やさしい時間

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何気ない日常を写真とともに綴ります

いつかまたね

2010年07月12日 | 想い
昼過ぎ、彼を乗せた黒のリムジンが
長くクラクションを鳴らして発車した。

顔を上げて、心の中で最後の挨拶をする。
目が自然とリムジンを追いかける。
すると側で、
「あっ、あれはあいつの車だね」
と声がした。
仕事でお世話になった教授の声だった。
みんな一斉に車を見た。
赤いレガシーが、
彼を乗せたリムジンの後をついて走って行った。



あの日、、、
同じ会議に出席した後、
駐車場まで数人を送ってくれた彼は、
「ここまできたら、帰り道が分からなくなった」
そんなふうに私に助けを求めた。
「仕方ないですね~、それじゃ途中まで誘導するから
私の車の後をついて来てくださいね」
私はそう言って、彼のレガシーを誘導した。
分かりそうな道に出ると、途中で彼を先に行かせた。
彼は窓を開け右腕を出して手を振ると
さっとスピードを上げて行ってしまった。
「ありがとう」と彼の手が言っていた。

後になって、
「どうしてあのまま行かせてしまったんだろう」
と随分後悔した。
「せっかく話しかけてくれたんだから、
もっと話をしたら良かったのに」
・・・機会はまだあると思っていた。



教授が瞬きをして目頭を抑えるのが見えた。
「本当に、寂しくなります」
そう言ったつもりなのに、言葉が詰まった。


空は雨が降りそうな鉛色をしていた。
駐車場で、自分の車を見て、不意に涙が出た。
彼の車と同じ赤い色だった。
車に乗ってしまうと、
次々といろいろな事を思い出した。

手を振った彼の
「ありがとう」の後に、きっと
「またね」がついていたのじゃなかったのかと
その時になって思った。





ずっと憧れていた。
背中ばかりを追いかけていた。

そのうち、年だけは追い越す時が来る。
その時、彼のように笑っていたいと思う。


いつかまた、会いましょう。



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