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ゆうわファミリーカウンセリング新潟 (じーじ臨床心理士・赤坂正人)     

こころと暮らしの困りごと・悩みごと相談で、じーじ臨床心理士が新潟市で公園カウンセリングなどをやっています。

さとうち藍・文/関戸勇・写真『じいちゃんの自然教室』「月刊たくさんのふしぎ」2002年8月号・福音館書店

2025年06月20日 | 随筆を読む

 2017年のブログです

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 精神科デイケアのコラージュ用の絵本の本棚を眺めていたら、背表紙に「じいちゃん」という五文字が見えて、思わず手にしてしました(最近、じいちゃん、とか、じーじ、とかいう言葉に出合うとすぐ反応してしまいます!)。

 福音館書店の幼児用の「月刊たくさんのふしぎ」という雑誌(うちの子どもたちの時は読んでいなかったような気がします)の2002年8月号の『じいちゃんの自然教室』という本。

 高知県の農家のおじいちゃんが孫たちに川の魚や山の食べ物などの自然の恵みをいろいろと教えるという内容です。

 フムフムと読んでいるうちに気づいたのですが、著者がなんと、さとうち藍さんの文章と関戸勇さんの写真という豪華な組み合わせでした。

 このお二人の本は、今年8月のブログでご紹介させていただきましたが、『アイヌ式エコロジー生活-治造エカシに学ぶ、自然の知恵』(2008・小学館)という本と『武市の夢の庭』(2007・小学館)という本の二冊を読んだことがあります。

 どちらもいい本で、写真もすばらしく、お薦めの本です。

 そのお二人が、2002年当時、福音館の雑誌で仕事をしていたことを知り、なんだかうれしくなりました。

 当時の幼稚園児や保育園児もそろそろおとなの世代。

 自然の中で遊んだり、自然を大切にするおとなになっているか、知りたいところです。

 この間、2011年にはご存知のように福島の原発事故があり、自然は人間が守らないと未来にきちんと残せないことも再認識させられました。

 いろいろなことを考えさせられる2002年の福音館「たくさんのふしぎ」シリーズの一冊です。       (2017. 10 記)

     *  

 2018年12月の追記です

 先日、再読をした沢木耕太郎さんの『246』に、沢木さんが「たくさんのふしぎ」1987年5月号『ハチヤさんの旅』を書いた時の取材記が載っています。

 沢木さんの娘さんの大活躍(?)も含めて、とても面白いです。

 それにしても、「たくさんのふしぎ」はすごい執筆陣ですね。        (2018. 12 記)

 

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中沢新一『虎山に入る』2017・角川書店-じーじの読書日記・セレクト

2025年06月18日 | 随筆を読む

 2018年6月のブログです

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 中沢新一さんの『虎山に入る』(2017・角川書店)を読みました。

 中沢さんの本を読むのは久しぶり。

 「縄文と現代とを結ぶ思考の稜線」というキャッチフレーズになんとなく魅かれて読み始めたのですが、最後の文章などは、縄文どころか、ホモサピエンスの誕生にまで話が遡るという、中沢さんらしく壮大なものでした。

 主な内容は、河合隼雄さん(臨床心理学)や山口昌男さん(文化人類学)への追悼の文章や折口信夫さん(民俗学)や井筒俊彦さん(宗教哲学)などの仕事についての論文などで、河合隼雄さんへの追悼文を読むと、お二人の絆の深さがうかがわれて、涙が出そうになって困りました(お二人の本については、2015年6月のブログに少しだけ書いています)。

 また、山口昌男さんとのことでは、中沢さんの若き日の学者姿が垣間見られて、とても楽しく読ませていただきました。

 じーじの大好きな井筒俊彦さんとのご関係は、じーじは初めて知ったことで、いろいろな人がいろいろなところでつながってくるな、とその不思議さと楽しさを感じることができて、幸せでした。

