晨光学院町田高校の英語教師、蓮実聖司はルックスの良さと爽やかな弁舌で、生徒はもちろん、同僚やPTAをも虜にしていた。しかし彼は、邪魔者は躊躇いなく排除する共感性欠如の殺人鬼だった。学校という性善説に基づくシステムに、サイコパスが紛れこんだとき―。ピカレスクロマンの輝きを秘めた戦慄のサイコホラー傑作。
出版社:文藝春秋(文春文庫)
こわい小説である。
読んでいる間は、何度もぞくぞくしたし、眉をひそめる場面だってあった。
それだけに背筋の凍るようなうそ寒さを覚えてしまう。
そしてそう感じたのはもちろん、本作の主人公、蓮実聖司のキャラクターと行動によるところが大きい。
蓮実聖司は英語教師として生徒たちの人気を博している。
だがその実態は他人に対する共感能力に欠けた冷血な男でしかない。
生徒と教師たちの支持を獲得したのも、彼が人気を取れるようなキャラクターを計算で演じたからにほかならないのだ。
だからだろう。彼は自分が過ごしやすい環境を手にするためなら、邪魔になりそうな人物を次々と排除していく。
その行動の迷いのなさが、不気味である。
実際ラストの方は、タランティーノの映画を思い出した。
第十章はひたすらにスプラッタで、血も涙もない。しかも殺戮っぷりは冷徹だから、おぞましささえ覚えてしまう。
だがそれゆえにB級映画を見ているような楽しさもあったこと自体は否定しまい。
それを抜きにしても、この作品は非道なくせしておもしろいのだ。
綿密に伏線は張られているし、ストーリー展開は二転三転するし、緊張感に満ちているしで、読んでいる間は手に汗握った。
特に、ああ、こいつは蓮実を痛い目にあわせるのだろうな、と思わせるようなキャラクターが、あっさり返り討ちにあうところなどはすごかったと思う。
期待をあおっておいての、この覆し方は本当に上手い。
エンタテイメントとしては文句なしの作品だろう。
しかし蓮実という男は本当にわからない男だ。
彼が考えていることは、文章として記述されているのだけど、それを読んでも、僕には彼のことが最後までつかめなかった。
それは、蓮実聖司という男が本質的に空っぽだからだろう。
彼の内面には感情もあるし、思考はある。
しかしそこには他人を踏みつけにして、自分の欲望を満たしたいだけというだけのものしか見えてこない。
彼は、状況に合わせ、自分に都合のよいように取り繕うことしか考えていないのだ。
彼には感情があるのだけど、そういった行動に、彼自身の感情はこれっぽちも込められていない。
たぶん蓮実は他者を理解することを必要とせず、他者から理解されることも必要としないのだろう。
それは普通の人からしたら、絶対的なほどに孤独なのだけど、蓮実にとっては、それが孤独であるという発想すら湧かないらしい。
そこにあるのは恐ろしく深い虚無としか言いようがない。
だからだろう。彼の殺人も、よくよく考えたら、無理が多いものばかりなのである。
あんな大量殺人を犯せば、たとえ証拠を全部かくしたとしても、蓮実が疑わしいことはすぐわかるものだ。
だけど彼はそういう他者の不信感をさほど重視しない。
それもまた、彼が共感能力にとぼしいことを示しているのかもしれない。
この人の考えることは意味がわからず、人間の理解を超えているし、拒んでいる。
そんな蓮実のキャラクターに圧倒されっぱなしの作品である。
エンタテイメントとしても高いレベルにあるし、満足そのもの。
禍々しくも、忘れがたいパワーに満ちた怪作である。
評価:★★★★★(満点は★★★★★)
そのほかの貴志祐介作品感想
『青の炎』
『硝子のハンマー』
その後でqwer0987さんも読まれてるし、他の方々の評価も良かったので、あの時、購入しておけば良かったと後悔しています(^_^;)なので近々、買ってしまいそうです!
qwer0987さん、映画も観に行かれる予定ですか?小説と映画どっちがいいんでしょうね。どちらも楽しめると嬉しいですよね(^ ^)
ただ恐ろしいだけでなく、ストーリーが二転三転するのは楽しめますね~!エンタテインメントとして文句なしなんて、益々読みたくなりました♪いつもありがとうございます(*^_^*)
たくさんの方々の評価も高く、qwer0987さんの感想を拝見して、あの時に購入しなかった事を後悔しています。すごく読んでみたくなったので近々、購入すると思います!
恐ろしいだけでなく、ストーリーが二転三転するのは楽しめそうですね(^ ^)
qwer0987さんは映画も観に行かれる予定ですか?
伊藤英明ハマってそうですよね!映画も小説みたいにエンタテインメントとして文句なしだといいですね!
怖いお話だと思いますが、やっぱり話題の物はチェックしたくなります!いつもqwer0987さんの感想を拝見すると読んでみたくなります♪色々ありがとうございます☆
確かにこわいっちゃあ、こわいので、好みは分かれるかもしれないけど、僕は結構好きでしたよ。
なんかの参考になるのなら、幸いです。
映画の方も見ました。伊藤英明がセミヌードを披露しまくりでした。
内容的には、人には絶対薦められないし、いろいろあるけど、僕は結構楽しめた方です。
早速、映画の方と観られたんですね!早いですね~!
伊藤英明のセミヌード、テレビで映画の宣伝している時にチラッと見ました(笑)蓮実は家ではいつも裸なんですか?
小説も映画も結構楽しむ事ができたんですね!とりあえず小説読みたいなと思っています♪
寝るときも裸みたいです。寒いだろ、何か着なよ、と思って見てました。
映画は毒が強めですが、小説はそれよりは抑えられているような気もしました。
とりあえずおもしろい作品だと僕は思います。
長いのでのんびり楽しんでみてください。