日本の介護の現状には、北欧・西欧諸国と比較して大きな相違があります。
(p219より引用) 米国は公的介護費用負担の割合(対GDP比)が最も低い一方で、私的な介護費用付負担の割合は最も高い。・・・
これに対して、スウェーデンのようにGDPに占める公的費用負担の大きな国は、富裕層と貧困層の間で所得再配分がなされるので、富裕層も貧困層もある程度平等に介護サービスを利用できる。・・・
・・・日本は、公的にも私的にも介護サービスにかける費用が小さい。これは、家族介護が中心的な役割を果たしているためと考えられる。
しかしながら、昨今の単身世帯の急増は、この日本的な「家族介護」の基盤自体を無くさしめていることになります。
では、家族以外による介護はどうか、これも日本では期待薄です。欧米と比較しても、友人・知人・近隣住民・ボランティア団体による支援の厚さには大きな落差があるのです。
(p220より引用) 欧米主要先進国では、家族以外の「その他」の人によるインフォーマル・ケアの割合が高く、3~5割程度を占めている。これに対して日本では、「その他」の割合が3%にすぎず、インフォーマル・ケアの大部分は家族に依存した構造になっている。
著者は、介護者の不足を補うための方策として、「生活支援ロボット」の活用を紹介していますが、これはなかなか面白いアイデアだと思います。100%の作業完遂は無理だとしても、介護には「力仕事」も多くあります。少しでも介護者の負担軽減ができれば、今後予測されている大幅な介護者不足対策のひとつになるでしょう。また、ロボットは、日本が得意としている技術分野ですから、将来の主要産業としての拡大にも期待が持てます。
さて、本書は、多くのページを割いて、単身世帯の増加という2030年時点での日本社会の大きな変貌に警鐘を鳴らしています。
ただ、この点については、すでに(誰が考えても)予想されていることであり、本書の意義といえば、詳細な調査情報に基づく統計的裏づけを示したことで、そのリスクに対する信憑性が高まったということでしょう。
問題は、そもそも社会保障制度を拡充するために、どうやって財源を確保するかです。
その点について、著者は最終章にて言及しています。
結論から言えば、「増税と社会保険料の引き上げ」は不可避とのこと。また社会保障の拡充も必要との立場ですが、これについては、「経済成長の足枷」というよりは、むしろ「経済成長の基盤」になるとの考えです。
(p344より引用) 日本には1400兆円にも及ぶ個人の金融資産があり、国が将来不安の軽減に向けて社会保障を拡充すれば、個人の金融資産の一部が消費に回ることが期待できる。社会保障の拡充は人々に安心感をもたらし、「経済活動の基盤」になりうると考えられる。
ただ困難なのは、具体的にはどうやって実現させるかです。
それが巻末の「中長期的な社会保障ビジョンと、それを賄う財源についての議論から始めなくてはいけない」という提言に止まっているのは、やはり研究所のリサーチャーの方だからでしょうか。
課題認識は非常に重要なポイントを突いているだけに、抽象的な結論は少々残念です。
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