ゆうわファミリーカウンセリング新潟 (じーじ臨床心理士・赤坂正人)     

こころと暮らしの困りごと・悩みごと相談で、じーじ臨床心理士が公園カウンセリングや訪問カウンセリングなどをやっています。

藤山直樹『集中講義・精神分析(上)』2008・岩崎学術出版社-上智大学の学生さんと精神分析を学ぶ

2024年02月29日 | 精神分析に学ぶ

 たぶん2016年ころのブログです

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 藤山直樹さんの『集中講義・精神分析(上)』(2008・岩崎学術出版社)を再読しました。

 なぜか下巻の感想は2011年に書いているのですが、上巻の感想は初めてです。

 おそらく3回目の勉強だと思うのですが、3種類の付箋とたくさんのアンダーラインで本の中がとてもにぎやかになってしまいました。

 藤山さんの本は、読めば読むほど勉強になるところが多くて、いつも刺激的に読めます。

 ましてや、フロイトさんが相手ですから、こちらの経験に応じて、読みも深まってくるのだろうと思います。

 本書は藤山さんの上智大学での2006年の講義が元になっていますが、レベルはかなり高いと思います。

 こういう講義が学べる上智大学の学生さんがちょっとうらやましくなりました。

 さて、今回、印象に残ったことを二つ、三つ書きます。

 一つめは、精神分析のあり方。

 やはり、治療者が投影同一化で揺さぶられながらも、なんとか生き残ることが重要なようです。

 その時に、もの想いをしながらボーとしていることも大切なようです。

 たいていの人は患者さんの攻撃に生き残ることができずに、患者さんの傷つきをさらに深めているので、ここはぼろぼろになりながらも生き残ることに意味があるようです。

 そして、このことは親子関係にも通じるのではないかと思いました。

 二つめは、エディプス・コンプレックスが世代間境界をつくり、それが道徳などにつながっていくということ。

 世代間境界のことは、家庭内暴力の家族でその不十分さが指摘される点ですが、エディプス・コンプレックスや道徳との関係で考えたことはなかったので、新鮮でした。

 三つめは、精神分析を転移の場にしていくということ。

 反復強迫は患者さんなりの努力の結果ですが、その反復強迫を転移の場で、遊びにできると治療につながる、というお話は魅力的です。

 フロイトさんからウィニコットさんにつながる点を指摘してもらって、勉強になりました。

 まだまだ学ぶところが多い本で、今後も読みを深めていきたいと思いました。     (2016?記)

 

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立松和平『魂の置き場所』2007・柏艪舎-立松和平さん・知床・ヒグマくん

2024年02月29日 | 北海道を読む

 2015年のブログです

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 何かいい本はないかな,と本棚を眺めていたら,黄緑色の背表紙が目にとまりました。

 見てみると,黄色のキタキツネの絵,和平さんの知床のエッセイ集でした。

 2007年の本なので,8年ぶりです。

 和平さんは仕事で知床に友人ができ,山荘を購入したという人。

 ずいぶん知床に惚れこんでいたことがわかります。

 うらやましい! 

 もっとも,学生時代に,利尻や知床を貧乏旅行していたようですから,素質はあったのかもしれません。

 クマやシカ,サケ,そして道産子についてのお話は興味深いです。

 特に,クマと人間が共存をしているというルシャの番屋のお話はなんど読んでもびっくりします。

 じーじもふるさと北海道をさらに再発見していきたいなと思いました。    (2015.7 記)

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 2022年5月のブログです

 先日、残念なことに知床で観光船の事故が起こってしまいましたが、知床はいいところです。

 じーじも20数年前に一度だけ観光船に乗りましたが、雄大な景色を堪能しました。

 もっとも、貧乏なじーじは岬の先端まで行く船には乗れずに、途中のカムイワッカの滝が海に落ちるところまでしか行けませんでしたが、それでも感動したことを覚えています。

 もう一度、チャンスがあったら、ぜひ乗ってみたいです。    (2022.5 記)

 

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小檜山博『人生讃歌』2016・河出文庫-どさんこの本音を懐かしく読む

