ペパキャンのサバイバル日記

円形脱毛症で髪の毛がなくなりました。今はスキンヘッドライフ満喫です。
見た目問題当事者としての情報発信中!

二種類の人間

2006-02-26 00:00:00 | インポート
 今日はいつもより少し長くなりそうな気がするので、いつもとは違った体裁で書いてみようかな。うまく書けるかな。お暇な方はお付き合い下されば嬉しいです。

 子どもが生まれる前に会社勤めをしていた頃の話だ。その日は給料日でお昼に私達同僚はささやかな贅沢をしようと前から決めていた。会社の近くにある紅茶専門店に行こうと。紅茶をちゃんとティーポットとティーコージー付きで出してくるお店で店の雰囲気もなかなか老舗という感じのお店だ。

 そのためには12時きっかりに仕事を終わらせ、速攻でお弁当を食べなければならない。何しろその紅茶専門店は結構な値段の割にはいつもひどく混みあっているからだ。12時ちょうどに私が休憩室に行くと同僚のA子が既に来ていた。ところが湯のみ茶碗がない。

 当時私達は女性が100人ほど一つのフロアで働いており、お昼に使う湯のみ茶碗をそれぞれ持参していて当番制でその100個の湯飲み茶碗を洗うことになっていた。あいにくその日は前日の茶碗洗い当番が洗うのを忘れていたのだと思う。忙しい職場ではよくあることだ。

 さて困った。この湯飲み茶碗100個を今から洗うと間違いなく紅茶専門店は諦めなければならない。何しろ女性が使った茶碗にはどれも口紅がべっとり。どう短く見積もっても15分は洗う時間が必要だ。その時ふいにA子が言った。「私たちの分だけ洗えばいいやん。そうすれば紅茶専門店に行けるよ。」なかなか合理的な意見に思えた。

 だが私は汚れた茶碗の山を前にして、100個の茶碗の中から自分達の分だけを探し出し、それだけを洗い、さっさと紅茶専門店に行くことができなかった。うまく言えない。それはなんだかとても自己中心的で人間としてやってはいけないような行為のような気がしたからだ。それは綺麗事でも何でもなく性分のようなものだ。

 結局私はA子を含む同僚の茶碗を先に洗い、彼女達だけ紅茶専門店に行ってもらった。ただそれだけのことだ。この話には教訓もなければオチもない。でも何故だか最近このことをよく思い出す。A子はきっとこのことを忘れているだろうし、覚えていなければならないような大切なことは何もない。

 A子は関西では誰が聞いても知っているような有名な私立大学を卒業し、入社直後に受けた社内英語検定で過去最高のスコアを叩き出し周囲を驚かせた。英語教授を父に持ち、学生時代からプレリュードを乗り回し、色白のなかなかの美人である。社交的で行動力に富み、趣味はテニスと社交ダンス。

 学生時代からつきあっていたテニスサークルの先輩、これがまた絵に描いたようなハンサムなエリート商社マンと結婚し、夫がMBA取得のために海外に赴任するのを機に会社を辞めた。今はまた別の地で現地の言葉を習いながら、娘をアメリカンスクールに通わせ、自分は運転手とメイドつきの優雅な生活を送っている。

 一方私は大阪の片隅で今日明日を憂いながらのへばりつくような生活。正直彼女のことを羨ましいと思うこともある。人生のある時期、同じ職場で同じような仕事をしていたというのに今の彼女と私の境遇は天と地ほども違う。何がどうなって私達はこんなにも違う地点に着地してしまったのだろうと。

 ただ一つ言えることは人には二種類の人間がいるということだけだ。そこに100個の汚れた湯飲み茶碗があった時、何も考えずに洗ってしまう人間と、きちんと自分の分だけを選りすぐって洗える人間。どちらがよいとか悪いとかの話ではない。ただ二種類の人間がいるというだけのことだ。