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ゆうわファミリーカウンセリング新潟 (じーじ臨床心理士・赤坂正人)     

こころと暮らしの困りごと・悩みごと相談で、じーじ臨床心理士が公園カウンセリングや原っぱカウンセリングなどをやっています

川上弘美『これでよろしくて?』2012・中公文庫-男子には少し「こわい」小説です

2025年08月22日 | 小説を読む

 2019年8月のブログです

     *

 川上弘美さんの『これでよろしくて?』(2012・中公文庫)を読みました。

 この本も旭川の本屋さんで見つけました。

 こうしてみると、ずいぶんいい本を見落としているな、と反省します。

 しかし、これも人生。

 いくら計画的に生きようと思っても、結局は、一期一会で、目の前のことを一所懸命にやるしかないのでしょうね。

 さて、この小説、男子(じーじはもうそろそろ卒業ですが…)には少し「こわい」小説です。

 何が「こわい」って?

 それは読んでからのお楽しみですが、「こわい」みなもとは、「これでよろしくて?」同好会という女子会。

 普通の主婦やOLからなる女子会ですが、これがすごい!

 本音トーク炸裂です(もっとも、現実の女子会はもっとすごいのかもしれませんが…)。

 話されるテーマは、例えば、パンツ問題、機嫌がよすぎる男、ばばあ問題、などなど、なかなか深いです。

 これらの様子が、真剣、かつ、少しユーモラスに描かれるので、ついつい読んでしまいます。

 「こわい」もの見たさみたいな感じでしょうか?

 もっとも、川上さんの小説のすごいところは、女子会を描きながら、いつの間にか、男女を超えて、人間を見るところ。

 そんなに大げさなものでもないのですが、目線は温かくて、読後感はなかなか充実しています。

 いい小説に出会えたな、と思いました。      (2019.8 記)

 

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荻原浩『海の見える理髪店』2019・集英社文庫-家族を見つめる小説たち

2025年08月21日 | 小説を読む

 2019年8月のブログです

     *

 荻原浩さんの『海の見える理髪店』(2019・集英社文庫)を読みました。

 この本も旭川の本屋さんで見つけました。買ってから、直木賞受賞作と知りました(荻原さん、ごめんなさい)。

 荻原さんの小説は結構好きで、『オロロ畑でつかまえて』とか『なかよし小鳩組』『さよならバースディ』などなど、いくつか読んでいますが、なかなかいいです。

 いい本で、読ませる本が多いのですが、ユーモアも効いていて、プッ!と笑ってしまうことも多く、電車の中で読むのはやや危険です。

 さて、本書、家族を見つめる短編小説6作からなります。

 父子関係、母子関係、親子関係、夫婦関係、などなど、さまざまな家族関係の綾が描かれます。

 じーじは、亡くなった娘の代わりに父母が成人式に出席をする「成人式」と虐待を扱った「空は今日もスカイ」が気に入りました。

 「成人式」は笑いの中に夫婦の成熟が描かれて、切ないですが、明るくなれる小説。

 一方、「空は今日もスカイ」は、虐待や差別の中でなんとか生き延びる子どもたちと、それを見守る少数のおとなと理解のない多数のおとなが描かれます。

 辛い場面もありますが、元気がもらえる小説です。

 やはり、ユーモアは力になりますし、哀しいことや苦しいことが多い人生の中でも、人はなんとか生き延びることができそうです。

 良質のユーモアはこころの栄養ですし、こころのビタミンなのでしょう。

 できれば、このブログでもそういう文章を書けたらいいな、と思います。      (2019.8 記)

 

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佐藤多佳子『明るい夜に出かけて』2019・新潮文庫-その2・深夜ラジオをめぐる青春物語です

