今朝は一時的に雪がちらついていた。おかげで気温はさほど下がっておらず、庭の水道もすぐに出てくれた。出勤時も少し降っていたが、その後降り止んでくれた。しかし、昼前から今度は本格的に降り始めて来た。昨夜は強い風が吹いて山鳴りも聞こえて来たほどだった。日中もその風が少し残っていて、時々強く吹くこともあった。昼休みに甲子川へ行ってみると、6羽の白鳥親子の姿は降る雪で姿が見えなくなっていた。後から来た3羽の白鳥だけが雪の降る中で川底の餌をせっせと採っていた。長い首を水に浸けて、頭を潜らせていた。 人の身体は60兆個もの細胞から構成されている。最初はたった1個の受精卵であった。卵管の中で受精が行なわれた後、受精卵は7日で子宮に至る。その時の細胞は100個に増えている。この状態の細胞はまだ将来人の身体の何になるのか定まっていない。この100個の細胞を取り出して、特殊な方法で培養すると将来人の身体の何にでもなれて、細胞分裂により増殖も出来る細胞が得られる。これがES細胞と呼ばれる細胞だ。2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した京都大学iPS細胞研究所所長の山中伸弥教授は4つの遺伝子を使うことで、身体の組織になってしまっている細胞をES細胞と同じく将来身体の何にでもなれる細胞に逆戻りさせることに成功させたことでノーベル賞を受賞した。こうして作られた細胞はiPS細胞と呼ばれている。細胞の名前の最初の「i」はアップル社の製品に付けられたiPhoneやiMac、iBookなどと同じように愛称となるよにと言う思いから付けられたと言う。将来人間の身体の何にでもなれる可能性を持った細胞を創り出すことは再生医療の夢であった。それが実現したから中山教授はノーベル賞を受賞したのだ。しかし、この何にでもなれる細胞をいとも簡単に作ってしまった人が現れた。マウスの細胞を30分間弱酸性の液に浸すだけでこの細胞が出来てしまったのだ。神戸市にある理化学研究所の若干30歳で5人の女性ばかりのスタッフのいる研究ユニットリーダーとなった小保方晴子(おぼかた はるこ)博士だ。しかもまだ博士号を取って2年しか経っていない。世界中の研究者たちを驚かせた研究だ。英国BBC放送は「革命的」という言葉を使っている。この細胞はSTAP細胞と名付けられた。早稲田大学理工学部応用化学科を卒業後同大大学院へ進み、東京女子医科大学先端生命医科学研究所研修生ともなって、研究を進め、2008年から2年間ハーバード大学医学部に留学し、STAP細胞の着想を得たが、各学術誌に投稿した博士の論文はことごとく不採用となった。あまりに研究者たちの常識に反する、単純過ぎる内容に、論文選考者の研究者からほぼ門前払いされてしまったのだ。英国科学誌ネイチャーに最初に投稿した時は「何百年の細胞生物学の歴史を愚弄(ぐろう)している」とまで言われて拒否されている。5年間に渡ってそうした状態が続いたのだと言う。研究者としての最低限の資格である博士号も取得して2年しか経っていないことも理由の一つであったかも知れない。ようやく実証が認められたのだ。認められないために毎晩のように泣いて過ごしたこともあると言う。そんな時に励ましてくれた祖母の「研究者の仕事は世の人のため。一生懸命に頑張っていれば、いつかきっと誰かが評価してくれる。とにかく一日一日、頑張りなさい」と言う言葉をかみしめて研究を続けたようだ。そして、祖母からもらった割烹着を研究室で白衣代わりに使い、いつも祖母がそばで励ましてくれているような気持ちで研究していると言う。中山教授のiPS細胞は4つの遺伝子を導入するため遺伝子が傷付いて癌化する可能性があることと成功率が0.1%に留まると言う問題があった。しかし、博士の方法は「オレンジジュースと同程度の強さの酸性で体温に近い37度の溶液が入った試験管に、マウスのリンパ球などの体細胞を入れ、30分間にわたり刺激」するだけである。「動物の細胞は外からの刺激だけで万能細胞にならない」という専門研究者たちの「常識」に囚われなかった画期的な研究である。成功率も30分間刺激した細胞のうち25%が生き残り、その30%が身体の何にでもなり得る、いわゆる万能細胞になっている。iPS細胞は遺伝子を使って人工的に逆戻りした細胞を創り出したのだが、STAP細胞は細胞自身が逆戻りすると言う生命科学の基本を覆す結果をもたらした。さらに細部ではiPS細胞では不可能であった胎盤まで作ることが出来、すでにSTAP細胞だけで構成されたマウスも作られている。培養法の改良によりES細胞と同等の増殖能力を持つと言う。今後は人の細胞での研究を進め、「酸性の刺激で細胞の状態が制御できるようになれば、老化やがん、免疫など幅広い研究に役立つかもしれない」と期待を抱いているようだ。この博士の成功はまさに人の身体の専門分野へ他分野の人が参加することで、柔軟な発想で研究を進めたことから得られている。しかも、研究上の真理はシンプルだということの典型でもある。小中学生の実験学習でも可能なほど容易な方法なのだ。すでに昨年4月には国際特許も出願している。
3羽の白鳥が餌を食べていた雪の降る甲子川
上流にいるはずの白鳥親子の姿は確認出来なかった