2024年02月29日 | 北海道を読む

 2017年のブログです

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 どさんこの小説家である小檜山博さんのエッセイ集『人生讃歌』(2016・河出文庫)を読みました。

 2016年の本ですが、なぜか読みそびれていて(小檜山さん、ごめんなさい)、今回、旭川の本屋さんで偶然見かけて読みました。 

 いい本です。

 JR北海道の車内誌に連載中とのことで、軽く読めるエッセイですが、中身は小檜山さんの小説のように、時には重く、時には哀しく、しかし、愚直で、誠実な生き様がすごいです。

 素敵な人たちがたくさん出てきます。 

 女の子が母に頼まれて持っていた闇米を事情を知って見逃してくれるお巡りさん、小檜山さんと知らずに小檜山さんの小説を読んで生きてこられたと話す靴磨きの老婆、アル中の患者に代金は持ってこないかもしれないぞと言われて、それでも待っているぞと怒鳴る貧乏医師、などなど。

 すごい人たちばかりですし、彼らと巡り合い、それをお話にできる小檜山さんの力量もすごいです。

 小檜山さんは大雪山の東側の滝上町の育ち、じーじは西側の旭川の育ちで、くしくも大雪山をはさんで、両側から同じ山を眺めながら育ったことになります。

 だから、小檜山さんの描く大雪山の描写には、とても懐かしい気がしますし、癒されます。 

 また、小檜山さんのご両親は東北の飯豊山の東側の会津の出身、じーじは今、飯豊山の西側に位置する新潟で暮らし、散歩の時は飯豊山を眺めながら歩くのが楽しみなので、小檜山さんの描く飯豊山の描写にも癒されます。

 ふるさとを同じにするすてきな小説家と同じ時代を生きられる喜びをつくづくと感じます。      (2017.8 記)

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 2023年3月の追記です

 北海道滝上町に高橋武市さんという人が作られた陽殖園という自然庭園があります。

 この自然庭園をさとうち藍・著、関戸勇・写真『武市の夢の庭』(2007・小学館)という本が紹介しています。

 写真の美しい、素敵な本です。   (2023.3 記)

 

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藤山直樹『集中講義・精神分析(下)』2010・岩崎学術出版社-上智大学の学生さんと精神分析を学ぶ

2024年02月28日 | 精神分析に学ぶ

 2011年のブログです

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 藤山直樹さん(本当は藤山先生と書きたいのですが、河合隼雄さんも先生でなく、さんづけでしたのでそうします)の『集中講義・精神分析(下)』を再読しました。

 藤山さんんの上智大学での講義です。

 本が出てすぐに一度読んだのですが、今回はノートを取りながら読みました。

 一度目に読み落としていた部分がいっぱいあって、反省でした。

 上巻でもそうでしたが、藤山さんはフロイトさんの原典をより忠実に、しかもより深く読み込んで、自論を展開されていますが、それは下巻でも同様で、主にクラインさんとビオンさんとウィニコットさんの原典を忠実に読み込みながら、そこから現在の精神分析で議論されていることについて、ご自分の考えを展開されているように思いました。

 特にウィニコットさんの原典からの読み込みの深さとそこからの展開はすばらしく、初学者のじーじにでも頷く部分が多くありました。

 そういう中で臨床家の姿勢やあり方といったものを考えさせられました。

 もっともまだまだ十分に理解ができているとは言えないと思いますので、さらに読み込んでいこうと思いました。

 今年秋の名古屋での精神分析学会では生で藤山さんの話が聞けそうですので、今から楽しみです。           (2011. 8 記)

(この時はまだ藤山さんを生で(?)見たことがなかったのですね、少しびっくりです。    2020.4 記)

