マリリンの映画日記

エッセイスト瀧澤陽子の映画ブログです!新作映画からオールドムービーまで幅広く綴っております。

「ラスト、コーション」

2008年02月06日 | 映画
 とにかくストーリーに興味があった。舞台は日本軍占領下の上海と香港。日中戦争だけでなく、中国人同士の内戦をも描いている点にますますそそられた。それなのに、この作品には全く戦闘シーンが登場しなかったので、更に感服していた。

 二人の立場がまるで違う男に愛される女スパイ(タン・ウェイ)の繊細な心の揺れが程よい加減に綺麗に描かれている。何よりもタン・ウェイとトニー・レオンのセックスシーンには驚嘆した。今まで見た映画の中で最高に長いセックスシーンではないだろうか。

 アクロバットのようにフレキシブルに流れ、無数に変化する体位から放つエロスは耽美と退廃に溢れている。少女のように熟し切れないが、それでいて貪欲な性への好奇心に挑む新人女優タン・ウェイ。そこに、ベテランのトニー・レオンが果敢にもタンの若い肉体を弄び、熟練した男の性戯の喜びを教え尽くす。

 トニー・レオンは綺麗ごとでは仕事しない稀有な男優なので、私はこんなトニーが大好きだ。ここまで、自分をさらけ出し、のめり込んで演じる俳優魂。というよりも、トニーの根底にある俳優哲学を叩き込まれたようで、頭が下がった。久しぶりに起承転結のあるセックスシーンの激しさと美しさと素晴らしさを満喫した。

 終盤になって、なぜこの作品には戦闘シーンが登場しないのかが、やっと理解できた。性のタブーに触れた「ブロークバックマウンテン」を世に送り出したアン・リー監督だからこそ、実は日中戦争を背景に、戦争は戦争でも普遍的な「女と男の愛という戦争」を描きたかったのかもしれない。

監督アン・リー
出演トニー・レオン、王力宏(ワン・リーホン)、タン・ウェイ

シャンテ シネ、Bunkamuraル・シネマほか全国にて公開中