 他にも興味深い文章が並んでいて、マルクス主義の限界に論及したり、西洋文明の一面性に論及したりと、ちょっと驚くような、しかし、読んでみれば、納得もできるような刺激的で、真の意味で教養になるような文章が並んでいます。

 いずれまた、読み返して、さらに思索を深めたいと思いました。      (2018.6 記)

 

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深田久弥編『峠』2022・ヤマケイ文庫-なんとも贅沢な峠紀行の名作たち

2025年06月16日 | 随筆を読む

 2022年6月のブログです

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 山と渓谷社から深田久弥さん編集の『峠』(2022・ヤマケイ文庫)が出たので、ゆっくりゆっくり味わいながら読んだ。

 なんとも贅沢な峠紀行の名作たちである。

 執筆者は、田部重治、伊藤秀五郎、若山牧水、藤島敏男、寺田寅彦、小島鳥水、尾崎喜八、中村清太郎、小暮理太郎、藤木久三、冠松次郎、武田久吉、などなど、明治から昭和初期までの山歩きで名高い人々。

 山にはあまり詳しくないじーじでも、思わずため息が出てくるほどの豪華な顔ぶれである。

 そして、その人たちが、山ではなく、人里により近い峠を旅した紀行文が集まっていて、より親しみを感じる。

 例によって、中身にはあまりふれないが、じーじのお気に入りの文章を一つ、二つ。

 一つめは、伊藤秀五郎さんの「北見峠」。

 伊藤さんは北大教授などをされた登山家であるが、ここでは、当時、駅逓が置かれていた北見峠の老夫婦との交流がとても温かい文章で綴られていて、心地よい。

 じーじは以前、この文章を伊藤さんの本で読んで、先年、車で北見峠を訪れたことがあるが、今では車もあまり通らないこの峠の素朴なたたずまいはなかなか感慨深いものがあった。

 二つめは、若山牧水さんの「金精峠」。

 牧水さんは歌人で有名だが、『みなかみ紀行』などの山歩きの文章もたくさん書いていて、じーじが大好きな人。

 じーじと一緒でお酒が大好きで(?)、すぐに呑んでしまうが、山歩きは健脚で、じーじがびっくりするほどの山歩きをしている。

 歌人だけあって、文章がきれいで、読んでいてこころが軽くなるというか、気持ちよくなるような気がして、楽しい。

 総じて、ここに挙げた人たちは、みな文章がうまいし、味わい深い。

 読んでいると、今の日本とはかなり違いがあるような感じがする。

 経済的には貧しかったのかもしれないが、軍国日本になる前の素朴ないい時代だったのかもしれない。

 他にも、よい作品が目白押しである。

 時々、読み返していきたいと思う。     (2022.6 記)

 

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井伏鱒二『徴用中のこと』2005・中公文庫-旧日本軍のシンガポール戦線に徴用された作家の声

2025年06月12日 | 随筆を読む

 2022年6月のブログです

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 井伏鱒二さんの『徴用中のこと』(2005・中公文庫)を再読する。

 井伏さんは直木賞作家であったが、1941年、太平洋戦争開戦直前に旧日本軍に徴用されて、マレー半島侵略軍の宣伝班として現地に赴く。

 いやいやながらの徴用であろうが、当時は断わることなどできない情勢。

 書く文章の大部分が軍に不採用になるような状態で、しかし、軍に過度に媚びることなく書き続ける。

 軍事体制下における小説家のあり方の一つを見る。

 やがて日本軍はシンガポールを占領、昭南市と改名して、占領政策を進める。

 アジアの人たちを米英の支配から解放する、といううたい文句は、今のロシアと一緒だ。

 そんな中で大事件が起きる。

 日本軍によるシンガポールの華僑の大虐殺。

 イギリス軍の発表で3万人、日本軍の発表でも6千人という虐殺。

 軍隊による侵略ではこういうことが起こるのは必然のようだ。

 南京大虐殺を否定する人たちがいるが、シンガポールの日本軍による虐殺事件を見ると、日本軍の侵略による虐殺事案は否定できないだろうし、表に出ない虐殺も数多くあったのだろうと思う。