2025年08月20日 | 小説を読む

 2023年9月のブログです

 2019年にブログを書いているのをすっかり忘れていて、また書いてしまいました。少しでも違った視点が出ていれば幸いです。

     *

 佐藤多佳子さんの『明るい夜に出かけて』(2019・新潮文庫)を再読する。   

 佐藤多佳子さんはご存じのように、『一瞬の風になれ』で2007年本屋大賞を受賞している実力派。

 じーじは映画にもなった『しゃべれども しゃべれども』も大好きだ。

 その佐藤さんが、深夜ラジオのリスナーの青春を描いた小説だ。

 青春といっても、しかし、主人公も周りの人間も少し変(?)。

 主人公は、女性恐怖症(?)の男子大学生で(じーじと同じ)、大学を留年し、コンビニでアルバイトをしている。

 バイト先の先輩や店長などとの生活がリアルに描写されて、とてもおもしろい。

 主人公は、深夜ラジオのファンで、投稿者でもある。

 しかし、昔、投稿をめぐって、傷つくという過去を持つ。

 そこに、ラジオのリスナー仲間がからみ、少し変わった青春物語が展開する。

 かなり変なことが、普通に理解できるような不思議な感じ。

 じーじは、早寝早起きなので、深夜ラジオの世界は全くわからないが、読んでいるとなかなか興味深い。

 新しい形の青春物語といったところだ。

 その中で、それぞれが悩み、少しだけおとなになる。

 本作は2017年に山本周五郎賞を受賞、難しいテーマを重層的に描いてるところが評価されたようだ。

 少し変わっているが(?)、現代の青年のひとつのあり方を描いた力作だと思う。      (2023.9 記)

 

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佐藤多佳子『明るい夜に出かけて』2019・新潮文庫-その1・生きづらい大学男子の友情と恋愛を描く

2025年08月19日 | 小説を読む

 2019年8月のブログです

     *

 佐藤多佳子さんの『明るい夜に出かけて』(2019・新潮文庫)を読みました。

 この本も旭川の本屋さんで見つけました。

 面白かったです。

 佐藤さんは『しゃべれども しゃべれども』や『一瞬の風になれ』などの、名作と呼んでいい小説を書かれていますが、本作もなかなか力作です。

 主人公は大学を休学中の男子学生。

 人づきあいがあまり得意でなく、しかも、じーじと同じ女子恐怖症(?)で、生きづらそうです。

 それでも、コンビニのアルバイトをしているので、じーじより優秀(!)です。

 楽しみはラジオの深夜番組への投稿。

 こう書くと、ネクラとしかいいようがありませんが、そんな彼がバイト仲間やラジオ仲間との交遊の中で、少しずつ変わっていく姿が描かれます。

 登場人物がユニークで、魅力的。

 佐藤さんの温かな視線が光ります。

 もっとも、お話は全然、甘くはなく、冷徹(?)で、シビアな世界が展開します。

 おとなが読んでも、いろいろと考えさせられる深みのある小説です。

 読後感がすごくいい。

 旅先でいい小説と出会えて、幸せです。     (2019.8 記)

 

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宮下奈都『窓の向こうのガーシュウィン』2015・集英社文庫ー不思議だけれど、力のある物語です

2025年08月18日 | 小説を読む

 2025年8月のブログです

     *

 宮下奈都さんの『窓の向こうのガーシュウィン』(2015・集英社文庫)を初めて読む。

 旭川の古本屋さんで目について購入。

 不思議な小説だ。

 あらすじはいつものように書かないが、未熟児で生まれて耳が少し不自由な少女が主人公。

 未熟児を保育器に入れない選択をした両親は、父は時々いなくなり、母は家事が苦手。

 少女は、しょうがないと、あきらめているが、嫌な言葉だが、毒親、と貶してもいい状況だろう。

 しかし、あきらめての結果とはいえ、両親を貶さないところが、一味違う物語の展開となる。

 少女はヘルパーとして、元教員らしき老人の家庭で仕事をして、その息子や孫(実は少女と同級生)とも交流ができる。

 不思議な交流で、あいまいさがあいまいのままに記されるが、下手に、早急に、言葉にせずに、あいまいさやわからないままを大切にしていることが尊重されているように思われる。

