釜石の日々

岩手県釜石市に移り住んで16年8ヶ月が過ぎ、三陸沿岸部の自然の豊かさに感動する毎日。

長野県北部の地震

2018-05-31 19:18:06 | 科学
今月25日、長野県北部でM5.2の地震があった。内閣府では海溝型地震である南海トラフ巨大地震や相模トラフによる首都直下型地震を、その被害の大きさから重視している。今回の長野県での地震は全長150Kmに及ぶ糸魚川ー静岡構造線断層帯で起きている。政府の地震調査研究推進本部の主要断層の長期評価では、この糸魚川ー静岡構造線断層帯での地震の発生確率では最大M8.1の地震が30~40%の確率で発生するとしている。1億3000年前、日本列島の原型はアジア大陸の東端にあり、大陸が乗るユーラシアプレートに太平洋側のイザナギプレートが押し寄せ、これにより、日本列島の原型が南北に横ずれした。この横ずれの境界が現在の、九州から四国北部を経て紀伊半島を横断し、伊勢湾を横切り、天竜川に沿って北上して、長野県諏訪湖付近で糸魚川―静岡構造線と交わる、全長1000Km以上の中央構造線である。2500万年前に日本列島の原型はアジアから離れ始めたが、この時、中央部が二つに折られる形で離れ始めた。2000万年前に日本海が広がり、南北に別れた日本列島の原型の間には日本海と太平洋を結ぶ海が存在した。500万年前になり、フィリピン海プレートが伊豆半島を伴って日本列島に近付き、300万年前に南北に別れていた日本列島が圧縮され、東日本側に続く海底が隆起し、現在の中央地溝帯フォッサマグナが形成された。この西端が糸魚川ー静岡構造線断層帯である。日本列島の原型がアジア大陸の東端で形成された後、大きく移動しているため、列島には途方も無い数の断層が形成された。確認されているものだけで20000とも言われるが、未知の地下の断層がまだまだ隠れている。日本列島の形成過程でこれだけ複雑な移動があったのは、それを引き起こしたプレート自体の複雑さがある。ユーラシアプレートと北米プレートに対して、太平洋プレートやフィリピン海プレートが潜り込む。その圧力が断層や地下のマグマに及ぶ。プレートが潜り込んでいるいるところが海溝やトラフと呼ばれている。直接的な圧力がかかるところだ。その圧力が歪みを生み、歪の解消される動きが地震となる。2011年の東北地方太平洋沖地震は、太平洋プレートによる歪の一部を解消したにすぎない。またフィリピン海プレートプレートによる歪みも解消されないまま存在する。糸魚川ー静岡構造線断層帯はまさに北米プレートとユーラシアプレートの境界だとされている。長野県北部では東日本大震災の翌日にM6.7、 2014年11月にも同じくM6.7の地震があった。江戸時代の記録では、1714年3月に同じ地域で直下型地震が起きている。死者や家屋の倒壊が多くあり、善光寺の石灯籠はほとんど倒れている。2011年の震災の後の10月13日に行われた静岡市での日本地震学会では、神戸大学の石橋克彦名誉教授が、「四国沖にかけての「南海トラフ」と中部地方を縦断する「糸魚川~静岡構造線断層帯」が連動し、M9クラスの巨大地震が起こる可能性がある」と発表されている。石橋名誉教授のGPS測定結果からの分析は現在有力となって来たアムールプレート説によっている。これまでユーラシアプレートとされて来た満州、朝鮮半島、西日本、沿海地方を含んだ地域が独立したプレートであると考えられるようになって来た。東海、東南海、南海の3つの想定震源域では、アムールプレートの下にフィリピン海プレートが潜り込んでおり、3領域で地震が連動して起こるとアムールプレート東端の糸魚川~静岡構造線断層帯のうち、長野県松本市~静岡市の部分でも地震が起きる恐れがあると言うものだ。震源域の長さは東日本大震災の500Kmを上回る700KmになるM9の巨大地震である。
獨逸菖蒲(どいつあやめ)

