タイトル(不運の方程式)だけからはどんなジャンルの本か分りませんが、内容は「科学」の概説書です。
ちなみに原書のタイトルは「The Undercover Scientist」、直訳すると「覆面科学者」です。著者によると「覆面科学者」とは、「日常生活のなかでちょっとした不運に見舞われたとき、どうしてそうなるかを調べてみる人」とのこと。主人公のある1日に起こった出来事を材料にして、それに関する「科学的な解説」を加えていきます。
たとえば、「立つ・歩く・走る」を採り上げた「七転び八起き」の章ではこんな具合です。
(p100より引用) 私たちはふだん何げなく歩いたり走ったりしているが、ただ立っているだけでも、脳では驚くべき量の計算が行われている。頭のてっぺんから足の先までの間に関節がいくつあるかを考えてみれば、こうした動作の難しさがわかるだろう。転倒せずに体を動かすためには、足首、膝、股関節、首から腰にかけての20以上の関節はもちろん、・・・すべての間接が適切なタイミングで適切な角度に調整されていなければならない。・・・
この問題を大幅に単純化したものは、工学、コンピューター科学、ロケット工学の分野では「倒立振子問題」として知られている。・・・誇張でもなんでもなく、私たちが立ち上がるたびに、脳はロケット工学よりも難しい問題を解いているのだ。
本書で扱っているジャンルは、原子物理学・力学・天文学・化学・生物学・医学・脳科学・コンピュータ工学・・・と極めて多岐にわたります。が、一般の人々を読者として想定しているので、話題も身近なものを扱っていますし、その解説は平易で分りやすく工夫されています。
(p255より引用) トウガラシから抽出されるカプサイシンやこれに似た辛み成分は、油には溶けるが水には溶けない。・・・
それでは、カレーを食べすぎたあとに少しでも早く口のヒリヒリ感を消すには、どうすればよいのだろうか?
・・・水で口をゆすいだ場合、ヒリヒリ感が消えるまでに11分かかるという。・・・圧倒的に早いのは牛乳だ。これは、牛乳に含まれるカゼインというタンパク質と脂肪分が、カプサイシンと口の中の細胞との結合を切り、カプサイシンを洗い流すのを促すからだと考えられている。
著者の手にかかると、「瓶の口から指が抜けなくなった」ことから「解剖学」の話題へ、「鍵を溝に落とした」ことから「相対性理論」の話題へと発展していくのです。
特に、「循環器系」「消化器系」「神経系」「筋肉系」「骨格系」等々の「人体の仕組み」に関する説明を読み進めると、改めて「生命の構造の精緻さ」と「生命の進化の神秘」に驚かされます。
「科学」に対して「ちょっと興味がある」という方ならかなり楽しめると思います。読んでみる価値は十分にありますね。
望むべくは、説明を援ける「図・イラスト」が載せられていれば、科学の初心者にとってもさらに分りやすいものとなったでしょう。
不運の方程式―あなたの「ついてない!」を科学する 価格:¥ 1,575(税込) 発売日:2010-05 |
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