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経済学的思考のセンス‐お金がない人を助けるには (大竹 文雄)

2007-12-22 17:42:23 | 本と雑誌

 本書のようなコンセプトの経済学入門書は最近よく見られますね。
 経済学の「実社会への適用例」を説明して、経済学の位置づけ・意味づけを再認識させようという狙いのものです。

 似たようなコンセプトの本としては、以前読んだ「これも経済学だ!」「ヤバい経済学」といったものがあります。

 著者は、「経済的思考法」として2つの概念を重視します。

 ひとつは「インセンティブ」

(p xiiiより引用) 社会におけるさまざまな現象を、人々のインセンティブを重視した意思決定メカニズムから考え直すことが、経済学的思考である。貧しい人を助けなければならない、容姿に基づいた賃金差別は許してはならない、というだけで思考を停止するのではなく、その発生理由まで、人々の意思決定メカニズムまで踏み込んで考える。こうした思考方法を身につけることは、さまざまな日常の場面でも有益なのではないだろうか。

 もうひとつは「因果関係」です。

(p xivより引用) もう一つ、経済学で重要な概念は、因果関係をはっきりさせるということである。これは、経済学に限らず学問全般にいえることである。

 単なる「相関関係」に止まるのか、方向性のある「因果関係」まで成り立つか・・・。
 経済学的思考にもとづくと、因果関係を明らかにし、その方向性を強めるインセンティブを与えるような制度設計をするようになります。

(p58より引用) 経済学者は人々の価値観を変えるよりも、金銭的インセンティブによって人々の行動を変えるほうが確実だと考えている。・・・制度設計上は、金銭的なインセンティブと非金銭的なインセンティブのどちらで人々はより影響を受けるのか、非金銭的なインセンティブの設計がどの程度容易であるかをうまく見極めることが重要だろう。

 著者は、インセンティブを踏まえた制度設計の実例として「成果主義」を取り上げています。
 ただし、「成果主義」に諸手を上げて賛同しているわけではありません。むしろ、その導入の難しさを指摘しています。

(p79より引用) そもそも成果主義的賃金制度の導入は、(1)どのような仕事のやり方をすれば成果が上がるかについて企業がよくわからない場合や、(2)従業員の仕事ぶりを評価することが難しいが成果の評価が正確にできる場合、に行われるべきものである。

 どうも、近年、「プロセス」の評価がしづらくなってきたようです。

(p79より引用) 近年の成果主義的賃金制度の導入は、人件費抑制の手段としてだけではなく、技術革新の進展や経済環境の激変のために、企業にとっても従業員がどのような仕事をすれば成果が上がるのかがよくわからない時代になってきたことを反映している。

 もし、「プロセス」による評価ができず、半ば止むを得ないものとして成果主義が導入されているのであれば、やはり問題が出てくるでしょう。
 「成果主義」を標榜する限りは、成果の把握方法や成果にもとづく評価の納得性が担保されていることが必要条件です。そうでないなら、「成果主義」というのは名ばかりの歪んだものになってしまいます。

 最後に、本書を通読した感想ですが、全般的に「インセンティブ」についての説明は、事例も豊富で確かに充実していました。
 ただ、著者の立論の納得性という点ではどうでしょう。立論の根拠が、「『相関関係』による実態」に止まっているのか、「『因果関係』まで証明された実態」に基づいているのか、そのあたり正直、ちょっと気になりました。

経済学的思考のセンス―お金がない人を助けるには (中公新書) 経済学的思考のセンス―お金がない人を助けるには (中公新書)
価格:¥ 819(税込)
発売日:2005-12


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