The Calm Before The Storm 嵐の前の静けさ

2018-05-30 19:11:38 | 経済
米国の2008年のリーマン危機を予想し的中させた経済評論家で、自身、証券仲介会社Euro Pacific CapitalのCEOでもある ピーター・シフPeter Schiff氏は、今月15-16日にカナダのバンクーバーで行われた「International Mining Investment Conference 2018国際鉱業投資会議2018」の基調講演で、現在が「The Calm Before The Storm 嵐の前の静けさ」であると述べている。今年後半から来年にかけての時点で景気後退に入ると見る人が多くなって来た。1971年に金本位制から離脱した米国は、単なる紙でしかないドル札を、コントロール可能だとして、その都度景気をコントロールするために印刷して来た。しかし、金利と合わせてコントロールして来た中央銀行は自ら罠に入り込んでしまった。金利調節のタイミングを誤り、不景気を作り出し、その度に紙幣を印刷し、政府、一般金融機関、企業、個人は債務を膨らませて来ている。1980年には、米国の総政府債務および個人債務は3兆ドルをわずかに上回った程度であったが、今日では41兆ドルを超えてしまった。一般企業は現在8.8兆ドルの債務を抱えている。リーマン・ショック後の2009年以降で企業は49%債務を増加させた。昨年4月国際通貨基金IMFは、この米国の企業債務のうち3.9兆ドルは金利上昇でデフォルト(債務不履行)の危険にさらされると発表した。一般金融機関も膨大な債務を抱えている可能性がある。金融機関はデリバティブなどの金融商品を金融機関同士で購入するが、決済期日が来るまでは帳簿に載せる必要がないため、その額がどれほどになるか公表されない。2008年には9兆ドルがデフォルト対象となった。政府と中央銀行が、デフォルトに陥った金融機関にマネーを流し、規模の大きい金融機関を救済し、小さいリーマン・ブラザーズなどが潰された。しかし、この救済は単に覆いを被せただけであり、債務が返済された訳ではなく、今では再び巨大なデリバティブが取引されている。景気を回復させようとする中央銀行は低金利とドルの印刷で、かえって市中や政府の債務を増大させて来た。金本位制下ではあり得ない紙幣増刷が可能だからだ。金本位制では中央銀行が保有するゴールドの範囲でしか紙幣増刷は出来ない。従って、非効率な債務は発生してもわずかである。経済危機は債務の規模に比例する。今では2008年をはるかに上回る債務が世界に存在する。世界の総債務は233兆ドルで、世界の総GDPの3倍である。これには金融機関の帳簿に載らないデリバティブなどは含まれていない。2008年にはリーマン・ブラザーズのCEOは破綻する2週間前に、「当社はこれまでの最高の利益を得た」と発表していた。景気後退が始まり、本格的な不況に到るまでに1〜2年の時間差があるが、今回経済危機が起きれば、かってない世界恐慌に至ることは確かだ。先進国には膨大な負債があり、新興国はまだ脆弱で、先進国の経済に頼って来た。その先進国が倒れれば、爆風で世界中の経済がなぎ倒される。基軸通貨ドルへの信頼も失せてしまう。経済危機の引き金自体は米国とは限らない。ブラック・スワンはどこにでも潜んでいる。
紫蘭

重力変化が地震の前兆となる可能性

2018-05-29 19:20:37 | 科学
岩手県には東の北上山地と西の奥羽脊梁山地がある。北上山地は主に2000万年前の先新第三系と呼ばれる地質から成る。奥羽脊梁山地も同じく先新第三系の地質を基盤とするが、その上を1500万年前の地質や250万年前の火山噴出物が覆う。要するに極めて古い地質が重層している。ところで、地球は自転しており、そのため地表では遠心力が働いている。そして、地球の中心に向かう引力も働いている。この二つの力で重力が構成されている。この重力は定数(9.807)に質量をかけて求められる。質量は密度と体積をかけたものだ。体積が同じならば、密度が高いほど質量は多くなる。当然、その時の重力も大きくなる。米国航空宇宙局NASAは人工衛星を使って、地球上の重力を測定している。このNASAの重力測定値を使って、2年前にオーストラリアのカーティン大学Curtin University の研究者たちが重力世界地図を作製した。これによると、日本列島の太平洋側は重力が大きく、特に東日本は顕著だ。東北では内陸部まで重力が大きくなっている。4月9日出版の科学誌NatureのNature Geoscienceにフランスの研究者の「Migrating pattern of deformation prior to the Tohoku-Oki earthquake revealed by GRACE data」と言う論文が掲載された。重力を測定する人工衛星GRACEのデータを分析した結果、日本の東北地震の前に重力の異常な変化が起きていた。東北の北上山地や奥羽脊梁山地はかっては海底であった。太古の海の化石がたくさん発見される。東北の太平洋側の海底もやはり北上山地などと同じ岩盤で構成されている。2007年の末に釜石へ来て、頻回に起きるの地震のたびに、その前に聞こえて来る地鳴りに驚かされた。日本の各地に住み、どこでも多少は地震があった。しかし、地震の前に地鳴りが聞こえて来るのは釜石が初めてであった。地元の人たちは、それが当たり前なので、何とも思っていない。地鳴りがあると言うことは、よほど岩盤が硬いと言うことだろう。つまりは密度が高いのだ。岩手の太古の密度の高い地質が大きい重力として測定されていたのだ。東日本の特に太平洋側が重力が大きく、それは北米プレートに乗っており、その下に東から太平洋プレートが潜り込む。こうした状況では、北米プレートには相当の圧力が及び、密度をさらに緻密にしていた可能性がある。それが重力の異常な増大となって観測されていたのではないだろうか。地震により、圧力が解放され、密度も緩和されると、重力はそれまでよりも低下する。カーティン大学の重力世界地図は見事に環太平洋火山帯の大きい重力を表している。こうしたことからも米国の研究者たちは重力変化が地震、特に巨大地震の前兆として見ることが出来るのではとして、研究を進めているようだ。
菖蒲

