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外傷性脳損傷:米大統領「イラク戦争特有」 異例の認定

2009年03月01日 | スクラップ


 

 【ワシントン大治朋子】オバマ米大統領は27日の演説で、テロとの戦いで爆弾攻撃を受けた米兵に多発する外傷性脳損傷(TBI)について「イラク戦争特有の負傷」と明確に位置付け、治療法の確立に乗り出す意向を初めて公式に明らかにした。米国では戦争のたびに特有の負傷が出現したが、発症メカニズムの解明されていない兵士の負傷と戦争の因果関係を米大統領が戦闘継続中に認めるのは極めて異例。TBIの米兵は30万人以上にのぼるとの推計もあり、今後は限られた予算の中で治療や補償費用をどこまで確保できるかが課題となりそうだ。

 


■治療や補償費用の確保が課題

 爆風による脳損傷は、03年開戦のイラク戦争で武装勢力による爆弾攻撃が激化した同年夏以降に増加した。オバマ大統領は演説で「帰還兵に対する医療体制を拡充し、より多くの施設で最善の治療が受けられるようにする」と約束。「この戦争特有の負傷であり、新たな診断、治療法に投資する」と述べた。

 ベトナム戦争(1960~75年)では米軍が有害物質ダイオキシンを含む枯れ葉剤を使い、米兵が健康被害を訴えた。湾岸戦争(91年)でも帰還兵が原因不明の健康不良を訴え「湾岸戦争症候群」と呼ばれたが、いずれも戦争との因果関係に明確に言及したのは戦争終結後に就任した大統領だった。ブッシュ前大統領もTBIとイラク戦争との関係について、公式の演説で述べていない。

 医療現場では、TBIの症状を訴える帰還兵が「従軍前からの異常」などと戦闘との因果関係を否定され、十分な治療や補償を受けられないケースが続出している。

 オバマ大統領は26日に議会に提出した予算教書概要で包括的実態調査を重点項目に掲げた。さらに27日の演説では治療体制の改善を約束したが、医療関係者によると爆風によるTBIの年間治療費は一般に3万ドル(約290万円)前後で、兵士の心的外傷後ストレス障害(PTSD)の年間平均治療費の3倍と高額で、財源捻出(ねんしゅつ)が今後の課題となる。

 

毎日新聞 2009年2月28日 20時00分







■外傷性脳損傷(TBI)

 外力によりもたらされる脳の組織の損傷。日常生活では車の事故やスポーツでの転倒などで頭部に直接的な衝撃を受けて起きることが多い。戦場でのケースの大半は爆発の爆風によるもので、外傷がない。診断が難しく、脳機能の回復にはリハビリなどが必要。治療が遅れると症状が固定しやすい。



毎日新聞 2009年2月17日 東京朝刊







対テロ戦争:米兵、脳損傷2万人以上…外傷なし、爆風で


武装勢力の爆弾(IED)による人体の損傷
武装勢力の爆弾(IED)による人体の損傷



 【ワシントン大治朋子】イラクやアフガニスタンでの戦争で、反米武装勢力の爆弾攻撃を受けた米兵が爆風だけで脳内に特異な損傷を負うケースが多発している。毎日新聞の米国防総省などに対する情報公開請求で、その負傷兵士数が少なくとも2万人以上に上ることが分かった。頭部に外傷がなく、脳組織だけが破壊されて記憶障害などの症状を起こすのが特徴。ハイテク防護服が従来以上に米兵の生命を守る「生き残る戦争」の現状が背景にあり、米軍は対テロ戦争で新たな課題に直面している。

 武装勢力は米軍への攻撃で、改良して爆発力を増したIED(即席爆発装置)と呼ばれる手製爆弾を多用している。毎日新聞が入手した米陸軍病院作成の資料(06年3月)によると、手製爆弾の多くは超音速(秒速約340メートル以上)の爆風を生む。武装勢力は爆弾を道路脇などに仕掛け、米軍の至近距離で爆発させている。

 医療関係者らによると、爆風の衝撃波が外傷性脳損傷(TBI)という負傷をもたらす。著しい記憶障害やめまい、頭痛、集中力低下などが主な症状。過去の戦争での医学的データはほとんどなく、損傷のメカニズムは分かっていない。

 国防総省の開示文書によると、同省管理の病院で03年1月から昨年末までに脳損傷と診断された米兵は約9000人。また、退役軍人省が管理する病院では07年4月から08年10月までに、約1万3000人が同様の診断を受けており、総数は2万2000人に及ぶ。さらに2万人に「疑い」があり、実数はこれを大きく上回るとみられる。詳しい診断状況が報じられるのは、米メディアも含め初めて。

 陸軍病院脳損傷センター代表のマイケル・ジャッフェ医師は取材に対し、05年以降、論文などでこうした脳損傷の発生について「強調した」と述べた。しかし、米軍が対策を本格化させたのは07年秋以降で、米国防総省は事態を認識しながら、迅速な対応を取らなかった疑いもある。

 

毎日新聞 2009年2月17日 2時30分(最終更新 2月17日 10時37分)







米兵脳損傷問題:外傷性脳損傷、包括的実態調査へ 兵士の体調変化追跡--国防総省



 【ワシントン大治朋子】イラクやアフガニスタンで手製爆弾(IED=即席爆発装置)攻撃を受けた米兵2万人以上が爆風による外傷性脳損傷(TBI)と診断されている問題で、米国防総省がTBI対策に向け包括的な実態調査に乗り出すことが分かった。攻撃を受けた状況や兵士の体調変化を追跡調査する方針で、オバマ政権はTBI発症のメカニズムの解明に向け積極的に取り組む姿勢を鮮明に打ち出した。

