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私の好きな歌-8 「この素晴らしき世界」 / エヴァ・キャシディー

2008-05-11 | ■私の好きな歌
  
  「グッドモーニング・ベトナム」という映画を覚えているだろうか?米軍放送のDJに扮したロビン・ウイリアムスがラジオ番組の冒頭で叫ぶのがこのセリフ、" Good Morning Vietnam ! "。

  戦闘シーンでベトナムの惨状を描いた映画とは異なり、DJの「言葉」が戦争の不条理を浮き彫りにしていく。この映画の中で効果的に使われていたのが、ルイ・アームストロングの歌う「この素晴らしき世界」。その昔、HONDAのテレビコマーシャルにも使われていたので日本人には馴染みの深い曲だ。

I see trees of green,
red roses too,
I see them bloom for me and you,
And I think to myself,
what a wonderful world.

  詩はすこぶる陳腐なものだが、曲は美しく、一度聞いたら忘れることができない。やはり、ルイ・アームストロングの独特な節回しが印象深いが、今回はエヴァ・キャシディーの歌で聞いてみる。

  エヴァ・キャシディーはワシントンDCを本拠地に活躍していた歌手だが、日本ではあまり知られていない。正直なところ、私もこの人のことを知らなかった。彼女のCDとの出会いはHMV渋谷店、もう随分と長い間、ジャズ・コーナーの推薦盤になり続けている。

  そのCDは、1996年1月2日と3日にブルース・アレイで行われたライブを収録したもので、「この素晴らしき世界」のほかに「明日にかける橋」「枯葉」などのスタンダードも聞ける。ブルース・アレイはワシントンDCにある有名なジャズ・クラブ、ライブ収録されているオーディエンスの反応を聞くと、エヴァがいかに地元で愛されてた歌手かが分かる。

  実際、エヴァはワシントンDC以外ではあまり活動していた痕跡がない。CDもメジャーレーベルからではなく、聞いたことのないレーベルからリリースされていて、その数もわずかだ。amazon UK は、アレサ・フランクリンとビリー・ホリディ、ジャニス・ジョップリンを合わせたような声質…と訳の分からないことを書いているが、要するに一言では何とも表現しがたい魅力的な声ということだろう。

  ルイ・アームストロングの印象が強く刷り込まれている曲ながら、エヴァ・キャシディーの歌で聞くと新たな側面が見えてくる。青い空に鳥が鳴き、木々は緑に輝く…といった一見能天気な詩が、結局は I think to myself, what a wonderful world. と締めくくられるポイント、つまり、何だかんだと言っても、その世界は自分の中にしか見えていないものなのだ。

  余りにも静かで美しく、そして何だか物哀しいエヴァ・キャシディーの歌でこの曲を聞くと、「世界はこんなに素晴らしいんだ!」という断定ではなく、「世界は素晴らしいというふうに自分には映るのだけれど…」というふうに聞こえてくる。

  CDに収録されているブルース・アレイでのライブは1月2日と3日だから文字通りの正月興行という感じだが、この年の暮れに、エヴァは病が悪化して他界した。1996年、享年わずか33才。

  ライブ録音の他にエヴァが遺した数枚のアルバムは、どれもワシントンDCにある小さなスタジオでレコーディングされたものだ。ブルース・アレイのライブも含めて、エヴァのCDはどれも驚くほど優れた音質である。この音質の純度はメジャーの手抜き録音が遠く及ばない世界である。
  

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