金利と経済危機

2018-05-28 19:13:08 | 経済
先週あたりから、川沿いを歩くとカジカガエルの声とオオヨシキリの声をよく聴くようになった。晴れた日の日射しはもう夏の日射しに変わって来ており、周囲の緑が濃く、風は爽やかだ。まさに初夏を感じさせられる。そして、夜にはその初夏の鳥でもあるホトトギスの声も聴かれるようになった。遠野の上郷の産直では水が引かれた水田の田園風景が見られ、その近くの山からはカッコウの声も聴かれる。いつの間にか春が去り、夏が近付いて来た。例年、5月の最終の土日に住田町の赤羽根産直で敦盛草の講習が開かれていた。山野草の敦盛草は野生蘭の女王であり、独特の形と色合い、大きさにとても惹かれる。釜石へ来て初めて知って、たちまち虜になった。毎年、この講習を楽しみにしているが、今年は、気温の関係で、1週間早くなっていた。残念にも逃してしまった。 22日、米国下院議会でドッド・フランク法の改正法案が可決された。ドッド・フランク法は2008年のリーマン・ショックの反省から、金融機関の安易なリスクへの投資を規制する目的で制定された。今回の「改正」は中小の金融機関への規制を緩和することで、中小金融機関の苦しい経営環境を改善するとする。金融機関は短期金利と長期金利の金利差で利益を得る。低い金利の短期の資金を借り受けて、住宅ローンのような長期の貸付で、金利を高くして、その金利差で収益をあげる。しかし、米国、日本、EUの中央銀行はこぞって超低金利を誘導した。しかも、現在の米国の金利は短期と長期の金利差がごくわずかで、そのため確かに中小の金融機関は苦しい経営状況に置かれている。長短の金利差はわずかになっているが、日欧よりも金利が高い米国に資金が向かい、そのためドル高になり、新興国は自国通貨が下がり、厳しくなって来ている。1997年タイに始まったアジア通貨危機はドル準備が少なくなっている状況を見越して、投資家たちがアジア諸国の通貨を売ったことで引き起こされた。これに対抗するには各国がドルを十分に保有して、そのドルを売る必要があった。金利の上がった通貨は、その金利を求めるマネーが集まり、その通貨への需要が増えるため通貨を高くする。中国、ロシアなどのいわゆるBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)などは、アジア通貨危機の経験から、変動するドルに翻弄されないために、ゴールドを自国通貨の裏付けとする方向へ大きく舵を取っている。最近のドル高はトルコ経済に大きく影響している。そのトルコもゴールドを集めている最中である。先週末くらいから上がって来ていた長期金利の指標である米国10年国債の金利が3%を割ってしまっている。それにつられてドルも若干下がっている。長短金利の差がなくなることをイールドカーブのフラット化と言う。イールドカーブは利回り曲線と言うことだが、グラフ上に短期金利点と長期金利点を表し、その点を結んだ直線の傾きを見る。通常は長期側が高くなる傾きであるが、金利差がなくなると、当然、直線の傾きは平坦になる。過去の7回の景気後退期には6回で、このカーブが通常とは異なり、長期側が短期側より低くなる、逆イールドカーブと言われる状態になっていた。要するにこのカーブの形が景気後退の前兆となることが多いのだ。2008年のリーマン・ショックは大手金融機関が巨大な負債を抱えたが、潰せないとして、政府や中央銀行がそうした金融機関に資金を投じて、救済した。救済された大手金融機関はむしろ安易になり、再びリスク投資を膨らませている。ミネアポリス連邦準備銀行ニール カシュカリNeel Kashkari総裁は先週、インタビューで、「たった10年で、すでに前回の金融危機の悲惨さを忘れている。」「次の危機が来れば、政府は再び言うだろう。『銀行システムが崩壊し、その損失を株主・債権者に負わせれば、実体経済を荒廃させ、再びグレート・リセッションや大恐慌に陥ってしまう。だから救済しなければならない。』これこそ銀行の株主が責任を果たしていない究極の理由だ。」「「リスクは、FRBが不必要に速く金融政策正常化を進め、経済回復を終わらせてしまうことだ。私が注意していることの1つがイールド・カーブの形状で、かなりフラット化してきた。」と語っている。
庭の敦盛草