 また、オバマ大統領が26日に議会に提出した10会計年度(09年10月~10年9月)予算教書概要に兵士のTBI対策が「重点項目」として盛り込まれたことも明らかになった。この問題が同教書概要に明記されたのは初めてで「国防総省が直面する代表的な軍医療上の課題」の一つだと指摘している。同省は「包括的なTBIの記録」作りに取り組むという。

 03年開戦のイラク戦争では、同年夏ごろから武装勢力による爆弾攻撃が急増。爆風による衝撃波で、目に見える外傷が頭部にないのに兵士の脳組織が破壊される症例が多発した。

 負傷者の多くは帰還後初めて異常を訴えている。戦場では一般に、爆弾攻撃を受けても、兵士に目に見える負傷がない限り、攻撃を受けた状況などを必ずしも詳しい記録に残していない。このため、どのような種類の爆弾攻撃をどのくらいの距離や回数で受けると脳損傷が起きるのかなど基礎的データが不足している。一部医療関係者は「発症メカニズムの解明に調査は不可欠」と指摘。包括的調査の必要を訴えていた。


 

毎日新聞 2009年2月28日 東京朝刊







米兵脳損傷対策:国防総省が長期放置 専門家99年に指摘


 【ワシントン大治朋子】イラクやアフガニスタンで手製爆弾(IED=即席爆発装置)攻撃を受けた米兵2万人以上が爆風による外傷性脳損傷(TBI)と診断されている問題で、米国防総省などが99年から研究者に爆風と脳損傷の関係について調査・対策の必要性を指摘されながら長年放置していたことが、毎日新聞の調査で分かった。重い防護服が症状を悪化させる危険性も指摘されたが、同省は07年になってようやく対策を本格化させた。一連の対応の遅れが事態を悪化させた疑いが浮上している。

 国防総省は、爆弾による負傷は飛来物などによる直接的な衝撃で起きると考え、重厚なヘルメットや防弾服を積極的に導入した。しかしイラク戦争では、目に見える外傷がないのに爆風だけで脳損傷を起こす米兵が続出。米国防総省は対応に追われ、07年以降、戦地に向かう米兵の脳機能を事前に検査するなど対策に乗り出した。

 ミネソタ大のデビッド・トルードー准教授は退役軍人省軍医だった98年、湾岸戦争(91年)帰還兵らを対象に脳波の調査を実施。爆風をあびた帰還兵が車の事故で脳損傷を負った患者らと同様の兆候を示していることに気づいた。同年医学論文で発表し、翌99年から2年間にわたり複数回、同省に拡大調査のための予算措置を求めたが、認められなかったという。論文は最近、「爆風と脳損傷の関係を最初に指摘した」として医学雑誌などに再掲されている。

 また、ジョンズ・ホプキンス大のイボラ・セルナック医師も01年から05年にかけて、米国防総省に対し繰り返し、爆風と脳損傷の関係調査の必要性を訴える提案書を送った。しかし「優先順位が高くない問題」と拒否された。セルナック医師は90年代の旧ユーゴ紛争で、多数の兵士が爆風にあおられ記憶障害などを起こす症例を調査。99年に論文で発表している。

 セルナック医師は重くて硬い防弾服が、爆風が兵士に与える圧力をさらに増幅させることも指摘。国防総省は08年、従来の防弾服を見直し、「(爆風による)衝撃波を消散させるのに効果的」(予算請求書)な伸縮性のあるセラミック素材の軽量防弾服の研究を始めた。

 「放置」批判に対し、米陸軍病院脳損傷センターのジャッフェ代表は「03年から兵士の脳検査について研究するなど、早期に取り組んできた」と説明している。

 


■補償認定の壁高く

 「テロとの戦い」で爆弾攻撃を受けた米兵に多発する外傷性脳損傷(TBI)は、目に見える傷がないため確認が難しい上、米国防総省の対策が遅れたため、状況をさらに悪化させている。

 武装勢力は不発弾や日用品で作る即席爆発装置(IED)に改良を重ね、威力を増大させている。これに対し米軍は最新鋭の装備を導入。イラク戦争では負傷者の9割が生存し、過去の戦争でも例を見ないほど生存率が高まっている。

 一方で、爆風という予期せぬ凶器は米兵に「見えない傷」を刻み続けていた。記憶障害や頭痛、集中力の低下などをもたらすTBIを患った帰還兵には失業、離婚に追い込まれるケースも多い。少なくとも2万人以上の米兵がTBIと診断されているが、米シンクタンク「ランド研究所」は対テロ戦争に派遣される米兵の約2割に相当する約32万人が同損傷を負う可能性に言及している。米軍管理の病院では記憶障害を訴えた帰還兵が「先天性だ」と言われたり、爆発との因果関係を否定されている。

 退役軍人省の元医師、トルードー・ミネソタ大准教授は「政府は補償費用の問題などがあり、ベトナム戦争や湾岸戦争の帰還兵が訴えた戦争特有の負傷もなかなか認めなかった。今回も同じようなことが起きている」と指摘している。

 

毎日新聞 2009年2月21日 2時30分(最終更新 2月21日 2時50分)


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