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 2018年秋の追記です

 7年ぶりに再読をしました。

 とてもいい本なのに、まったく勉強不足です(藤山さん、ごめんなさい)。

 今回も新しい発見がありました。

 一つは、精神分析について。

 藤山さんは、精神分析は切り離されているこころの部分と出会う経験だ、と言います。

 とてもわかる言葉です。すばらしいな、と思います。

 二つめは、精神医学で対処できる病気は精神医学で対応し、やたらに精神分析を行なうことはしない、という点。

 ただ単に熱心に患者さんの話をきくことの弊害を述べ、きくべき病気ときかないほうがいい病気の峻別の大切さを指摘します。

 デイケアでの経験でも確かに頷ける点であり、大切な視点だと思いました。

 三つめは、ビオンさんが、夢は無意識と意識をつなぎ、意味を生成する、順調なら目覚めている時も夢を見て、意味を生成する、と述べているところを紹介された点で、たぶん村上春樹さんも同じことを述べていて、びっくりしました。

 さらに、7年といわずに、また勉強しようと思います。          (2018.10 記)

 

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藤山直樹『精神分析という営み』2003・岩崎学術出版社-藤山直樹さんの率直な語りに学ぶ

2024年02月27日 | 精神分析に学ぶ

 たぶん2017年ころのブログです

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 藤山直樹さんの『精神分析という営み』(2003・岩崎学術出版社)を再読しました。

 何回目になるでしょうか、じーじはこの本を読んで藤山さんのファン(?)になったのですが、いざ感想を述べるとなると、じーじの理解不足、経験不足もあって、なかなか難しい本です。

 今回もうまくまとめられるかな、と思いながら読んでいましたが、とりあえず、印象に残ったことを一つ、二つ、書いてみます。

 まずは事例がすごいです。何回読んでも新鮮です。こんなことがあるんだとびっくりします。

 そして、多少の失敗も含めて、すごく正直に(おそらく)、率直に書かれていると思います。

 その中から、精神分析の考え方をていねいに検討しておられるので、説得力がありますし、初学者にも勉強になります。

 特に、印象的な事例は、一番最初の藤山さんが殴られる事例。

 患者さんが面接中に、支配的な両親と藤山さんを同一視して行動化してしまうのですが、それをきちんと分析する藤山さんに感心します。

 他の事例でも、面接中に逆転移や投影同一化に揺れる藤山さんがすごく正直に描かれます。

 また、精神分析はキャッチボールではない、という大切な命題も主張されます。

 関連して、共感をめざす危険性にも論及されます。

 自分のカウンセリングを反省させられます。

 さらに、ウィニコットさんを引用されて、遊ぶ余裕の中でしか、創造的な心理療法はできない、とも主張されます。

 理論と経験と実践が密接にリンクしていて、迫力がありますし、勉強になります。

 さらに勉強をして、経験を積み、力のある臨床家になりたいな、と強く思える本だと思います。

 なお、序文は土居健郎さん。

 土居さんも率直に藤山さんを評します。

 いい師弟関係だなとうらやましくなります。     (2017?記)

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 2019年10月の追記です   

 先日の精神分析学会で、藤山さんが本書の論文に触れていたので、再読をしました。

 じーじにしては2年ぶりと、めずらしく早めの再読です。

 やはりすごい本です。一気に読んでしまいました。

 症例がすごいです。率直に書かれていて、臨場感がすごいです。説明も簡潔明瞭で、藤山さんの学会での語りと同じです。

 あこがれますね、こういう人に…。さらに勉強と経験を積み重ねようと思います。     (2019. 10 記)

 

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小澤征爾『おわらない音楽-私の履歴書』2014・日本経済新聞出版社-小澤さんの自伝的エッセイです

2024年02月27日 | 随筆を読む

 2024年2月のブログです

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 小澤征爾さんの『おわらない音楽-私の履歴書』(2014・日本経済新聞出版社)を再読する。

 2014年1月に「日本経済新聞」に連載されたエッセーが本になったもので、とても読みやすい。

 小澤さんの本を読んでいると、この本だけでなく、『僕の音楽武者修行』(1980・新潮文庫)や村上春樹さんとの『小澤征爾さんと、音楽の話をする』(2011・新潮社)などの本を読んでも、小澤さんの友達や援助する人々、そして、指導してくれる人々の豊かさにうらやましくなる。