 これは、ロシアによるウクライナ侵略でも事情は同じであろう。

 侵略戦争では、周りがみんな敵に見えて、敵の兵隊と一般人を見分ける余裕などないのだろうと想像する。

 侵略する側の兵士もまた怖いのだ(と思う)。

 そういう中で、国家の都合で戦争に駆り出される民衆は不幸だ。

 戦争に訴えない、民主的な国家を作りあげる努力がいかに大切であるかを思い知らされる。 

 いろいろなことを考えさせられる貴重な一冊である。     (2022.6 記)

 

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加藤周一『夕陽妄語1 1984-1991』2016・ちくま文庫-ベルリンの壁と湾岸戦争を視る

2025年06月06日 | 随筆を読む

 2019年のブログです

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 加藤周一『夕陽妄語1 1984-1991』(2016・ちくま文庫)を再読。

 「夕日妄語」は加藤さんが朝日新聞に月1回、連載をしていた社会時評で、当時、じーじはライヴで毎月、楽しみに読んでいた。

 加藤さんは『羊の歌』以来、冷静な社会分析が魅力的だが、「夕陽妄語」でも、その冷静さはすごい。

 いろんな事件が起こり、加藤さんの分析に学ぶところが多かったが、その加藤さんが、予想できなかった、少なくともこんなに早くは、と語らせたのが、ベルリンの壁の崩壊。

 そういうことを隠さずに正直に書く加藤さんもすごいと思う。

 湾岸戦争前夜の加藤さんの筆も冴える。

 戦争前、イラクとアメリカの軍事行動がエスカレートする中、それでも戦争までは、戦争だけは避けるのでは?という祈りに似た語りをよそに戦争に突入、加藤さんはアメリカを止められなかった国連のあり方を検証する。

 その流れに流されずに、とことん冷静に分析をする姿はやはりすごい。

 そして、アメリカ追従の日本を分析し、行く末を懸念し、さまざまなことがらに話が及ぶ姿は、考えることの大切さを伝えてくれる。

 読んでいて、勇気をくれる本である。      (2019.3 記)

     *

 2022年春の追記です

 ベトナムとイラク、アフガニスタンでの失敗が、今回のウクライナでのアメリカの慎重さにつながっているのかもしれない。 

 戦争に慎重なことはとてもいいことだと思う。

 民主的な国々と連帯をして頑張ってほしいとせつに願うところだ。       (2022.4 記)

 

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吉田類『酒場詩人の流儀』2014・中公新書-類さん,北海道と新潟の魅力を語る!

2025年06月01日 | 随筆を読む

 2015年のブログです

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 吉田類さんのテレビ番組・酒場放浪記ならぬ新書『酒場詩人の流儀』です。

 類さんのすてきな旅紀行とお酒紀行が満載です。

 読んでいると,なんだか北海道と新潟のお話が多く,どさんこで新潟暮らしのじーじにはとてもうれしい本なのですが,よく読んでみると,新潟の地元の新聞である「新潟日報」と北海道の地元紙である「北海道新聞」に連載された記事をまとめたものとのことで,納得!

 ひいきめなしに,大自然と山と水とお酒のすばらしさがいっぱい述べられており,いい本です。

 もちろん,俳句もすばらしく,

 「グッバイを 鞄に詰めて 冬の旅」

にはしびれました。

 最近,テレビで,類さんが北海道の女子アナや新潟の女子アナと旅をしている番組を時々観ますが,こういう旅行の成果(?)もあるのでしょう。

 うらやましい!

