クリス・アンダーソンによる「ロングテール」。図書館の返却棚にあったので、今頃になって思いついたように手に取ったものです。
話題になって数年後のこの手の書籍を読むと、その本の指摘が表層的であったのか時代の変化の本質を捉えていたのかがはっきり分かって興味深いものがありますね。
もちろん、本質的には大きなトレンドを掴んでいたとしても、具体的な仕組みとして予測しきれていなかったケースもあります。
たとえば、「オンデマンド印刷」についての著者のコメントです。
(p121より引用) 本はデジタル・ファイルという理想的な形で保管され、注文が来るとレーザープリンタで印刷され普通のペーパーバックになる。・・・
・・・オンデマンド印刷の経済効率はロングテールを伸ばすだけでなく、投資額の高いヘッドの経済効率まで改善する。・・・オンデマンド印刷技術の導入は加速するにちがいない。
今、起こっていることはご存知の通り「電子書籍」に向かった激流です。アメリカでは、アマゾン自らがKindleを投入しiPadの登場で爆発しました。オンデマンド印刷の貢献は「電子書籍」の波に掻き消えてしまうのでしょう。
もうひとつ、「ニッチな世界の拡大」について。こちらはまだ評価が定まっていない例です。
膨大なロングテールの情報の中から自分の趣味嗜好にあったものだけを取り出すことが可能になると、ひとりひとり、細分化されたニッチな世界を持つことが容易になります。
そこで起こる議論のひとつです。
(p241より引用) 文化が細分化されるのはいいことなのか悪いことなのか。・・・
ローゼンによれば、こうしたテクノロジーがもたらすものは、個人的で狭隘な嗜好ばかり追いかける「エゴ配信」の普及だ。・・・
自分で何もかも管理できるという幻想を抱かせるテクノロジーは、新鮮なものに驚く能力を私たちから奪う危険がある。趣味が洗練されるどころか、一つのことに固執して同じことを繰り返し、結果、感覚が麻痺してしまう。テクノロジーでつくりあげた小さな自分世界に閉じこもり、生まれ持った個性をいかすことは逆に難しくなっていく。
この考え方に対して、著者はこう応えています。
(p242より引用) ローゼンの言うことは正しいのだろうか。僕は疑問だ。実際にはまったく逆のことが起こっているように思える。ニッチの世界は確かに選択肢の多い世界だが、レコメンデーション等のフィルタという強力な助っ人のおかげで、新しいものをどんどん開拓できる。閉ざされはしない。
さて、この二つの意見、どうでしょう。
以前のように一部のマスコミが情報の生成から流通までグリップしている世界は望ましいものではないと思います。が、ある種の基準で選別された情報が(自分が好むと好まないとにかかわらず)流れ込んでくるメリットもあったと思います。「受動的な気づきの機会」です。
他方、すでに現代は、多くの人々が自由に発信する0次情報や1次情報がインターネット上に氾濫している世界です。その中で、人々は何らかの方法で自分が欲する情報を選別・入手しなくてはなりません。その有力な手段が「検索」であり「レコメンデーション」ということになります。この状況は、一見、「情報入手先の拡大・自由化」が実現されているように感じられます。しかしながら、自分自身の「検索」に重きを置きすぎても、刺激に富む飛躍的な情報に偶然出会う可能性はむしろ減少していくでしょう。自分の興味の「連想の範囲内」の情報しか引き出されてこないからです。
この議論は、「AかBか」ではなくてよいと思います。
中庸・バランスと言ってしまうと安易に聞こえるかもしれませんが、せっかくどちらの方法も享受できる世界にあるのですから、それこそ自分の好みに応じて、その二つの道をうまく両立させればいいだけですね。
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