 こうした中で、記憶の書き換えが起こり、物語の変化が生じる。

 筆者はそのような精神分析の概念を意識していないようだが、起こっていることがらはそういうことであろう(こんなことを考えるのが、心理屋の悪いところだ)。

 しかし、理屈抜きに、いい物語だ。

 不思議だが、力のある物語だと思う。     (2025.  8記)

     *

 同月の追記です

 繰り返しになるが、シェイクスピアさん、キーツさんをひいて、あいまいさに耐えることの大切さを述べたのが精神分析家のビオンさん。

 同じくシェイクスピアさんのハムレットをひいて、わからないことに耐えることの大切さを述べたのが精神科医の中井久夫さん。

 お二人とも、早急に結論を出すことに慎重な姿勢を重視している点で共通していると思われる。   

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藤沢周『界』2019・文春文庫-これまた不思議な小説たちです

2025年08月14日 | 小説を読む

 2019年8月のブログです

     *

 藤沢周さんの『界』(2019・文春文庫)を読みました。

 これも旭川の本屋さんで見つけました。

 藤沢さんの小説は初めて。

 新潟出身で、あの水島新司さんのマンガのモデルで有名になった新潟明訓高校卒業と聞いています。

 BSの「週刊ブックレビュー」や地元新潟のローカル番組でそのお姿はお見かけしていますが、なぜか小説はなかなか読めませんでした(藤沢さん、ごめんなさい)。

 そして、今回、新潟でなく北海道で、藤沢さんの『界』という不思議な小説を読むことになりました。面白いものですね。

 『界』は本当に不思議な短篇小説集です。

 解説の姜尚中さんが泉鏡花の『高野聖』に比していますが、確かにそんな雰囲気が漂います。

 50過ぎの中年おやじが、迷い、苛立ち、流されます。

 60過ぎのじーじも身につまされます。

 子どもの頃、おとなや親はどっしりしているもの、と思っていますが、そんなことはまったくありません。

 そんな情けない姿が正直に、しかし、生と性を見すえてじっくりと描かれます。

 そう、ここには生きている人間がしっかと書かれています。

 若い人たちには少しわかりにくいかもしれませんが、おとなの人間の一面が見事に描かれたいい小説だと思います。     (2019.8 記)

 

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夏目漱石『行人』2014・集英社文庫-真面目だが、不器用な学者の悩みと不安を描く

2025年08月11日 | 小説を読む

 2018年8月のブログです

     *  

 夏目漱石さんの『行人』(2014・集英社文庫)を読みました。

 漱石さん(!)の行人(!)ですよ。

 なにも驚くことはないですかね。

 この本は新潟から東川に持ってきました。

 新潟では、なかなか集中して読むことができなかったので、ひとり旅の最中に読めれば、と思って、持ってきました。

 ようやく読めました。

 すごい小説ですね。

 やはり夏目漱石さんはすごいな、と思います。

 今から100年以上前に、こんな端正な日本語で、こんな深い内容の小説を書くのですから。

 あらすじは書きませんが、主人公の悩みは普遍的でしょうし、できれば超えていくべき課題なのでしょう。

 しかし、超えるにはなかなか難しい課題です。

 今でも、同じような悩みを抱えて苦しんでいる人はたくさんいると思いますし、苦しんだり、悩んだりして当然の課題だと思います。

 そして、解説が精神分析家の藤山直樹さん。

 というか、数多くある『行人』の文庫本の中から集英社文庫を選んだのは、藤山さんが解説を書いているからです。

 いい解説です。

 キレのいい漱石論や『行人』論が結構詳しく展開されています。

 いずれ、藤山さんの論文集に収録されるかもしれませんが、とってもいい文章なので、早めに読んでおいて損はありません。

 また、詩人の小池昌代さんの「鑑賞」という一文もすごいです。

 すごい、というのは、女性ならではの視点から、女性にしかわからないような微妙な指摘をされているように、じーじには思えます。

 もっとも、『行人』の主人公と同じくらい女性に不器用なじーじ(?)には、そのように感じられるというか、想像するしかありませんが…。

 ともあれ、旅の中で、いい本が読めて、いい夏になりました。         (2018.8 記) 
 
