ちょっといいな、ちょっと幸せ

映画、アート、食べ歩きなどなど、私のちょっといいなを書き留めました。

古道具 中野商店

2008-07-08 21:58:36 | 読書
 「古道具 中野商店」川上弘美著、新潮文庫発行。
 小さな古道具屋でアルバイトするヒトミ。店主は女性にだらしないけど、どこか憎めない中野さん。同じアルバイトで、ヒトミと付き合っているタケオ。店によく顔を出す、中野さんの姉のマサヨさん。店の常連の、変わった客たち。世渡り下手で不器用な人たちの人間模様が描かれています。
 中野さんの口癖「だからさぁ」とか、タケオのとつとつとした話し方。こういう人いるなと思っているうちに、「中野商店」の売り物の椅子に腰掛けて眺めている気分になります。居心地のいい風景は、「センセイの鞄」(川上弘美著)の風景に似ています。一風変わっているけど、懐の広い人たちがいることも。ヒトミとタケオの関係は、ちょっとした会話がもとで、途切れてしまいます。後半はタケオとの関係に悩むヒトミの心情と、それぞれが不器用で正直に生きる様子が描かれています。タケオが怒った理由は、マサヨさんの言い方を借りれば、「しっぽを踏んじゃった」。犬や猫がしっぽを踏まれると、わけのわからない感じで、ものすごく怒るということ。上手いなと思いました。最後は、ほのぼのとした「中野商店」らしい終わり方。作者の川上弘美さんは、空気を編み出す作家だと思います。「中野商店」の少し埃っぽい空気には、懐かしさときらめきがありました。
 古道具というのは、骨董品とは違って、古いだけの道具だったり不用品だったりします。世間の価値や肩書きではなくて、自分の目で判断するしかない物たち。ある人にはいらなくなった物でも、時代遅れのデザインや、無数についた傷、色の褪せ具合がいいと思う人もいます。保証書や鑑定書のある骨董品しか選べない人もいれば、自分の目と直感だけで選ぶ人もいます。なんだか人の世の中みたい。