 とにかく,楽しく読めて,読後はすがすがしい気分になれる一冊でした。     (2015.5 記)

 

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田中優子・松岡正剛『日本問答』(2017・岩波新書)ー日本人の社会を深く理解する

2025年05月31日 | 随筆を読む

 2025年5月のブログです

     *

 日本史の田中優子さんと編集工学の松岡正剛さんの対談『日本問答』(2017・岩波新書)を読む。

 すごい本だ!

 このすごさの感じを表現するのはなかなか難しいが、今の時点でじーじが文章にできることを一つ、二つ、記したい。

 一つめは、お二人の日本史についての考えの深さと展開のすごさ。

 お二人とも、日本史だけでなく、民俗学の知識が詳しく、一つのことがらを深く丁寧に理解し、さらに、それを展開し、そして、他のことがらとの関連性を考える。

 その深さとダイナミックさは見事で、えっ、そう繋がるのか、とじーじは何度も目から鱗が落ちるような感動を味わった。

 これは、すごい!としか、言いようがない。

 精神分析などでも、大家は、丁寧なケース理解から深い理論に導くが、同じような作業が目の前で行われているような感じを受ける。

 二つめは、それとも関連するが、それらの理解と知識の関連性を、さらに、東洋や西洋のことがらと比べたり、関連づけたりすることで、知識が普遍化していくさまを見ることができる。

 日本人の歴史や日本人の社会の特徴が、丁寧で深い掘り下げと関係性への目配りと普遍的なことがらとの関連性で、すごくよくわかるような気がする(じーじの理解力では、限界があるが、決して錯覚ではないと思う)。

 そこが、すごい!のではないかな、と思う。

 ぜひ、若い人に読んでもらって、視野を広げたり、視点を深めてほしいなあ、と思う。

 新書でこんなに中身のある本は久しぶりだ。

 読んでいて、知識だけでなく、ものの見方や社会の見方が、なるほど、と学べることは大きな収穫だ。

 読みやすいので、じーじのようなお年寄りにもお勧めです。      (2025.5 記)

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太田和彦『みんな酒場で大きくなった』2017・河出文庫-じーじの読書日記・セレクト

2025年05月29日 | 随筆を読む

 2017年6月のブログです

     *

 太田和彦さんの『みんな酒場で大きくなった』(2017・河出文庫)を読みました。

 太田さんといえば、テレビの居酒屋訪問番組でおなじみのおいしいお酒とおいしい料理をこよなく愛する人ですが、本書では同じようにおいしいお酒と料理とそしてすてきな会話を楽しむゲストとの対談集です。

 ゲストは、俳優の角野卓造さん、作家の川上弘美さん、椎名誠さん、漫画家の東海林さだおさん、その他の面々で、いずれも素敵なお酒の吞み方とお話が素敵です。

 じーじは、特に、川上弘美さんと椎名誠さんの大フアンなので、とっても楽しく読ませていただきました。

 みなさん、いわば芸術家のせいか、お酒と料理と会話の楽しみ方がとてもお上手で、じーじもこのようにお酒を楽しみたいなと思うのですが、いかんせん、育ちの貧しさと人生に対する努力が不足しているせいもあって、こううまくはなかなかいきません。

 みなさん、すばらしいです。

 もちろん、太田さんのお酒の楽しみ方、料理の味わい方もいつものようにとても素敵です。

 ただの酔っぱらいでは決してありません(太田さん、ごめんなさい)。

 じーじは最近は年のせいか、酒量がだんだん減り、少し寂しい気持ちになることが多いのですが(もっとも安く酔っぱらえるということでもありますが…)、本書の皆さんを見習って(?)、少しでもおいしいお酒と料理を楽しめるよう、今後、さらに修業を積んでいきたいなと思いました。  (2017.6 記)

     *

 2023年12月の追記です

 じーじの酒量はさらに減りつつあります。

 まずいです(!)。

 昔から、英雄は(誰が?)酒と何とかを好むといいます。

 頑張ります(?)。   (2023.12 記)

 