     *   

 ゆうわファミリーカウンセリング新潟(じーじ臨床心理士・赤坂正人)のご紹介

 経歴 

 1954年、北海道函館市に生まれ、旭川市で育つ。

 1970年、旭川東高校に進学するも、1年で落ちこぼれる。 

 1973年、某四流私立大学文学部社会学科に入学。新聞配達をしながら、時々、大学に通うが、落ちこぼれる。 

 1977年、家庭裁判所調査官補採用試験に合格。浦和家庭裁判所、新潟家庭裁判所、同長岡支部、同新発田支部で司法臨床に従事するが、落ちこぼれる。

 1995年頃、家族療法学会や日本語臨床研究会、精神分析学会、遊戯療法学会などで学ぶ。 

 2014年、定年間近に放送大学大学院(臨床心理学プログラム・修士課程)を修了。 

 2017年、臨床心理士になり、個人開業をする。

 仕事  心理相談、カウンセリング、心理療法、家族療法、遊戯療法、メールカウンセリング、面会交流の援助などを研究しています。

 所属学会 精神分析学会、遊戯療法学会

 論文 「家庭裁判所における別れた親子の試行的面会」(2006・『臨床心理学』)、「家庭裁判所での別れた親子の試行的面会」(2011・『遊戯療法学研究』)ほか 

 住所  新潟市西区

 mail   yuwa0421family@gmail.com  

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柴田よしき『風のベーコンサンド-高原カフェ日誌(ダイアリー)season1』2018・文春文庫

2025年08月10日 | 小説を読む

 2018年8月のブログです

     *

 柴田よしきさんの『風のベーコンサンド-高原カフェ日誌(ダイアリー)season1』(2018・文春文庫)を読みました。

 おもしろかったです。

 この本も旅先の旭川の本屋さんで見つけて買いました。

 柴田さんの本を読むのはずいぶん久しぶり(柴田さん、ごめんなさい)。

 昔、柴田さんの『RIKO-永遠の女神(ビーナス)』(角川文庫)を読んで、びっくりしたことを思い出しました。

 女性なのに警察小説を書いて、その内容のすごさだけでなく、なにか一つすじの通っているところに魅かれた記憶があります。

 本書はうってかわって、人気が下火になったリゾートの高原でカフェを開いた女性のお話。

 あらすじはあえて書きませんが、夫婦の問題、生き方の問題、本当においしいもの、飾らないよさ、などなど、大切なことがらを、声高にならずに、さらりと描いています。 

 キーワードは、気さくなカフェとベーコンサンド、でしょうか。

 登場人物もいろいろな人が出てきて、幸せではない人もいますが、みなさん、苦しみながらも真っすぐに生きようとしているところに好感がもてます。

 なかでも、すばらしいのが、主人公にベーコンサンドを伝授する謎のおじさんというかおじいさんの田中さん。 

 田中さんも決して幸せだけの人生ではないのですが、とってもいい味を出しています。

 読んでいて、じーじも田中さんのようなじーじになりたいな、と思いました。

 久しぶりに読んだ柴田さんの本、シリーズのようなので、またまたはまってしまいそうな予感がします。      (2018. 8 記)

 

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川上未映子『あこがれ』2018・新潮文庫-真っ直ぐな小学男子と小学女子の物語です

2025年08月08日 | 小説を読む

 2018年8月のブログです

     *  

 川上未映子さんの小説『あこがれ』(2018・新潮文庫)を読みました。

 これも旅先の旭川の本屋さんで見つけて買いました。

 川上さんの小説を読むのは、これが初めて(川上さん、ごめんなさい)。

 美人ちゃんなので、美人恐怖症(?)の傾向があるじーじは、なんとなく近づかなかったのですが(川上さん、ふたたびごめんなさい)、昨年、村上春樹さんに果敢にインタビューをした対談集『みみずくは黄昏に飛びたつ』(2017・新潮社)を読んで、すごいな、と思い、いつか小説も読みたいな、と思っていました。

