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20世紀を代表するコロンビアのノーベル賞作家、ガルシア=マルケスの代表作。
架空の都市マコンドを舞台に、その創設から滅亡までに至るブエンディア一族の百年を魔術的リアリズムの手法で描く。
とにかく個性的な作品である。物語はマコンドという町を建設したブエンディア家の百年にわたる物語なのだが、そこで描かれるイメージの何と豊かなことであろう。
まとまった感想の書きづらい作品なので、以下、良かった点を箇条書きにしてみようと思う。
良かった点の一つ目はまず文体だ。
百年の歴史を描くという設定のためか、物語は叙事的な筆致でつづられている。その文体がまた極めてクールで、淡々としたトーンでディテールを積み重ねていく様が物語の世界観とかっちりはまっていたのが印象深い。
それでいて叙情性を感じさせるシーンも所々で垣間見られるのだ。
ホセ・アルカディオ・ブエンディアが死んだときに小さな黄色い花が降るシーンの何と美しく詩的なことだろう。そういうシーンがふっと現れるところがまたおもしろい。
良かった点の二つ目は当然だけど、物語そのものである。
僕は冒頭のホセ・アルカディオ・ブエンディアとメルキアデスのやりとりに、のっけから惹きつけられてしまった。棒磁石のエピソードはありえないようでありえるようにも見えて、奇抜であると同時にユーモアにも溢れている。
そういったエピソードを6 or 7代にわたり積み重ねていく様は圧巻である。本当にすばらしいイマジネーションだと驚くばかりだ。
三つ目に良かった点はキャラクターだ。
エピソードが個性的だけあって、キャラクターも個性的な面々が多いのは当然と言えるかもしれないけれど。
個人的にはアウレリャノ・ブエンディア大佐とアマランタがお気に入りだ。
アウレリャノは32回反乱を起こして敗北し、自由党などに幻滅を覚え、純粋さや情熱を失っていき、最後の方は世捨て人のように金細工を造る。その起伏に富んだエピソードは純粋におもしろく、一抹の寂しさを感じさせ、どこか物悲しくさえある。
そう本作はおもしろいだけでなく、悲しみがにじみ出てくるように描かれている。
それが四つ目に良かった点である。
アマランタで言うなら彼女の好きな人間を拒んでしまう姿とか、昔不幸にしたレベーカに対する思いの中には孤独な感情が流れているような気がして何とも切ない。これだけクールなタッチなのに、自然と悲しみがにじみ出てくるというのは驚くばかりだ。
五つ目は深読み可能な豊かな文学性だろう。
例えば一族の物語を、後代の者は忘却しているのだが、それは何とも寓意めいている。大虐殺といい、伝える術がなければ誰もが大事なことを忘れ去ってしまうのだ。そのことに作者の危機感を読み取れるような気がする。
他にもラテンアメリカの歴史を再現したようなストーリーには多くの示唆が隠されており、そこをつつくだけでも楽しいだろう。
ってここまで書いておいてなんだけど、好みの作品かと言われればはっきり言ってノーである。しかしその文学的な深みなどは純粋におもしろい。
小説が好きな人なら一度くらいは読んでみる価値はあるだろうと思った。
評価:★★★★(満点は★★★★★)
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