 小澤さんの人柄なのだと思うが、すごいと思う。

 小澤さんの才能もすごいと思うが、人々に愛される力が本当にすごいと思う。

 これが小澤さんの宝物だろうと思う。

 若い時の小澤さんの話を読んでいると、結構、失敗が多い。

 世界のオザワ、も、決して順風満帆ではなかったわけだ。

 しかし、それにめげずに進むところが小気味よい。

 フランスの指揮者コンクールで優勝する前も、フランス政府給費留学生の試験に落ちて、自費で留学しての挑戦である。

 その後、世界中のあちこちの交響楽団で経験を積むが、最初はブーイングの嵐で、その中から実力を認めてもらっていくことが多い。

 そこには、小澤さんを推薦してくれる指導者や友人たちの存在などが大きいと思うし、一方、それに応える小澤さんの頑張りもある。

 小澤さんを見ていると、人と人とのつながりの大切さを教えられる。

 そして、それが年を取っても自然体なところが魅力だと思う。

 決して真似のできないことだが、少しでも見習っていきたいと思う。    (2024.2 記)

 

 

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谷川俊太郎ほか編『臨床家河合隼雄』2009・岩波書店-河合隼雄さんの思い出を語る

2024年02月26日 | ユング心理学に学ぶ

 2011年のブログです

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 ここのところ、なんとなく元気が出なかったので、『臨床家河合隼雄』(2009・岩波書店)をまた読んでみました。

 元気が出ました!

 河合さんに教育分析を受けた方々の体験談を読むと、河合さんの厳しさと優しさと温かさがじんわりとこちらの心にも伝わってきます。

 今回は特に皆藤章さんの文章が心にしみました。

 だいぶ元気が出ました。

 また、谷川俊太郎さんと山田馨さん(編集者)の対談を読むと、いたずらっ子のような河合さんの姿とだぶって、「泣き虫ハアちゃん」の河合さんが目に浮かんできて、思わず私も涙が出てしまいました。

 河合さんの自然体の姿がいいなあと思いました。

 かなり元気が出てきました。

 さらに、遅まきながら、今回、気づいたのは、河合さんが「悪」の問題を相当深く考えておられたようだということ、晩年、チベット仏教の修行をしたいと話されていたということでした。

 あんなに大家になられても、なお向上心を持ち続けるすごさに圧倒されました。

 自分も頑張らねばと、意欲が湧いてきました。

 涙あり、笑いあり、厳しさありで、久しぶりに襟を正された一冊でした。   (2011.8 記)

 

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ラトヴィア・シベリア・ソ連からの独立-じーじのじいじ日記・セレクト

2024年02月26日 | じいじ日記を書く

 2019年2月の日記です

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 NHKーBSを見ていたら、先日も放映されたラトヴィアの民族と歌の祭典を取材した番組が再放送で流れた。

 先日、見た時は感動のあまり、ラトヴィアという国のことを知りたくて、『物語バルト三国の歴史-エストニア・ラトヴィア・リトアニア』(志摩園子・2004・中公新書)を買ったほどで、今も読んでいるところだ。

 バルト三国のことは高校の世界史でちょっと習っただけで、ほとんど知識がなかったが、この本を読むと、小さな国々だけに、昔から大国の思惑に左右されて苦労をしてきており、特に、ソ連に併合されていた時には、シベリアへの強制連行などもあって、大変だったようだ。

 ラトヴィアをはじめとするバルト三国の誇りは、武器ではなく歌による独立と称されるソ連からの独立。

 なんと民族全体による歌の合唱でソ連からの独立を勝ち取ったのが感動的だ。

 民族の誇りと独立が、武器ではなく、歌である、というのはすばらしいと思う。

 アメリカの言いなりになって、高い武器を次々と買って、国の赤字を増大させている人たちも見習ってほしい。

 そして、外交の基盤はやはり近隣の国との平和外交であろうと思う。

 よその国の裁判官や政治家を平気で馬鹿にするような一部の政治家の言動は、これに反するのはいうまでもない。

 ましてや、近隣の国々への過去の侵略や併合という屈辱的な歴史を反省しない政治家などは論外である。

 日本国民だって、近隣の民衆のつらい経験やそれへの加害責任を感じている人は少なくないと思う。

 それぞれの民族の誇りを尊重し、平和な外交が実現されることを祈りたいと思う。    (2019.2 記)