 いい小説です。

 小学男子と小学女子をめぐる物語ですが、世間の見方と少し違うものの見方をするこの二人を、周りのおとなたちが限界を抱きつつも、よい距離感を持って接してくれて(今どき、こんないいおとなたちはいないかもしれません)、そんなある意味、「抱える環境」(ウィニコット)の中で成長をしていきます。

 当然、苦しいことのほうが多くなりがちです(なぜなら、周りに流されて、何も考えずに動くほうが楽ですから…)。

 泣いたり、あきれたり、怒ったりしながら、それでもお互いや周囲の友達の存在に勇気づけられて、時々、笑いにも誘われます。

 具体的なあらすじはあえて書きません。

 しかし、やはり苦しいことにたびたび出会います。

 決してハッピーエンドではありません。

 苦しい中での小さな救いや小さなほほえみがいかに大切か、を考えさせられます。

 そして、読後感はすがすがしいです。

 こんな小学生たちを少しでも守り、応援できるようなおとなでありたいな、と思いました。   (2018.8 記)

 

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藤原伊織『テロリストのパラソル』1998・講談社文庫ー元東大全共闘のくたびれたアル中中年が小さな女の子のために走りまくる

2025年08月03日 | 小説を読む

 2023年7月のブログです

     *

 藤原伊織さんの『テロリストのパラソル』(1998・講談社文庫)を久しぶりに読む。

 1995年江戸川乱歩賞受賞作で、1996年の直木賞受賞作。

 東大全共闘で学生運動を闘った主人公が、今はアル中の中年バーテンダー。

 真昼の公園でウィスキーを楽しんでいたところ、偶然、爆弾事件に巻き込まれ、その直前に知り合った小さな女の子のために(?)、真相解明に走りまくる。

 いろんな登場人物が出てくるが、じーじには、主人公がただ小さな女の子のために走るまくる小説と読める。

 この小説については、特に、あらすじを書くのは「犯罪行為」(?)だと思うので、いつも以上に気をつけたい。

 描かれるのは、学生運動と個人、学生運動と恋愛、学生運動と暴力、暴力と警察・国家権力、やくざと警察、組織と個人、お金の魔力、人間の弱さ、などなど。

 それらが、主人公の飾らない生き方とともに、対比的にあぶりだされる。

 決してスマートではなく失敗だらけの中年男子。

 ただ、一本筋が通っているというか、頑固なところが魅力的だ。

 じーじの大好きな男性像。

 いい小説だ。

 途中から仲間になる、警察をくびになったやくざ屋さんの中年男子とともに、真相解明に走りまくる姿はまったくのハードボイルド小説だ。

 ハラハラ、ドキドキの連続で、小心者のじーじには少し心臓に悪い。

 しかし、とても良質で、後味のよい小説を楽しませてもらった。      (2023.7 記)

 

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平野啓一郎『マチネの終わりに』2019・文春文庫-素敵な男女の切ない恋愛物語です

2025年07月28日 | 小説を読む

 2022年7月のブログです

     *

 平野啓一郎『マチネの終わりに』(2019・文春文庫)を読む。

 平野さんの小説を読むのは初めて。

 旭川の古本屋さんで、本の帯に映画で主演をした石田ゆり子さんがうつっている本書を見つけて、美人恐怖症のじーじだが、つい購入してしまった。

 210円。安い。

 しかしながら、これがなかなかすごい小説。

 あらすじだけをたどれば、下手をすると何ともない小説になりかねないかもしれないが、平野さんのていねいな文章のちからもあってか、切ないけれども、なかなか重厚な物語になっている。

 主人公の男女が少しかっこう良すぎるが、しかし彼らも悩み多き普通の人々であり、内省的であるがゆえに、その悩みや不安に深みを与えている。

 読者が一緒に体験をする物語のテーマは重層的で数多くあり、重みのあるどきどき感が最後まで続く。

 驚いたのは、過去は変わる、あるいは、変えられる、というテーマ。

 精神分析でも重要で、じーじも時々考えさせられるテーマ。

 このテーマをめぐっても、物語が進行して、なかなか興味深かった。

 もともとは毎日新聞に連載された小説とのことだが、こんなすごい小説を連載する毎日新聞を見直した。

 久しぶりに小説の世界にどっぷり浸った一冊だった。

 210円でこんな幸せな時間を過ごせたことをうれしく思う。        (2022.7 記 )