通貨価値の変動

2018-05-26 19:09:23 | 経済
資本がグローバルに移動する現在の世界では、少しでも多く利益を得るために、利子率の高い国へ資本は流れる。米国の中央銀行FRBは、2008年のリーマン・ショック後に開始した金融緩和を2015年から中止し、金融引き締めに転じている。金融引き締めは市中に流した通貨を引き上げ、金利を上げる。そのため、長期金利の指標である米国の10年国債の金利が3%を超えて来た。資本が自由に移動可能な日米欧の中では最も高い長期金利になった。こうなると、新興国を始め世界に投資されていた資金は高金利を求めて米国へ流れ込む。そのためにはドルが必要であるため、ドル需要が増し、現在ドル高が進んでいる。しかし、ドルが高くなると困るのはドルで債務を持つ国々である。1997年のアジア通貨危機は、ヘッジファンドによるアジアの通貨売りで引き起こされた。ドルに対して、アジアの通貨が下がり、ドルでの債務が実質的に膨らみ、債務返済が苦しくなった。しかも国内の資本が自国通貨の低下を嫌って国外へ逃げ出した。今またそんな事態が世界で見られ始めている。中でもトルコとアルゼンチンが厳しい。日本のメディアはほとんど新興国やこうした国々の状態を報じることがない。ロイター通信によると、トルコは今年償還期限を迎える対外債務に対する外貨準備の比率が既に90%を割り込んでおり、新規の借り入れ手段や外貨準備の積み増しがなければデフォルト(債務不履行)の危険性がある。アルゼンチンも3月以降、ペソ急落を食い止めるために80億ドルの外貨を売却しており、債務に対する外貨準備の比率はトルコに近づいている。マレーシアやウクライナもよくない。一般に、対外債務に対して100%の外貨準備が必要と言われる。これを下回るとデフォルトの危険性が高くなる。南米大陸の中でも南に位置するアルゼンチンは19世紀末にはとても豊かな国であった。欧州からはその豊かな国を目指して多くの移民が流入した。しかし、その豊かな国が高等教育を軽視した。これが以後、アルゼンチンを政治・経済を不安定な国にしてしまった。今月4日、アルゼンチンの中央銀行はわずか8日間で3度目となる金利引き上げを行った。金利は40%にもなる。国内のインフレ率は51%である。もっとも、過去には金利は2001年に81%、1990年には1390%になっているが。日本の現在の同金利はわずか0.1%である。通貨ペソが暴落し続け、それを食い止めるために金利を引き上げている。通貨が下がると国民はペソを信用せず、ドルを持とうとする。これがさらにドル高ペソ安を加速する悪循環を生む。アルゼンチンは過去に7回デフォルトしている。そんなアルゼンチンも昨年の政府債務残高では国内総生産(GDP)に対する比率では53%であり、日本の236%よりはるかに少ない。しかし、輸入の88%がドル建てであるため、ドル高になると実質的な支払額が増加する。米国の中央銀行が今後も金利を上げて行くと、アルゼンチンの通貨はさらに下がり、ドルの債務がさらに積み上がって行く。日本は対外債務より対外債権の方が多い。国債も日本の保有が多くを占めている。アルゼンチンとは違う。そんな日本はデフォルトするはずがないと安心し切っている。世界第三位の経済大国ではあり得ないと思い込んでいる。しかし、世界第一位の米国すら、これまでに1度1933年に実質的なデフォルトを行っており、1970年代以後にも3度も価値の半減するドル切り下げやドル安進行で、やはり実質的な債務不履行を行っている。日本も今後超低金利から出て、金利が上昇して来ると政府債務の金利支払いが厳しくなる。毎年債務を増加させている中でだ。そんな時にもさらに日本銀行が増発する国債を引き受けていれば、確実に日本の通貨である「円」は国際的な信用を失くしてしまう。日本銀行の発行する紙幣は裏付けがない。唯一国の財政が裏付けと言える。つまりは国債そのものだ。しかし、国債が乱発されれば、日本の場合は国債の暴落ではなく、円の暴落が先になる。
延根千鳥

