私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

『夜叉ヶ池・天守物語』 泉鏡花

2007-08-29 21:10:51 | 戯曲
   
竜神が封じ込められているという夜叉ヶ池。鐘撞守となった晃は美しい娘百合と暮らしながら、竜神との約束の言い伝え通りに、日に三度、鐘を撞き続けていた。夜叉ヶ池伝説に取材した『夜叉ヶ池』と、姫路城天守に住まう富姫の伝説を基にした『天守物語』を収録。
近代日本文学における幻想文学の先駆者、泉鏡花の代表戯曲。
出版社:岩波書店(岩波文庫)


収録の戯曲2編は両方とも、怪談めいた世界を舞台にしており、その主筋にはロマンチシズムが貫かれている。そのためか物語の基本構造はメロドラマとも言っていい。一人の女が男を愛し、その愛が物語の展開に影響を及ぼすというつくりなどはまさにメロドラマの極致だ。
僕個人としては、そういう濃く可憐な恋愛ものが嫌いではないので、楽しんで読むことができた。それに2作品とも、プロットにうねりがあり、エンタテイメントとして優れたつくりとなっていたのも楽しめた要因だろう、と思う。

個人的に目を引いたのが妖怪の類が引き起こす、幻想性と怪奇性の部分だ。
特に『天守物語』での生首のシーンはなかなかグロテスクで、印象に残る。舌長姥が血をペロペロと舐める部分にただよう異常な雰囲気は独特で、一読忘れがたいものがあった。
幻想と怪奇とを大事にした、いかにも鏡花らしい世界観とも言えよう。
その強いインパクトもあり、僕としては『天守物語』の方が『夜叉ヶ池』よりも好みである。

とはいえ、現代小説を読みなれている人間としては、この戯曲2編に、若干の食い足りなさがあるのは否定できない。話の流れにやや齟齬が見られるのも個人的には引っかかる。
しかし、この作品にただよう雰囲気は鏡花らしい強い個性がある。その個性が現代でも鏡花が好まれる所以なのだろう。

評価:★★★(満点は★★★★★)

コメント (2)    この記事についてブログを書く
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2 コメント

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Unknown ()
2013-02-22 14:29:39
この作者のきれいな文章が好きです。話より文章が好きですね。
神様を信じるものと信じない者、そのどちらも救われない、やりきれないストーリー。
泉鏡花さんの作品は、青空文庫でもちょいちょい読めるので嬉しいですよね。
青空文庫みたいな無料で本が読める、ああいうサービスいいですね。
昔の作品や絶版ものや、売れなくなった小説や漫画でもやってほしいですね。そういうサービス出来たらいいのに。

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コメントありがとうございます (qwer0987)
2013-02-24 20:52:30
pさん、コメントありがとうございます。

鏡花の雰囲気はすてきですよね。文章がその雰囲気を生んでいる気配もあります。

僕もこの作品は、青空文庫で落として携帯で読みました。
今はスマホのアプリで気楽に読めるので、だいぶ便利です。
絶版物や売れないマンガもこういうサービスあればいいですよね。著作権の問題もあるので有料でしょうが、一回電子書籍化すれば、絶版にはならないはずなので、それを気長に待つしかないかもしれません。
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