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加藤周一『私にとっての20世紀』2000・岩波書店-「いま,ここで」起こっていることを冷静に把握すること

2025年05月28日 | 随筆を読む

 2016年のブログです

     * 

 加藤周一さんの『私にとっての20世紀』(2000・岩波書店)を久しぶりに読みました。

 2000年に書かれた本ですが,16年後の今年の状況をほぼ正確に予測しています。

 日米軍事同盟,安保法制,自衛隊の海外派兵,法律の拡大解釈,憲法改悪の動き,沖縄の基地問題の固定化,日の丸・君が代の強制,死刑存続,マスコミ統制,などなど。

 すごい読みだと思います。

 国家と権力の目指すところがよく見えていたのだと思います。

 時代は急速に悪化の方向をたどっているように見えます。

 つぎは徴兵制でしょうか。

 政府は徴兵制は苦役で憲法違反と今はいっていますが,その憲法が危うい状況です。

 ちなみに,じーじが加藤周一さんを初めて読んだのは大学2年の時。

 ある先生から夏休みの課題として加藤さんの『羊の歌』(岩波新書)を読むようにいわれて読みました。

 読んでびっくりしました。

 戦時中に日本の敗戦を確信していたということ。

 その明晰な分析と明晰な文章に感激をしました。

 以来,40数年,加藤さんを読み続けています。

 そういえば,司馬遼太郎さんも戦争中に戦車に乗っていて,指揮官が,国家を守るためには国民をひき殺してもいい,と述べたのを聞いて,国家に絶望をしたと書いています(沖縄戦では泣いている赤ちゃんが敵にみつかるからと殺されました。戦争は本当に人を冷酷に変えてしまいます。殺し合いですものね)。

 お二人とも,敗戦後の日本の中で,国民を戦争に追いやった国家と権力を冷静に分析した文章をお書きになりました。

 お二人とも本当に日本の人たちのことを考えていたのだと思います。

 フロイトさんはご存知のように,状況をきちんと分析をしないと事態を反復する,と述べています。

 今,じーじたちに求められているのは,精神分析が大切にしているように,「今,ここで」何が起こっているのかを冷静に把握し,冷静に理解をし,冷静に対応していくことのように思います。

 さらに勉強を深めたいと思います。        (2016 記)

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 2020年10月の追記です

 学術会議の問題、また、きな臭くなってきました。        (2020.10 記)

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柄谷行人『講演集成1995-2015 思想的地震』2017・ちくま学芸文庫

2025年05月26日 | 随筆を読む

 2017年のブログです

     * 

 柄谷行人さんの『講演集成1995-2015 思想的地震』(2017・ちくま学芸文庫)を読みました。

 本の帯には、大いなる破壊の後に、思想は何を語れるか?とありますが、2011年の東日本大震災による被害を受けて、柄谷さんが考えたこと、語ったことが集められています。

 柄谷さんの本はこれまでにも何冊か読んでいますが、なかなか難しい本が多く、そんなにたくさんは読めていないのですが(柄谷さん、ごめんなさい)、今回は講演集なので、少しは読みやすいかな、と思って、手に取りましたが、やっぱり難しかったです(再び、ごめんなさい)。

 そんな中で、しかし、印象に残ったことを一つ、二つ…。

 まずは、東日本大震災で大勢の死者が出たことは、柄谷さんにとってとても大きな衝撃だったようで、講演の中では、それ以前の大震災や戦争などによる被害も含めて、それらの被害を踏まえた考えの変化などについて触れられています。

 大勢の死者の存在が、楽観を許されない現実の再認識を促し、柄谷さんの思想にとって、大きなインパクトになっているようです。

 また、ギリシアの政治から民主主義のあり方を論じたところでは、議会と広場での討論を比較して、草の根の民主主義(柄谷さんはそうは言っていませんが…)の大切さに触れているように思います。

