いとゆうの読書日記

本の感想を中心に、日々の雑感、その他をつづります。

半島へ、ふたたび  蓮池薫 著

2010年03月05日 | その他
先日、友人のひとりYさんが「今、これ読んでるの」と言ってこの本を見せてくれました。

その後、前回の記事に書いた「孤将」をアマゾンで購入した私のもとへアマゾンからこの本のお薦めメールが来て、Yさんのことを思い出しました。そこで早速、この本と蓮池さんが訳された「私たちの幸せな時間」「ハル 哲学する犬」などを続けて読みました。

蓮池さんの文章はとてもわかりやすく読みやすかったです。

蓮池 薫氏は1957年生まれで、1978年7月31日、中央大学法学部3年在学中に当時交際していた女性とともに、新潟県柏崎市の海岸で北朝鮮工作員に拉致され、24年間、北朝鮮での生活を余儀なくされた方です。2002年10月15日帰国後、新潟産業大学で韓国語の非常勤講師・嘱託職員として勤務するかたわら、中央大学に復学し、2005年に『孤将』で翻訳家としてデビュー。その後次々に訳本を出版しながら大学も卒業。現在は、新潟産業大学国際センター特任講師。新潟産業大学専任講師をされながら翻訳活動をされているそうです。


24年間の北朝鮮での過酷な生活の記述はそれほど多くはありませんが、たいへんな苦労をされていたことが感じられます。また蓮池さんの置かれた環境に対する柔軟性と力強さのようなものが伝わってきます。

前半の第一部は韓国旅行が中心で、後半の第二部は翻訳の仕事につくまでの道のりとその後、これからへの模索です。

第一部の後半の「韓国と北朝鮮が、古朝鮮、三国時代から継承されてきた同じ伝統文化の根を持つ、一つの民族であることも改めて認識した。」という文章が印象的でした。

今から10年以上前ですが私自身がソウルへ行ったときのことも思い出しながら、興味深く読みました。ツアーではなかったので、出発前のにわか勉強とは言え、ハングルもかなり勉強していったつもりでしたが、ソウルの街を歩き始めると中国と違って看板は本当にハングル文字ばかり、せっかく来たバスの行き先を読んでいるうちにバスが行ってしまうようなありさまで、かなりの珍道中・・・。反日感情を感じることはなく、人々は観光客の私には親切でした。そして「街並みも人々の雰囲気も中国よりもずっと日本に似ている!」・・・そんな印象でした。
日韓の歴史的背景を思えば、複雑な気持ちにもなりますが、「ああやはりお隣の国なんだ!」というのが実感でした。

サッカーの日韓のW杯共同開催や「冬のソナタ」などから始まった日本の韓流ブーム、さらにインターネットの充実などで韓国の情報もずいぶん身近になりました。でも南北の問題やまだ解決しない拉致問題などを考えると複雑です。


さて、第二部は翻訳家蓮池薫氏誕生のエピソードとその後ですが、最終ページの「北朝鮮に奪われた24年を取り戻すために」に凝縮された蓮池さんの想いがこめられているような気がしました。

そしてまた、私自身もいろいろな国へ行ってみた経験上、特に感じるのは、文化の違いは確かにあるけれど一人ひとりの人間については、民族や人種に違いがあるのではなく、どの国にもいろいろなタイプの人がいるということかなあと思います。

プライドも肩書きもすべて背景を取り去ってしまえば人間の心の本質的な感情に国境はないように思います。


最後に蓮池さん翻訳、孔枝泳さん作の「私たちの幸せな時間」は、とても感動的な話です。器用に生きることができなかった人間の悲しさが余韻となって残ります。そこには大きな問題提起が含まれていますが・・・。

幸せな時間・・・・・!? それは心の持ちようでも違ってくるでしょうけれど・・・。


24年間の北朝鮮での生活を余儀なくされた蓮池さんのこの「半島へふたたび」には本当にいろいろな想いが詰まっていることを改めて感じました。