私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

『飛ぶ教室』 ケストナー

2008-09-11 20:18:44 | 小説(児童文学)

孤独なジョニー、弱虫のウーリ、読書家ゼバスティアン、正義感の強いマルティン、いつも腹をすかせている腕っぷしの強いマティアス。同じ寄宿舎で生活する5人の少年が友情を育み、信頼を学び、大人たちに見守られながら成長していく感動的な物語。
ドイツの国民作家ケストナーの代表作。
丘沢静也 訳
出版社:光文社(光文社古典新訳文庫)


この小説の美点はいくつかあるが、その一つにキャラクターの魅力が上げられるだろう。

たとえば主人公たちの少年たちなどは実に生き生きと描かれている。
ボクサーを目指すマティアスの男気とウーリに対する友情の描写は心に残るし、臆病なウーリが後ろめたさや恥ずかしさを感じるところもなかなか優れた描き方だと思う。幾分ベタだが、マルティンが涙を流す親思いのシーンも麗しいし、エーガーラントの敵のくせして誠実なところも個人的には印象に残った。

それに子どもだけじゃなく、大人たちもすばらしいキャラクターが多い。
特に正義さんこと、ベーク先生の造形はすばらしく個人的にはツボだった。彼こそ、カッコいい大人と言うにふさわしいキャラクターだろう。
少年たちが規則を破ったときに話す過去の話や、マルティンに20マルクを渡して、
「クリスマスイブに旅費をプレゼントするんだよ。返してもらおうなんて思っちゃいない。そのほうが、うんとすてきじゃないか」
という言葉には、もう「粋!」と叫びたくなるほどのカッコよさがあった。
こういう大人になれたら最高だろうな、と素直に思えてくる。

またマルティンに対するセリフに限らず、ほかにもカッコいいセリフが多く、それもこの小説の美点になっている。

「教師には、(略) 自分を変えていく能力をなくしちゃダメなんだ。(略)ぼくらを成長させようと思うんだったら、教師のほうだって成長してもらわなくちゃ」
というセリフには、教師に限らず身につまされるものがあるし、生徒から笑われる校長の
「しかしなんと言っても私は、サンタとおなじく、子どもたちのことが好きなのだ」
というセリフには温かさが感じられる。それにジョニーの
「すごく幸せってわけじゃない。幸せだなんて言ったら、ウソになる。けどさ、すごく不幸でもないんだから」
という言葉には何とも言えない前向きな雰囲気が漂っていて美しい。

ともかくも作者が持っている他者に対する優しさが感じられるすばらしい作品だ。
読み終えた後には胸にほんのりとした温かさと、ポジティブな感情を呼び起こしてくれる。さわやかな一品である。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

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