私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

『さよならドビュッシー』 中山七里

2013-01-20 18:30:12 | 小説(国内ミステリ等)

ピアニストからも絶賛!ドビュッシーの調べにのせて贈る、音楽ミステリー。ピアニストを目指す遙、16歳。祖父と従姉妹とともに火事に遭い、ひとりだけ生き残ったものの、全身大火傷の大怪我を負う。それでもピアニストになることを固く誓い、コンクール優勝を目指して猛レッスンに励む。ところが周囲で不吉な出来事が次々と起こり、やがて殺人事件まで発生する―。第8回『このミス』大賞受賞作品。
出版社:宝島社(宝島社文庫)




『このミステリーがすごい!』大賞受賞作である、『さよならドビュッシー』は、その経緯とタイトルが示すように、上質なミステリであると同時に、迫力に富んだ音楽小説である。
そして少女の闘いの記録であり、文字通り再生の物語でもある、と言えよう。

エンタテイメントとして贅沢で、楽しい作品であった。


まずミステリ部分。

これはもう、きれいにだまされてしまった。
はっきり言って、本作の大仕掛けに目新しさはないのだけど、丁寧にミスディレクションされていて、僕はまったく気づきもしなかった。
これだけきれいにだまされると清々しい気分になる。脱帽であろう。


それだけでも充分満足なのだが、本書の魅力はミステリ部分以外にもあると言っていい。
それはピアノの訓練に励む少女の姿を丁寧に描いているからだ。

主人公である火事にあった少女は、全身に火傷を負い、その結果、体中の皮膚は移植手術のためツギハギのようになり、声もだみ声になってしまう。
状況としては悲惨だ。

少女はそんな状況もあって、時折ネガティブな気分にも陥る。
だけど、最後はあきらめず、目の前の状況に立ち向かっていくのだ。

そんな彼女のモチベーションは、ピアノが好きだからという点もあるのだろう。
だがそれ以上に、彼女が基本的には自分に厳しく、果敢に挑んでいけるほど、芯が強い子という点が大きいと思う。
そんな彼女のキャラクターの造形が大変好ましい。


また本作は、音楽小説らしく、ピアノのシーンは圧巻であった。
僕はピアノを弾いたことはなく、音楽だって何となく聴くという程度でしかない。
だが音楽に対して、そんな程度の認識しかない僕でも、本作のピアノのシーンの臨場感ある描写には圧倒されてしまった。

「月光」や「アラベスク」の鬼気迫るような演奏描写や、「皇帝」の音に対する表現の豊富さには読んでいてどきどきしてしまう。
久しぶりにクラシックを聴きたくなったほどである。


というわけで、全体的にエンタテイメントらしい作品であった。
臨場感あふれる描写などで、後に残るものはないけれど、最後まで一気に楽しむことができる。
すばらしいミステリと思った次第だ。

評価:★★★(満点は★★★★★)



PS
名古屋出身者としては、地理関係が非常に気になった。
ピアノ教師の家が岩塚の西(しかも万場大橋から岩塚駅は結構離れている)で、主人公の家が本山の東だとすると、相当離れてないか?
重箱の隅をつついているのはわかっている。演出上の問題というのはわかっている。しかし名古屋の中でも、よく知っている土地なだけに、少し納得がいかないな。

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