 そして、議会だけでなく、広場での討論やデモの大切さを再確認しています。

 ここはたいへんに勉強になりましたし、今後ももっと思索を深めたいと思いました。

 一つだけ不思議に思ったのは、柄谷さんが村上春樹さんをあまり評価していないところ(?)。

 お二人とも、反権力、反官僚制、戦争反対などと、考え方が似ていると、じーじなどは思うのですが(村上さんは声高には述べませんが、作品の底流にはそういう邪なる力への闘いが読み取れると思います)、初期の村上作品の作風のせいか、柄谷さんは少し距離を置かれているように感じます。

 そこがちょっとだけ不思議な感じがします。

 しかし、じーじにとっては、お二人とも大切な存在。

 今後も目を離さずに、注目をしていきたいと思います。        (2017 記)

 

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朝日新聞社編『わが思索 わが風土』(1974・朝日新聞社)ーキラ星のような執筆陣です

2025年05月23日 | 随筆を読む

 2025年5月のブログです

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 朝日新聞社編『わが思索 わが風土』(1974・朝日新聞社)をすごく久しぶりに読む。

 二階の隅っこの本の山から救出(?)した。

 1974年、じーじが大学2年生の時の本。

 朝日新聞に1年半にわたって連載されていた、とある。

 この執筆陣がすごい。

 加藤周一、渡辺一夫、小田実、神谷美恵子、花森安治、大岡昇平、森有正、宮本常一、などなど、キラ星のような豪華さ。

 こんな連載をしていた朝日新聞はやはりすごい。

 そして、大学2年でこんなすごい本を読んでいたじーじもすごい(?)。

 今、それぞれのかたがたの文章を改めて読んでみると、みなさん、そのお考えにブレがないことに感動する。

 すごい人たちは本当にすごいな、と感心する。

 この中で、意外な収穫(?)だったのが、森有正さん。

 森さんは有名な思想家だが、じーじはこれまで読まず嫌いできていた。

 理由は、あるじーじの大好きな小説家がエッセイの中でけなしていたせい(?)。

 しかし、今回読んでみると、これがなかなか渋い。

 つい、1冊、エッセイを本屋さんで購入して、現在、読んでいる。

 なかなかの思索で、読みごたえがある。

 この年になって、森有正さんを読み始めるのも恥ずかしいが、仕方ない。

 人生とはこんなもんだ。

 しかし、今からでも読めたことに感謝する。

 こういうことがあるから、長生きも悪くはないと思う。     (2025.5記)

 

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金平茂紀『金平茂紀の新・ワジワジ通信』2019・沖縄タイムス社ー「報道特集」より少しだけ過激かもしれません!

2025年05月21日 | 随筆を読む

 2022年5月のブログです

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 金平茂紀さんの『金平茂紀の新・ワジワジ通信』(2019・沖縄タイムス社)を読む。