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 翌日の追記です

 同じくNHK-BSで、関口知宏のヨーロッパ鉄道旅、という番組の再放送をしているが、これを観ていると、やはりソ連の支配による影響の大きさやソ連崩壊後のヨーロッパの国々のことをいろいろと考えさせられる。

 民族の誇りを踏みにじるような政治はいつか崩れると思うが、それまでに人々が支払う代償はすごく大きなものがあると思い知らされる。

 民族の誇りと個人の尊重は本当に大切だと思う。

 辺野古でも、福島でも、朝鮮でも、中国でも、……。    (2019.2 記)

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 2022年春の追記です

 ウクライナの次はバルト三国が危ないという話も聞こえてくる。

 なんとか早くにロシアのウクライナ侵略や他の国々への侵略が終わることを祈っている。    (2022.4 記)

 

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生地新『児童福祉施設の心理ケア-力動精神医学からみた子どもの心』2017・岩崎学術出版社

2024年02月25日 | 子どもの臨床に学ぶ

 2017年のブログです

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 生地新さんの『児童福祉施設の心理ケア-力動精神医学からみた子どもの心』(2017・岩崎学術出版社)を読みました。

 とても勉強になりましたし、事例がすごいです。

 生地さんは児童精神科医で北里大学教授、そして、精神分析学会の前会長でもあります。

 温厚なかたで、あまり過激なことをおっしゃらないので、じーじなどは学会に出ていても、最近まで生地さんが児童精神科医でいらっしゃることを知らずにいて(生地さん、ごめんなさい)、生地さんのすばらしいお仕事に気づくのがずいぶん遅くなってしまいました。

 しかし、本書はいい本です。

 前半は、児童福祉施設に入所している子どもたちの様子やこころの発達状況などについてていねいに述べ、施設における心理療法の実際とスーパービジョンなどについて解説をされています。

 こどものこころや立場を本当に大切にして、細やかな配慮をされている様子がよくわかり、感動的です。

 後半は、事例の紹介と解説で、特に、境界例の母親に育てられた多動性の子どもさんの援助のケースは、じーじも家庭裁判所で同じようなケースを担当して苦労をした経験がありますので、その大変さがしみじみとわかり、こころが痛くなる思いでした。

 なかなかつらい事例もありますが、生地さんの子どもさんへの温かな思いと確かな力量が示されて、読んでいるうちにかすかな希望が胸の中に湧いてくるような印象も持てる本だと思います。

 今後も折にふれて、読んでいきたいなと思いました。     (2017 記)

 

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朝井リョウ『世界地図の下書き』2016・集英社文庫-苦難の中にいる子どもたちの友情と希望を描く

2024年02月25日 | 小説を読む

 2016年のブログです

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 若者の世界をていねいに描き続けている小説家、朝井リョウさんの『世界地図の下書き』(2016・集英社文庫)を読みました。

 子どもたちの苦しさの状況を描いた小説ですが、感動的な小説で、一気に読んでしまいました。

 朝井さんは若いのに、人々の苦しみや悲しさ、憎しみ、いやらしさ、醜さなどなどがよくわかっているようです。

 いや、若いからこそ、救いのないようないまの世の中がわかるのかもしれません。

 物語は家庭の事情などで親と別れて暮らしている児童養護施設の子どもたちの日常。

 家庭での虐待、学校でのいじめ、進学できない絶望的な状況などなど、いまの社会の現実が描かれます。

 そんな中で、わずかな希望や楽しみ、助け合い、がんばりなどが描かれます。

 虐待家族の虐待を超えての再統合、いじめを超える希望、たしかな大人からの援助などなど、いまの社会にも希望があることも描かれます。

 決して楽観的なことはひとつも描かれません。

 厳しい、過酷な現実がこれでもかと突きつけられますが、作者は希望を失うことはありません。

 先も思いやられますが、しかし、登場人物たちは涙を流しながらも、何とか生きていくのではないか、という予感を抱けます。

 楽観的ではないものの、決して悲観はせずに、しぶとく生きていけそうな、そんな小説だと思います。        (2016 記)

 

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