そこをカバーするには、自分の中に複数の視点を持つこと、ひとつのことを違った目で見られることではないかと思う。
ものごとを相対化してみることの大事さの指摘です。相対化してみるツールの「ひとつ」が科学であって、科学は絶対的ではないと著者は強く主張しています。
著者が大事にしたのは「『なぜ』と思う心」と、それを「実証しようとする『行動』」です。
著者は、自らを、生物学が好きなのではなく生物が好きなのだと語ります。生物学者としては異端児的な姿勢でした。
そういう著者を引き立ててくれたのが東京大学の竹脇潔氏であり文筆家の八杉龍一氏でした。著者はそれら先輩達の恩返しの気持ちをこめて後進の研究者を育てました。
(p83より引用) ぼくの周りに集まる学生は、ぼくにくっついて教えてもらって、というタイプではない。ぼくを頂点とする縦の社会ではなく、たまたま横に座って弟子同士、知り合うかもしれないが、ひとりひとりがそれぞれの考えややりたいことを持ち、ぼくと緩やかにつながる関係だと思う。
これはまるで「生物多様性を保った自然環境」のような関係ですね。
(p86より引用) 大事なことはシステムではない。何でもやってみなさいよ、というのがぼくの基本的な立場だ。
会いたい先達がいたら、素直に直接ドアをノックしてみるといい。
案外、その人は、あとに続く世代を引き立てたい、訪ねてくる人にはいつでも会おうと思っているかもしれない。
いいですねぇ。私も、そうしたい、そうなりたいと思う姿勢です。
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