ゆうわファミリーカウンセリング新潟 (じーじ臨床心理士・赤坂正人)     

こころと暮らしの困りごと・悩みごと相談で、じーじ臨床心理士が公園カウンセリングや訪問カウンセリングなどをやっています。

河合隼雄『青春の夢と遊び-シリーズ・生きる』1994・岩波書店-おとなになる苦しみ

2024年06月01日 | ユング心理学に学ぶ

 2019年初夏のブログです

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 河合隼雄さんの『青春の夢と遊び-シリーズ・生きる』(1994・岩波書店)を再読しました。

 これもかなりのひさしぶり。おそらく40代に読んで以来、20数年ぶりかもしれません(河合さん、ごめんなさい)。

 しかし、なかなかいい本でした。

 そして、今のじーじにも十分、刺激的でした。

 本書は、人生について臨床心理学的に考える本が多い河合さんが、当時、唯一、青春期についての本がない、と編集者に指摘をされて書いたというもので、なかなか力が入っています。

 河合さんの青春期は戦争中で暗かったといいますが、河合さんでもなんとなく苦手なテーマがあるんだな、と改めて河合さんに親しみが湧きました。

 さて、印象に残ったことを一つ、二つ。

 まずは、青春の「春」について。

 春というとなんとなくおだやかなイメージが湧きますが、実は、死と再生の真っ只中で、おそれ、や、すさまじさ、の時期であると指摘されます。

 そういえば、精神科の患者さんが春に体調を崩されるかたが多いのですが、それもなんとなくうなずけます。

 二つめは、おとなになる時の苦しみについて。

 河合さんは、村上春樹さんの『羊の冒険』や『ダンス・ダンス・ダンス』をひかれて、思っても、口に出してはいけないことがある、それができるのがおとなになること、と指摘されます。

 また、今江祥智さんの『牧歌』をひいて、人には言っていいことと悪いことがある、そのあやまちを償えるのは創造的な行為を通してだけである、と述べます。

 ここの人生観はすごいなと感動をしました。

 そして、創造といえば遊び、というくらい密接ですが、遊びは一方で死に近く、危険なものでもあることも指摘されます。

 このところ、村上春樹さんを読んでいたのは、おそらくこのあたりのことと関係があったかもしれず、生きることの苦しさや辛さ、哀しさや、その一方での、小さな喜びを感じることなどをぼんやりと考えていた気がします。

 いい本が読めて、幸せです。     (2019.6 記)

 

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今江祥智『牧歌』(「ぼんぼん」第四部)1988・理論社-昭和版「坊ちゃん」のような物語です

2024年06月01日 | 小説を読む

 2020年初夏のブログです

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 今江祥智さんの『牧歌』(「ぼんぼん」第四部・1988・理論社)を初めて読みました。

 この名作を今ごろ読むなんて、今江さんの大ファンだった今は亡き弟に笑われそうです。

 弟は高校時代くらいから児童文学を読んでいて、その本棚には児童文学がいっぱい並んでいました。

 じーじはそのころ、児童文学の良さがさっぱりわからずにいて、今考えるともったいないことをしました(弟はフォークもよく聴いていて、じーじは、かぐや姫やイルカさんは弟から教えてもらいました)。

 じーじが家裁に就職をして、先輩から灰谷健次郎さんの『兔の眼』を教えていただき、さらに、河合隼雄さんが児童文学を勧めておられて、すこしずつ児童文学を読むようになりました。

 灰谷健次郎さんの『ろくべえまってろよ』は大好きな本で、今もちょうど、灰谷さんの『ワルのぽけっと』を読んでいる最中です。

 今江さんの本は、だいぶ前に『ぼんぼん』と『兄貴』は文庫本で読んだのですが、『牧歌』はなかなか読まないままで、本書はだいぶ前に古本屋さんで購入したのを、今回やっと読むことができました。

 いい物語です。

 あらすじはあえて書きませんが、内容は昭和版「坊ちゃん」という感じです。

 図工の臨時教員である主人公が、いろいろな失敗を経験して成長をしていくという物語ですが、在日の問題や貧困の問題、学校の管理体制の問題なども描かれます。

 最後は、真摯に絵を描くことで主人公が精神的に救われるシーンがありますが、きれいごとでない、泥だらけの教師の姿が小気味いいです。

 良質の小説に出合えました。これだから、読書はいくつになってもやめられません。     (2020.6 記)

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 2021年1月の追記です

 河合隼雄さんが『青春の夢と遊び』の中で本書について述べていることをすっかり忘れていました(河合さん、ごめんなさい)。

 河合さんのご指摘は鋭く、こころにしみます。     (2021.1 記)

 

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