釜石の日々

岩手県釜石市に移り住んで16年8ヶ月が過ぎ、三陸沿岸部の自然の豊かさに感動する毎日。

二人の冤罪被害者

2014-04-23 19:19:44 | 社会
今朝の気温は6度になっていた。雲の多く流れる晴れた日で、朝は少し寒く感じた。午前中から北上に向かった。遠野は釜石より気温が3度高い。山間部から北上の市街地の見える辺りから桜が咲いていた。山間部はやはりまだ咲いていない。「桜名所百選」、「陸奥(みちのく)三大桜名所」である北上川に沿った2Kmの桜並木がある北上展勝地は車の渋滞が始まっていた。その渋滞を外れて、車を止めて、広いまだ水の引かれていない水田の畦道に入った。桜並木の後方には遠く雪の残る焼石連峰が望まれる。標高1000m以上の14の山が連なる。桜並木を対岸から見ると、雪解け水で水量の増した北上川が流れ、観光用の遊覧船が行き交う。珊瑚橋には立ち止まって桜を見る人たちがいた。北上は釜石より気温が5度も高く、良く晴れていた。 1966年6月17日、米国ニュージャージー州で3人の白人が銃で射殺された。それから13日後の6月30日、静岡県清水市で一家4人が殺された。両事件で逮捕されたのはいずれもプロボクサーであった。一方は1937年生まれのルービン・カーターRubin Carterで、他方は1936年生まれの袴田巖だ。事件が起きた頃の米国は黒人差別が残り、公民権運動も盛んになっていた。黒人であったカーターは少年時代に盗みをしたため少年院に入り、その後軍隊でボクサーとしての才能に目覚め、プロボクサーとなった。ヨーロッパのライト・ウェルター級チャンピオンにまでなっており、リングネームをハリケーン称し、ルービン・ハリケーン・カーターと名乗っている。逮捕された後、終身刑を言い渡され、19年間服役したが、無罪を訴え続け、カーターに有利な証拠が検察により隠蔽されていたことなどが発覚し、1985年に有罪判決が破棄された。自由の身となったカーターはカナダのトロントで冤罪被害者の支援活動に関わり、1993年から2004年まで支援団体の初代代表を務めたりしていた。1994年、世界ボクシング評議会(WBC) は、カーターに世界ミドル級名誉チャンピオンの称号とチャンピオンベルトを授与している。袴田巖は20日近くの勾留に耐え切れず、自白したが第一回公判で罪を全面否認した。以来、無実を訴え続けるが、死刑判決が下さる。長期の拘禁状態に精神状態も異常を来したが、なお、無罪を訴え続けて来た。有罪の決め手となった衣類にも不審な点が多々あり、袴田に有利な新証言もあって、今年3月27日、静岡地裁が再審開始と、死刑及び拘置の執行停止を決定した。ギネスブックにも記録された48年間の拘束であった。その1週間前の3月20日ルービン・ハリケーン・カーターは前立腺癌の合併症によりカナダのトロントで死去した。袴田もカーター同様に世界ボクシング評議会認定フェザー級名誉王者の称号とチャンピオンベルトを授与されている。カーターについては現在来日中の歌手のボブ・ディランBob Dylanも自ら事件を調べ、冤罪であることを確認し、支援の歌「ハリケーン」を歌っている。また1999年にはデンゼル・ワシントン主演の映画『ザ・ハリケーン』も公開されている。袴田については2010年に映画『BOX 袴田事件 命とは』が公開され、1979年に歌手の松山千春が「窓」を歌っている。二人はともにプロボクサーとして将来を期待されている時に突然、冤罪により、ボクサーとしての道を断たれ、袴田などは人生の半分以上を拘束された身で過ごすことにされた。同じ冤罪で逮捕されながらも袴田はカーターの倍以上の拘束期間であった。そこには日米の司法の違いも大きく影響しているだろう。日本は未だに逮捕後の弁護士との接見が制限されており、隔離された拘束環境で自白が強要されやすくなっており、物的証拠も警察や検察が捏造する体質が黙認されている。本来ならば裁判所がそれを見抜かなければならないが、裁判所も検察側の主張を入れやすい体質になっている。警察の捜査結果を検察がチェックし、検察の主張を裁判所がチェックすると言う2重のチェック機能が全く機能していないのだ。冤罪事件がいつまでも絶えないのはこうした日本の司法制度が一向に改善されないためである。昨年12月に成立した特定秘密保護法はこうした冤罪をさらに増やす危険性も持っている。1967年に起きた布川事件で44年間拘束された冤罪被害者の桜井昌司は現在もなお、関係した当局者に会うと「やったのはお前たちだと確信している」と言うそうだ。冤罪は公権力で平気で殺人を犯そうとしているようなものだ。袴田事件で「事件は無罪であるとの確証を得ていたが裁判長の反対で死刑判決を書かざるを得なかった」と自分の下した判決に涙した熊本典道元裁判官のような存在は裁判官の中でも稀である。
焼石連峰を背後に控えた北上展勝地

赤い屋根の付いた名物の馬車も出ていた

駐車場は満杯になっていた

北上川には鯉のぼりも風に揺れていた

遠くに珊瑚橋も見える

北上市立利根山光人記念美術館付近の山に自生する片栗の花

片栗の花の近くにはこの菊咲きイチゲや二輪草もたくさん咲いていた