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舞台はロンドンのサロンと阿片窟。美貌の青年モデル、ドリアンは快楽主義者ヘンリー卿の感化で背徳の生活を享楽するが、彼の重ねる罪悪はすべてその肖像に現われ、いつしか醜い姿に変り果て、慚愧と焦燥に耐えかねた彼は自分の肖像にナイフを突き刺す……。快楽主義を実践し、堕落と悪行の末に破滅する美青年とその画像との二重生活が奏でる耽美と異端の一大交響楽
福田恆存 訳
出版社:新潮社(新潮文庫)
幾分冗長な作品かなというのが率直な感想だ。
解説に触れられている冒頭の文章に象徴されるけれど、美に関する表現が、ちょっともったりしていることなどが原因なのだろう。
耽美と言えば言葉はいいけど、まどろっこしい。
しかし物語そのものは緊張感が感じられ惹きつけられる。
美青年のドリアン・グレイは周囲の人間を魅力する美貌を持ち合せており、画家のバジルなどは彼に対して、同性愛的な崇拝心さえ持っている。だがヘンリー卿の影響もあり、退廃の道へと入っていく。
ヘンリーは実際魅力的な男だ。
皮肉屋だけど、機知に富んでいて、発言のいちいちは鋭い。
若いドリアンが影響を受けるのもむべなるかなだ。
少なくともモラリストのバジルの言葉などより、よっぽど心に響く。
そうして「不和とはやむをえず他人と同調することだ。大切なのは自分の生活だ」といった価値観のヘンリーの影響下、どんどんエゴの道を歩むこととなる。
その第一歩がシビル・ヴェインの自殺だ。
実際、ドリアンが彼女に幻滅し、彼女を棄てるときの言葉はあまりに思いやりがない。
傷つける意図にあふれていて、心底きつい。
そうしてシビルは自殺し、ドリアンもショックを受けるが、薄情と思えるほど冷めてもいる。
そしてすぐに次の喜びを見つけて、そちらの世界に入っていったりもする。
彼はそのとき、もっと人のことを思いやる気持ちを学べば良かったのかもしれない。
だがそれもしなかったし、できなかった。
それは彼自身罰を受けることもなく、肖像画にすべての醜さを預けて、自分は美しいままでいたことも影響しているのだろう。
要はスポイルされてしまったのだ。
もちろん悪徳の世界に入っていくことに苦悩や罪悪感はある。
だが彼は自己愛のせいか、自分を正当化する言葉を重ねていくばかりだ。
彼自身、これは正しいことではないという自覚はあるのだけど。。。
そして殺人まで犯して、転落の一途をたどっていく。
そんなドリアンの姿と心理描写が、さながら倒叙タイプの犯罪小説のようで、緊迫感があった。
ともあれきわめて読み応えのある一作である。
評価:★★★★(満点は★★★★★)
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