 金平さんはご存じのかたも多いと思うが、TBSのニュース番組「報道特集」のキャスター。

 TBSの報道記者として、政府や自治体、大企業などを相手にいつも鋭い質問をされ、恐れを知らないかのようなその姿がすごい。

 最近では、ベラルーシの大統領やロシアの駐日大使にすごいインタヴューを行なった様子が印象に残る。

 東大を出てもこんなにすごい人もいるんだ、とびっくりする(東大を出て悪徳政治家や悪徳役人になっている者はともかく、真面目に頑張っているみなさん、ごめんなさい)。

 その金平さんが、取材で何年も沖縄に通いながら、地元の「沖縄タイムス」に連載したエッセイをまとめたのが本書のシリーズ。

 続巻の本書は2015年から2018年までの4年間が取材され、この間、沖縄は東村のヘリ基地工事や辺野古の基地工事問題などで揺れ続ける。

 金平さんは、日本政府の高圧的な姿勢に抗議し、取材を通して機動隊の住民への暴力的かつ差別的な取り締まりなどを訴える。

 ダム建設や原発反対問題などでよく見られる政府の横暴が、沖縄ではより露骨に行われているかのような印象を受けるのは、気のせいだろうか。

 2018年、当時の翁長沖縄県知事が膵臓がんで死去し、その後の選挙で玉城新知事が誕生したところで本書は終わるが、その後の沖縄も日本政府の横暴が続いている。

 しかし、金平さんはへこたれない。

 本書の帯にある「僕はジャーナリストなので、口をつぐんでいる気はさらさらありません」は印象的だ。

 そして、金平さんは最後に、加藤周一さんの「私の民主主義の定義は、…甚だ簡単である。強きを挫き、弱きを援く」(「朝日新聞」1972年1月)という文章を引用して本書を終える。

 金平さんはじーじより一つ年上のどさんこ(旭川東高校の先輩です)。

 じーじも負けずに頑張ろうっと。                (2022.  5 記)

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立原正秋『風景と慰藉』1974・中公文庫-立原さんのヨーロッパ・韓国紀行です

2025年05月20日 | 随筆を読む

 2023年5月のブログです

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 立原正秋さんの紀行文集『風景と慰藉』(1974・中公文庫)をかなり久しぶりに読む。

 これも古い本で、当時、大学生だったじーじには少し難しいところがあったらしく、本にはめずらしくアンダーラインも付箋もなく(?)、きちんと読んだのか、やや不明(立原さん、ごめんなさい)。

 就職後も読んだのかどうか記憶がはっきりしない。

 しかし、改めて読んでみると、これがとてもいい本だった。

 じーじのその後の50年(!)の経験が無駄ではなかったようで、読んでいて立原さんの文章がこころに染み入ってくるような感じがする。

 本書は、立原さんのヨーロッパと韓国の紀行文集だが、ヨーロッパではスペイン・ポルトガル・ギリシア・イタリアを旅する。なかなか渋い選択だ。

 スペインやギリシアの大地を旅しながら、日本の風土との違いを考え、教会や神殿を見ながら、カトリックやギリシア神話を考える。

 ルナンさんの『イエス伝』などが引かれ、立原さんのカトリックにも詳しい一面を見せて、魅力的だ。

 一方、ポルトガルでは、庶民の暮らしに親しみを覚え、住んでもいいかなと考えたりする。

 素朴な飾りのない庶民の暮らしを愛でる一方で、高慢で強欲な金持ちたちには厳しく、立原さんの他の随筆や小説と共通している。

 この旅行の経験が、のちの立原さんの『帰路』などの小説にいかされており、読んでいて楽しい。

 さらに、韓国の旅もすばらしい。

 韓国のお寺を旅しながら、奈良のお寺を建てた渡来人のことを想像し、古の日本と韓国の関係を考える。

 臨済の寺に育った立原さんの原体験が、歴史に照射されて、仏教と神道の関係なども考える。

 なかなかに厳しい思索の旅で、同じようなことを考えることがあるじーじには参考になる。

 立原さんの文章は内容の確かさとともに、日本語の美しさが本当にすばらしいと思う。

 読んでいて、気持ちが良くなる文章だ。

 折りに触れて、読み続けていこうと思う。        (2023.5 記)

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イザベラ・バード(高梨健吉訳)『日本奥地紀行』1973・平凡社-英国婦人による明治11年の日本紀行

2025年05月16日 | 随筆を読む

 2021年5月のブログです

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 先日、テレビを観ていたら、英国の旅行家イザベラ・バードさんの特集番組の再放送をやっていました。

 とても面白かったので、本も読もうと思い、本棚を探したところ、じーじにはめずらしく、すぐに見つかったので(?)、久しぶりに読みました。

 バードさんの『日本奥地紀行』(高梨健吉訳・1973・平凡社)。

 1878年(明治11年)にバードさんが通訳と2人で東日本を旅した時の紀行文で、横浜から関東、東北、北海道の日高地方まで旅した記録です。

 まだ道路がまったく整備されていない明治初期、人力車や馬、徒歩などによる旅行です。

 しかも、泊まる宿屋もノミや虫でひどいところが多く、さらに、外国人を初めて見る人々は、バードさんの泊まる部屋の障子にたくさんの穴を開けて(?)、興味津々と眺めます。