オートファジー (Autophagy)

2018-05-25 19:12:51 | 科学
微生物、植物、動物など、いわゆる生物は細胞で構成されている。その細胞も常に一定ではなく、ミクロの世界では変化している。その変化を様々な細胞の機能が支えている。そんな細胞の機能の一つにオートファジーと呼ばれる機能がある。オートファジーは「自分自身を食べる」と言う意味である。1963年に細胞が自身のタンパク質を分解する現象に対して、ベルギー人の細胞生物学者によりこの名が付けられた。2016年、ノーベル生理学・医学賞を受賞した日本人生物学者大隅良典東京工業大学特任・栄誉教授は、このオートファジーのメカニズムを解明したことが受賞の対象となった。細胞が飢餓状態になると細胞内のタンパク質を分解して、言わばそれを栄養源にすることから「自食」と名付けられたが、実際にはこのオートファジーには不用になったものを「浄化」したり、細胞内に侵入した病原菌から細胞を「防御」する働きもある。さらに癌細胞ではこのオートファジーが関係していることも分かって来た。癌が腫瘤として大きくなって来ると、癌細胞に栄養を送る毛細血管などが十分に間に合わず、饑餓状態になりやすい。癌細胞ではかえってオートファジーが活発になっており、飢餓状態を脱するために利用されている。逆に、認知症の6〜7割を占めるアルツハイマー病では脳の神経細胞にアミロイドβ蛋白と言われるタンパク質が蓄積し、むしろオートファジーが低下している。オートファジーは本来は細胞の正常性を保つための機能であるが、特に致命的となることが多い癌では、その研究が盛んになっており、最近の米国の研究では、抗癌剤への薬剤耐性をもオートファジーが促していると言う。ある種の抗癌剤は癌細胞が栄養の欠乏や飢餓に陥るように化学的に模倣するように設計されているため、オートファジーを活性化させてしまうのだ。また、今月22日に出版された米国科学誌Natureは「Autophagy promotes the survival of dormant breast cancer cells and metastatic tumour recurrence(オートファジーは休眠乳癌細胞の生存と転移性腫瘍の再発を促進する)」と言うベテスダ国立癌研究所の研究者の論文を載せている。癌の中でも乳癌は初発後に治療を受け、完治したように見えても、何十年後かに突然再発することが顕著だ。発生した腫瘍が癌細胞を付近や遠隔臓器にリンパ液や血液を通して散布させ、そこで休眠する。休眠期間が乳癌では際立って長い。オートファジーにより、癌細胞内部の構成要素が再構成され、細胞機能が部分的に停止し、一種の冬眠状態に似た状態になる。癌細胞は活発な細胞分裂により増殖するため、その細胞分裂を抑える目的で開発された抗癌剤は、こうした細胞分裂をしないで休眠状態にある癌細胞には効かない。研究者たちは人の細胞と生きたマウスを用いた実験で、オートファジーを抑制する薬剤やオートファジーを制御する遺伝子操作でこのオートファジーのメカニズムを無効にすると、癌細胞が損傷しその増殖能力が阻害されることを見出している。乳癌以外の癌でも同じように適用できるかどうかは、今のところ定かではないが、少なくとも日本でも増えて来ている乳癌の治療に明るい展望が開けて来ているようだ。
胡桃の葉

