帰り道、仕事場のデイサービスを出ると、
坂道の先の先に海が見える。
それは、申し訳程度の
しるしだけのような海だけれど
仕事の疲れが癒される
オンとオフの狭間のような
そんな坂道の楽しみだった。
先週は毎日夕焼けがきれいで、
東京からの帰りの日、喧嘩したままの母に
電話したくなった。
「うん?どうしたの?」
「帰り道の坂道から海が見えてね、
今日はすごく夕焼けがきれいだから
お母さんにも見せてあげたいなって思ってね、、、」
「そう、こっちも今日は夕焼けみたい」
「そうなんだ。
海と空が夕焼けで続いているみたいになって
どこまで海で、どこから空なのか分からないみたいな
そんな海をお母さんにも見せてあげたいよ」
「私も昔は夕方によく泳いだんだよ。昼間は畑仕事で遊べなくてね、
終わってから泳ぐんだけど、そんな時、夕陽がきれいだったよ」
夕焼けに霞んだ海が、お互いのこころを溶かして行く。
今を留めておけなくなった母も
子供の頃の記憶は鮮明に蘇る。
「元気なうちにこっちに来てみたら?」
「もう、そこまで行けるほど元気はないよ、、、」
母の心まで動かすにはどうすればいいものか、、、
翌日、
駅の向こうの海岸沿いの遊歩道から夕陽を眺めた。
病んだ母と自分と家族とを天秤にかけながら
どこかで、自分の都合のいい解決策を探そうとしている。
夕陽の沈んだ後の空に
秋の始まりのような雲が残されていた。