・・・・・・とにかく、話を始める。
実はねえ、去年のお正月が明けたか、明けないかってころにうちのおばはんのところに千葉の海沿いのところに住んでいる義理のお母さんから電話があって、妹のみいちゃんが帰って来ないけどそっちに行っているかって問い合わせてきたのよ。
えっ、そういうお前さんは誰だって？
あたしはうちのおばはんのスマートフォンよ。あの人、機種変更したから、あたしも今はガラケーじゃないの。スマホなんて使わないとか言ってたくせに、お店の人に勧められたら気が変わっちゃったのよね。あの人、タブレットやパソコンも使うから当分スマホはいらないと思ってたはずなのにさあ、移り気もいいとこよね。でもあの人、あいかわらずディズニーのキャラクター物が好きで、あたしの待ち受けはおしゃれキャットのマリーを使ってるからまあいいか。あたしもとうとうスマホのマリーって呼ばれるようになっちゃったわ。
でも家のおばはんの知り合いの人たちは、今でもマリーさんとか、マリーちゃんて呼んでくれてるわ。あたしってあの人の足スタンドじゃないや、アシスタントか、相棒とか、なんかそんなところみたいよ。
それはとにかくさあ、妹とはおととしの秋に一緒にスカイツリーを見に行って、そのちょっと後に失業したって電話があって、あの人も心配はしてたのよ。だけどまた年が明けてから会うつもりで松がとれるまで待っててねって言っておいたからそんなに急がなかったんだわさ。
それなのに行方不明の知らせでしょう。変な話をするつもりはないけど、その日だったか前の日だったか、すごくいやな悲しい気分で目を覚ましてたのよ。実の肉親の異変てなんだか知らないけどなんか前知らせみたいなものがあるのよね。そんな馬鹿なって言われちゃいそうな、普通あるはずの無いようなことが起こったりするの、あの人、お父さんの臨終の床でも経験してたから、すごく心配して交番に寄っておまわりさんにこういうときはどうしたらいいのかってきいてみたのよ。
それで千葉は遠いから自分の住んでいる地域の警察署に行って、捜索願を出したんだわ。残念ながらすぐに警察から電話が来て、あの人、遺体の写真確認に行ったの。今は遠くからでもすぐに連絡が取れる時代だし、ファックスで送られてきた写真を見たら、鼻の形が小さいころから見慣れたかたちだったんだわ。翌日家族そろって直接遺体の確認に行ったのよ。真冬の寒いときに冷たい海に入って死んじゃったんですって。
あれからもう一年半経って、やっと家のおばはんも心の痛むところに触っても大丈夫になってきたからって、これからあたしにちょっと仕事を手伝えっていうのよ。
死んでしまった妹のことで思ったこと、考えたこと、教えられたことをまとめてみたいらしいのよ。どんなものになるんだか全然わかんないけど、あたしの手助けが必要だって言うし、まあ手伝ってみるわ。
一度に書けるような話じゃないから、ま、今日はただのとっかかりよ。今日のところはこの辺で終わるわよ。ほんじゃ、またね。