21世紀の「世界恐慌」後の世界

2018-05-24 19:11:20 | 社会
戦後、日本は一貫して対米従属を通して来た。政治も経済も米国次第である。そのためもあり、このブログでは米国の状態を書くことが多い。しかし、名目GDPで世界第二位、購買力平価によるGDPではすでに世界第一となっている中国も無論、日本にとっては無視出来ない国である。日本のメディアの多くは中国を侮る記事が書かれる。そして、その記事の中には中国の実態を描いたものも確かにあるだろう。しかし、歴史的に見ると、過去には中国は世界をリードする国であったし、その後の長い低迷の時期を経て、現在、再び過去のそうした位置を取り戻しつつあるのも事実である。先日も書いたように今世紀はアジアの時代であり、それを主導するのは第一に中国であり、第二がインドになる。現代の経済大国は全て巨大な債務を抱えている。中国もその一つだ。2008年のリーマン・ショックで、不況となった米国市場の落ち込みは、米国への輸出で急激に経済成長した中国にとっても大きな痛手となった。中国政府は自国の経済成長を支えるために、民間に不動産部門への投資を奨励し始めた。都市での建物やインフラ投資、設備投資である。政府としても財政出動をさせたが、中国は民間が投資のために莫大な借り入れをしたことが顕著である。今日の日本経済新聞によれば、中国の債務残高は国内総生産(GDP)比で2008年の141%から2017年には257%となり、米国の251%と肩を並べる。中国では企業も個人も不動産への投資に借り入れを行っており、不動産投資が加熱し、不動産の巨大なバブルを生み出してしまった。個人の年収の10倍を超える債務を抱える状態になっている。米国同様中国も債務は金利で行き詰まる。世界は現在、金利上昇の局面に入った。中央銀行である人民銀行が金利を下げることは可能だが、それを続ければ、中国国内のマネーは金利の高い国へ流出する。政府、中央銀行ともに舵取りが困難なのも米国と同じ状況だ。いずれ、中国も日本のバブル時代をはるかに超えた巨大なバブル崩壊に見舞われるだろう。これは世界経済へも波及する。世界は現在、米国、日本、EU、中国いずれもが大きな火種を抱えている。世界全体の債務が世界のGDPの233%にもなっている。したがって、遠くない将来に世界経済は巨大な不況に見舞われることになる。冒険投資家ジム・ロジャーズが『あなたが今まで生きてきて見たものの中で、一番ひどい出来事になる』と言い続けている状態だ。そして、その『世界恐慌』から抜け出した後には、東アジアと中東、東アフリカ、欧州を結ぶ中国主導の一帯一路One Belt, One Roadのインフラ投資で、巨大な経済圏が生まれてくるだろう。ちょうど1929年に始まった世界大恐慌で、前世紀まで覇権国であった英国の没落が確定的になったのと同じく、米国覇権の没落もその「巨大な不況」で決定的になるだろう。日本の一部では中国の「一帯一路」はかって1980年代に日本の大蔵省が構想した「円圏構想」のコピーだと揶揄するが、「円圏構想」とは根本的に異なっている。その当時の日本はあまりにも奢り過ぎていて、近隣のアジアへの根回しを全くやっていなかった。米国に追従し続け、その米国すら追い越したと奢っていた。ただ「俺に続け」と号令するだけであった。中国は経済成長とともに、東アフリカや中東、中央アジアへの政経関係を着実に結び、一帯一路の基礎となるやはり中国主導のアジアインフラ投資銀行AIIBへEUの大国や英国までも巻き込んだ。現在株価の時価総額が世界一の企業は史上最高額の9266億ドルとなる米国のアップル社である。しかし、そのアップル社の製品は中国で作られている。物の生産はもはや中国抜きでは世界を支えられない状態になっている。中国の政治も、経済で崩壊したソ連を見ているので、もはやかってのような「共産主義」とは言えず、経済が変われば、大きく変わって行かざるを得ない。
職場の駐車場近くまでやって来た鹿

