私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「チェンジリング」

2009-03-08 19:51:48 | 映画(た行)

2008年度作品。アメリカ映画。
シングルマザーのクリスティンは、9歳の息子ウォルターに愛情を注ぎ、電話会社に勤めて生計を支えていた。そんな中、クリスティンの勤務中に、家で留守番をしていたウォルターが失踪する。誘拐か家出かの判別もつかない行方不明の状態が5ヶ月続く。そんなときウォルターがイリノイ州で見つかったという朗報がもたらされる。だがクリスティンの前に現われたのは見知らぬ少年だった。
監督は「ミリオンダラー・ベイビー」のクリント・イーストウッド。
出演はアンジェリーナ・ジョリー。ジョン・マルコヴィッチ ら。


総括から先に書くなら、非常に優れた作品だと言ってもいいだろう。
必ずしもイーストウッドのベストではないが、水準以上の作品に仕上がっている。

ストーリーを要約するなら、失踪した息子の再捜査を警察に要請するために母親が奮闘する、といったところだ。
そういう流れということもあり、見る前はもう少しこじんまりしたストーリーかと思っていた。だが、少しずつ政治的かつ社会的なテーマへとシフトしていくので、いい意味でだが、いくらか驚いてしまう。

だがどのようにテーマ性やストーリーがシフトして行こうとも、主人公である母親は徹頭徹尾、息子を探すという一点のために行動していく。その徹底的かつ意志的な姿が、この映画では強烈な光を放っていたように思う。

そんな彼女が息子のためにけんかを売るのは、権威を守るためなら手段を選ばない警察だ。警察は自己のメンツを守るために、母親を精神科病棟へと強引に収容し、人権を無視するような仕打ちをする。
そのような仕打ちを受けては、心だって折れてもおかしくないだろう。
だが息子を探してもらうという目的のためなら、彼女はどんな苛酷な状況でも決して一歩も引こうとはしない。希望だってまともにない状態の中でも、息子を探すことをあきらめることはしないのだ。

何でそこまでできるのだろう、と僕としては思ってしまうのだけど、ベタな言い方だが、それこそが母なる者の強さなのかもしれない。その姿は非常に印象に残り、感銘も受ける。

だが強く、意思的であることは本当に幸福なのだろうか、という気もしなくはない。
母親は最後まで息子探しをあきらめなかったことが、エンディングで紹介されているが、それは本当に良いことなのだろうか。
ラストの希望は希望なんかではなく、希望の形をした悲劇という見方だってできはしないだろうか。それはどう見ても生殺し状態ではないか。
そんな細い糸にすがるならば、新しい人生を歩み出した方が、長い目で見れば幸福なのではないだろうか。

もちろん他人が彼女に言い聞かせたところで、息子探しをあきらめることはできないだろう。
個人の幸福を決定するのは、個人の主観でしかない。ラストの希望が悲劇的に見えても、彼女の主観では紛れもない確固たる希望なのだ。きっと彼女からすれば、僕の意見など、うざいだけのおせっかいでしかないのだろう。

実際、彼女は息子を探すことをあきらめ、新しい人生を歩み出す機会がないわけではなかった。だが彼女は、いくつかの要因はあったけれど、最後まで息子を探すことを人生の目標に据えて進み続けている。
それは彼女も納得ずくの選択なのだ。だけどやっぱり僕には、その姿は悲壮なものに見えてならない。
そのため、ラストのトーンは明るく、母親の表情も晴れやかなのに、僕には少しだけ悲しく感じられてならなかった。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)


製作者・出演者の関連作品感想
・クリント・イーストウッド監督作
 「硫黄島からの手紙」
 「父親たちの星条旗」
・アンジェリーナ・ジョリー出演作
 「グッド・シェパード」
 「Mr.&Mrs.スミス」
・ジョン・マルコヴィッチ出演作
 「リバティーン」

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