 

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伊坂幸太郎『クジラアタマの王様』2022・新潮文庫-現代社会のあやうさとその中での生きざまを描く

2025年07月27日 | 小説を読む

 2022年7月のブログです

     *

 伊坂幸太郎さんの『クジラアタマの王様』(2022・新潮文庫)を読む。

 この本も夏休みにゆっくり読もうと思って楽しみにしていたもの。

 旭川の本屋さんで買って、すぐに読む。

 不思議な小説、物語である。

 伊坂ワールド全開。

 例によって、あらすじはできるだけ書かないが、まずは、夢が真実か、現実が真実か、というテーマが描かれる。

 ロールプレイゲームとの関連もテーマらしいが、もっと深い世界を描いているような気もする。

 胡蝶の夢、という言葉も出てきて、司馬遼太郎さんをはじめとして、夢と真実は小説家にとっては大きなテーマなのかもしれない、とも思う。

 次に、小説家のすごさを感じた部分。

 昔から、小説家は社会のカナリアのような存在、人が気づかないことに先に気づく、と言われるが、この小説はまさにそう。

 コロナ騒動を、騒動にさきがけて、あるいは、騒動と同時に、これだけ描いた小説はすごいと思う。

 マスコミのいいかげんさ、怖さ、社会のいいかげんさと怖さ、などなどが鋭く描かれる。

 改めて、怖い社会になってきているな、と思うし、ここで、自分らしく生きていくことは、おとなでもなかなか大変だなと思う。

 ましてや、子どもは…。

 コロナはコロナにとどまらず、差別、金儲け、戦争、などなどと問題は広がる。

 このような世の中で、人はどう生きるのか。

 それが多少のユーモアをともなって物語られる。

 とても怖いが、同時に、勇気をもらえる小説ではなかろうか。       (2022.7 記)

 

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瀬尾まいこ『傑作はまだ』2022・文春文庫-50歳のややひきこもりの作家と初めて会う息子との物語

2025年07月26日 | 小説を読む

 2022年7月のブログです

     *

 瀬尾まいこさんの『傑作はまだ』(2022・文春文庫)を読む。

 夏休みに読もうと楽しみにしていた小説。

 旅先の旭川の本屋さんで購入。 

 ゆっくり読もうと思っていたが、なかなか面白くて、1日で読んでしまう。もったいない。

 本の帯には、50歳の引きこもり作家の元に、生まれてから一度も会ったことのない25歳の息子が、突然やってきた、とある。

 若気の至りで生まれた息子に20年間、写真と引きかえに養育費だけを送っていた父子関係が突然変わる。

 びっくりする物語の始まりだ。

 現代っ子の息子と世間知らずの父、二人の織りなす物語が楽しい。

 少しのユーモアと少しの真実が色を添える。

 一見、悩みのなさそうな息子だが、しかしなにやら、少しだけ影を引きずっている風でもあり、気にかかる。

 息子のおせっかいで町内会に入ることになってしまった作家は、おっかなびっくりながらも新しい人間関係を少しずつ築く。

 同じように少しひきこもりの傾向のあるじーじは、人間とはなんとやっかいなものかと思う。

 しかし、そのわずらわしさが同時に喜びでもあるわけだろう。

 子どもを産んだら、子どもだけしか見えなくなった、という息子の母親の言葉も逞しく、重い。

 そして、それが驚くようなラストに続く。

 小説だなあ、と思うが、いい小説だ。

 そして、希望を持てる物語だと思う。      (2022.7 記)