爆発噴火を起こしたキラウエア火山

2018-05-23 19:13:47 | 科学
地球の構造は中心部に核があり、その外側にマントル、表層が地殻と呼ばれる。それぞれ平均の厚さは3500Km、3000Km、30Kmであり、表面の地殻は2%にも足りない薄さである。地震や火山噴火の原因ともなるプレートは地殻と最上層のマントルから構成され、厚さは100Kmになる。マントルは高熱のあくまで固体であり、流体であるマグマとは区別される。マグマはマントルが溶けて出来ることもあるし、地殻が溶けてもマグマになる。地球上の火山はその成因から3つに分けられる。島弧・海溝型、ホット スポット型、中央海嶺型である。島弧・海溝型はプレートの下に他のプレートが沈み込み、沈み込んだプレートから岩石が溶けてマグマが形成され、それが上昇することで火山となる。日本列島の火山やそれを含んだリング・オブ・ファイア(環太平洋地震火山活動活発地帯)がこの型の火山である。マントルには温度が低く、3000Kmの厚さの中を下降するコールドプルームと温度が高く上昇するホットプルームがある。プルーム plumeは羽毛を意味し、羽毛のように舞い上がる流れである。このホットプルームが上昇し、地殻を突き破ったところがホット スポットと呼ばれ、火山が形成される。ハワイの火山に代表されるように、太平洋や大西洋、インド洋などに世界では20箇所にホットスポット型の火山がある。中央海嶺型は、海洋で海底の地殻まで上昇してきた高音のマントルからマグマが溶け出て、海洋プレートそのものを作り出し、マグマが吹き出しているところで海底火山を生成し、高さが3000mもの海底山脈を造り上げる。東太平洋や大西洋中央部などに見られが、東アフリカの大地溝帯、グレート・リフト・バレーGreat Rift Valleyもこの型で、アフリカを東西に拡大・分割させ続けている。大西洋の中央海嶺でもこれを境に東西にそれぞれ海洋プレートが広がり続けている。地球上のマグマの80%はこの中央海嶺で生成されていると言われる。言わば、ホット スポット型は点状にマグマが噴出し、中央海嶺型は何百キロもの距離の線状のマグマの噴出と考えることが出来る。中央海嶺で新たなプレートが生み出されているわけであるから、当然でもあるだろう。ホットスポット型であるハワイのキラウエア火山は17日に爆発噴火を発生し、噴煙は9000mの高さに達している。この型の火山は二酸化ケイ素の含有量が少ないためにマグマの粘土が低く、爆発的噴火は起こしにくいと言われている。ただ、マグマの上に岩石が崩れ落ちて、マグマを覆い込んでしまうと、今回のような爆発を引き起こす。粘度が低いため溶岩は流れやすく、海に流れた溶岩流も観測されている。キラウエア火山は、地球上では最大の火山である標高4169 mのマウナ・ロア火山の南東斜面上にある標高1247 mの火山である。キラウエア火山では現在噴火口は3箇所に形成されており、山頂のカルデラに一つと、そこから19Kmほど北東に離れたプウオオ火口、さらにそこから20Kmほど離れた東部亀裂帯(イーストリフトゾーン)の火口がある。同じ米国で最近活動が活発になっているイエローストーンもハワイと同じくホット スポット型の火山活動である。したがって、火山としての成因が異なるため、日本列島の火山への影響は考えなくていいようだ。
ニセアカシア

『方丈記』の世界

2018-05-22 19:13:43 | 社会
日本には三大随筆と言われるものがある。平安時代中期の清少納言の書いた『枕草子』、平安時代末期から鎌倉時代初期の鴨長明が書いた『方丈記』、鎌倉時代末期の吉田兼好の書いた『徒然草』である。この三つの随筆の中でも『方丈記』の時代が最も世の乱れが凄まじかった。政治的には摂関政治から院政に代わり、天変地異が続いた時代である。作者の鴨長明はまさに乱世を生きた人である。京都の賀茂御祖神社の最高位の神官の次男として生まれたが、下級官位からの出世の望めない時代で、歌人として後に『千載和歌集』に載せられるほどの才能があり、後鳥羽院にも歌人としての才や高位神官への推薦にも関わらず、50歳で出家した。54歳の頃に方丈の庵に住む。57歳で関東へ下り、歌人でもあった鎌倉幕府第三代征夷大将軍源実朝と何度か会っている。この翌年、『方丈記』が書かれている。「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人と栖と、又かくのごとし。」で始まる。人生の無常、有為転変の世相を説き、都の大火、凄まじい竜巻、福原京遷都、飢饉による飢餓、大地震などで、多くの人々が野辺に死に倒れている様を描いている。天変地異と人災で人々が翻弄され、ある者は身障者となり、ある者は命を落とす。大火は都の3分の2を焼き尽くした。竜巻は3〜4町に渡って大小の家を破壊し、4〜5町先まで吹き飛ばされた。また、二年間もの間、春夏の日照り・干ばつ、秋冬の大嵐・洪水など、悪天候が続き、五穀がことごとく実らず、飢饉のために餓死した人たちが道端に溢れた。大地震では、山は崩れて川を埋め、地面は裂け水が湧き上がり、岩は割れて谷に落ち、海では津波が発生して陸を襲い、渚をこぐ舟は波に漂った。家屋は倒壊し、東大寺の大仏の頭部までが落ち、余震が3ヶ月続いている。この時の地震は1185年の文治地震と呼ばれるもので、津波が裏日本までも起きており、南海トラフの巨大地震であったと考える地震研究者もいる。大火や飢饉、竜巻で廃墟に近い状態になったため、平清盛が現在の兵庫県の福原へ遷都を命じた。しかし、本格的な都の造営は行われないまま後には再び京に都が再建される。この遷都も平家一門が中心で、多くの人々は京の廃墟に残されていた。市井に隠遁した形の鴨長明はこうした天変地異と権力争いの犠牲になる人々の姿を見つめている。この時代の乱世の様を作家堀田善衛は自己の戦中・戦後直後の体験と重ね、五木寛之は現代と重ねている。五木寛之は現代の日本の人々の意識の底に「不安」の存在を見ている。1995年の阪神・淡路大震災、2004年の新潟県中越地震、2011年の東日本大震災、これからも続くと予想される地震や噴火に加え、日本の世の中もここ数年で大きな国難に遭遇する可能性がある。
著莪(しゃが)