 そういう旅を続けて、北海道まで、3か月の旅です。

 いろんな苦労を重ねるバードさんですが、しかし、なんというか、その文章の底のほうには英国人特有というか、先日の登山家のウェストンさんもそうでしたが、ユーモアと温さがあります。

 もちろん、日本の農村の貧しさや不衛生さ、それなのに、西洋の物まねや軍事増強に走っている明治政府を痛烈に批判しますが、一方で、貧しくとも真面目で正直な庶民への視線は優しく、温かです。

 われわれが忘れがちな、昔の日本の庶民の良さをうまく描けているように思います。

 時代は日清、日露、太平洋戦争を経て、多大な犠牲の上に、ようやく日本の庶民も平和憲法を手に入れましたが、それも今日、再び、危うくなってきています。

 英国婦人を感心させた日本の庶民の良さを大切にしていきたいなと思います。    (2021.5 記)

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 2025年5月の追記です

 バードさんは、当時の日本の西洋の物まねや軍事増強を批判していますが、同じ頃に、ドイツから招待されていた医者のベルツさんも、日記の中で、同じようなことを言っておられたように思います。

 当時の政府が、もう少し西洋の真のすごさや偉さに気づいていたら、その後の日本は違っていたにかな、と残念に思ったりします。

 人権や民主主義というものは、やはり時間と努力と教育などの積み重ねが大事なのだな、とつくづく思います。      (2025.5 記)

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ウェストン(青木枝朗訳)『日本アルプスの登山と探検』1997・岩波文庫-明治時代の山歩きを読む

2025年05月15日 | 随筆を読む

 2021年5月のブログです

     *

 ウォルター・ウェストンさんの『日本アルプスの登山と探検』(青木枝朗訳・1997・岩波文庫)を久しぶりに読みました。

 ウェストンさんは、初夏に上高地で行なわれるウェストン祭で有名なかたで、登山家。

 この本を読むのはおよそ20数年ぶり。

 40代後半になって、山歩きをするようになった頃に読んで以来です。

 このところ、なぜか明治から昭和にかけての山歩きの本を読んでいて、昔の山の紀行文を読むと、こころが落ち着いてとてもいいです。

 田部重治さん、木暮理太郎さん、武田久吉さん、若山牧水さん、などといった人たちの山の文章を読むと、昔の日本の山の美しさに感心させられますし、山里に住む人たちの素朴さにこころうたれます。

 古きよき日本の姿がたしかに描かれています。

 それは本書でも同様で、本書は明治20年代の日本アルプスの紀行が中心ですが、ウェストンさんのユーモアのある文章ともあいまって、昔の山の美しさと山里の人々の礼儀正しい様子がたくさん描写されていて、読んでいるととてもこころがなごみます。

 外国人を初めて見て興味津々の人々や、ウェストンさんを見ても外国人とわからずに、変わった日本人だ、というおばあちゃんなど、愉快な場面も出てきます。

 ウェストンさんより少し前に日本各地を旅行したイザベラ・バードさんの紀行文を思い出します。

 もちろん、山登りの場面はかなりタフで、じーじなどはとても真似のできない専門的なもののようですが、ウェストンさんがたんたんと記述しているので、文章は重たくありません。

 有名な猟師で案内人だった上條嘉門次さんをはじめとするすばらしい案内人のかたがたも登場して、彼らとのユーモラスなやりとりも描かれます。

 ウェストンさんの人柄のせいもあるのでしょうが、明治20年代の日本の山と山里がとても魅力的だったことがわかります。

 この素敵な風土を少しでも後世に残せればと思います。     (2021.5 記)

 

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