     *

 2025年7月の追記です

 この作家さんは20年間、養育費を送ったのだから、義務とはいえ、なかなか偉い。

 元の奥さんも、写真をずっと送ったのは偉いと思う。

 中には、養育費なんていらないから、その代わり一生会わないでちょうだい、というお母さんもいる。

 夫としては最低で、父親としても、お母さんから見れば最低、と思って、そう言うのは理解できなくはないが、子どもとお父さんの関係は、お母さんから見るだけでは理解できない繋がりもあるかもしれず、お母さんの感情だけで父子の繋がりを断つのは早計かもしれない。

 難しいことだろうが、熟慮が必要な問題だろうと思う。    (2025.  7記)

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原田マハ『キネマの神様』2011・文春文庫-映画批評を通じて結びつく二人の老人の友情を描く

2025年07月24日 | 小説を読む

 2020年7月のブログです

     *

 原田マハさんの『キネマの神様』(2011・文春文庫)を読みました。

 これも旭川の本屋さんで見つけたもの。

 このところ、マハさんの小説にはまっています。

 この小説を読み終えて、すぐに図書館でパソコンに向かったのですが、涙を流した気持ちを言葉にするのは、なかなか難しいです。

 主人公は大企業をやめた39歳の女性なのですが、本当の主人公はブログの映画批評を通じて結びついた日米の二人の老人。

 日本の老人の温かめの批評に対し、米国の老人はやや冷酷な批評。

 両者、なかなか対比的です。

 それぞれに背景があってのことなのですが、しかしながら、二人の批評はだんだんと二人を結びつけていきます。

 あらすじを書かずに、感動のいきさつを記すのが、じーじの文章力ではなかなか難しいのですが、文章は人をむずびつけてくれるのだな、という素朴な感想を抱きます。

 文章のちからをどちらかというと信じているじーじですが、本当にそう思います。

 じーじが拙いブログを書くのも、そういうちからを感じたいがためなのかもしれません。

 もっとも、昨今のSNSでの誹謗・中傷のように、文章には怖い側面もあります。

 できることなら、そうではなく、たとえ、厳しくとも、いい文章、意味のある文章を書いていきたいものですが…。

 なお、蛇足ですが、文庫本の表紙には志村けんさんの写真が…。

 本作は志村さん主演で映画化が予定されていましたが、残念ながら志村さんはコロナで亡くなられました。

 しかし、山田洋次監督のこと、きっといい映画ができあがることでしょう。       (2020.7 記)

   

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柚月裕子『慈雨』2019・集英社文庫-元刑事の組織と個人との軋轢を熱く描く

2025年07月20日 | 小説を読む

 2020年7月のブログです

     *

 柚月裕子さんの『慈雨』(2019・集英社文庫)を読みました。

 すごい小説です。

 組織と個人の問題。

 それをとても熱く、しかし、重く、描きます。

 主人公は元刑事。

 組織と個人の問題を抱えています。

 あらすじは、例によって、あまり詳しくは書きませんが、新たな事件の発生で、主人公は自分の過去の妥協に直面することになります。

 しかし、思いを同じにする仲間の存在で、やはり真実に向き合うことになります。

 仲間や家族の存在の大きさを考えさせられます。

 じーじは、この小説を読んで、自分がいかにわがままか、思い知らされました。

 いい小説です。

 思えば、組織と個人の問題は、学生時代からのじーじの大きなテーマ。

 ファシズムや全体主義と民主主義の問題、国家と国民の問題、会社と社員の問題、そして、地域と住民の問題など、今も拙い思索は続きます。

 子どもを戦場に送らないため、そして、孫を戦場に送らないため、じーじにでもできることはしなければなりません。

 深くて、難しいテーマですが、考え続けていこうと思います。      (2020.7 記)

     *

 2023年秋の追記です

 組織と個人の問題、端的に出てしまったのが、最近では森友学園問題でしょう。

 誰が誰のために、どう指示したのか。わからないままに、自殺者が出てしまう。それでも真相はわからない。裁判でもわからない。

 そして、疑惑の政治家を自民党政府は国葬としてしまう。ひどいもんです。       (2023.9 記)

 

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