人口と産業の構造変化

2018-05-21 19:15:04 | 社会
本来、中央銀行は政府とは独立して政策を実行しなければならない。しかし、現政権が成立してから、ほぼ政府と一体となって政策運営を行って来ている。失われた30年に突入して、何とか経済成長を達成したいからであろう。仮にそれをよしとしても、円安と2%インフレを目標とすることは決して国の経済成長には結び付かない。経済学は学問ではないと言う人もいるくらいに経済学は経済の実態には役立っていない。社会の変化を学問に取り入れられていないからだろう。経済は本来単純である。物やサービスを買う人と売る人の取引でその値段が決まる。売る人の方が多ければ、値段は下がる。買う人の数が少ない状態だ。値段が下がればデフレになる。国民にとって値段が下がること自体はいいことだ。国民にとっての理想は値段が下がって所得が増える状態だろう。経済も本来はこれが理想だ。日本の高度経済成長時代は所得が増えて、みんなが物やサービスを買った。そのため値段も上がった。インフレである。経済成長は国民総生産GDPで見ることが多いが、これは言わば、国の1年間の所得でもある。そのGDPの6割が日本では消費が支える。従って、GDPを増加させるには消費を増加させる必要がある。そのためには個人の所得の増加や企業の投資が必要だ。しかし、失われた30年に至ろうとする日本は個人所得も企業投資も伸びていない。政府の巨大な債務と少子高齢化の未来を思うと、個人も企業も将来を楽観出来ない。そのため支出を抑えてしまう。まして、個人所得が増えない状況ではなおさらである。そもそも政府や日本銀行の目指す円安や2%インフレには政策としての誤りがある。円安は確かに輸出大企業には利益をもたらすが、その利益の一部がせいぜいその企業の従業員に渡るだけで、大部分は社内留保の積み上げになり、今では400兆円を突破している。しかも、今の日本の産業構造は輸出産業の主体である製造業などの第二次産業ではなく、サービス産業主体の第三次産業(卸売・小売業、運輸業、情報通信業、金融・保険業、サービス業など)が7割を占めている。第三次産業にとって円安は何の意味もないだけでなく、その従業員にとっては、円安により輸入品の価格上昇で、生活費への負担増となるだけである。所得の増えないほとんどの国民にとっても同様である。物やサービスに要するお金以上に多く、一般にお金が流れ込めばインフレになりお金の価値が下がる。それを狙って日本銀行は市中の金融機関が持つ日本国債を大量に買い上げ、お金を市中銀行に支払った。市中銀行に入ったお金が、個人や企業に超低金利を利用してたくさん貸し出されていれば、確かにインフレになる可能性が出てくる。しかし、実際には将来を不安視する個人や企業は金融機関からお金を積極的に借りてまで消費しようとはしなかった。そのため、金融機関は日本銀行から受け取ったお金を、日本銀行へ準備預金として預けた。日本銀行の当初の目論見は金融機関に流れたお金が貸し出しを経て、個人や企業に流れ、インフレとなることであった。そもそもインフレは経済成長の結果であり、結果を先取りした2%インフレなど、経済成長をもたらすわけがない。本末転倒である。国際的な各国の競争力を見るのに、世界経済フォーラムとスイスの国際経営開発研究所のものがよく使われる。前者では日本は9位であり、後者では27位である。この順位の違いは評価項目とその数の違いにある。かって日本が「ジャパン イズ ナンバーワン」と言われた時代にはいずれの評価もまさに1位であった。競争力がないのはイノベーションや生産性、政府規制などに問題があるからである。産業の7割を占める日本の第三次産業は特に生産性が低いことはよく知られている。米国に続いて日本もすでに産業構造では製造業の時代ではなくなっている。にも関わらず、政府の政策はその輸出製造業中心でやって来ている。産業構造を転換しない限り、少子高齢化の進む日本には未来はない。人工知能AIでも中国は10年以内に米国を追い越すと言われる。過去の「栄光」にしがみつく政策しか現政権は行っていない。
山芍薬