中国の共産党のメディアである人民網は、昨日、「中国の若者はなぜ「新しい貧乏人」になったのか?」と題する記事を載せた。それによると、「90後(1990年代生まれ)は1人あたり平均12万元(約180万円)もの負債を抱えるという。このデータにはいささか大げさであるものの、彼らの多くは従来の意味での貧乏人ではなく、「新しい貧乏人」と呼ばれる。高等教育を受け、一定の美意識をもつ一方で、経済力はブルーカラーと大差なく、都市の周辺に暮らす若者たちだ。」とある。鄧小平の改革開放により、中国は経済の資本主義化を推進したが、家族主義や貯蓄傾向はそのまま残されて来た。しかし、1990年代生まれの世代は中国のいわゆる「一人っ子政策」の真っ只中で生まれた世代で、大切に育てられ、しかも成人となった時には、周囲に消費材が溢れる社会に変容していた。今日の人民網でも「これはもうレジャーランド!上海最大のショッピングモールが開業」が報じられている。総面積が東京ドーム7.3個分の広さで、400軒以上のブランドショップが入居するミニレジャーランドでもある。今年1月に人口600万人の大連市へ行った際にも、ブランド店が並ぶショッピングモールや、両サイドに延々と衣料品の店が並ぶ「市場」を見たが、もはや店舗を見ているだけだと、とてもかっての貧しい中国の残影はなく、若い世代にとっては、「消費」はもはや日常である。米国は世代に関係なくローンで消費するのが当たり前の、消費が国の経済の7割を占める経済大国だが、今や中国もまた「消費」に大きく舵を切った。中国政府は、米国の貿易戦争やIT企業攻撃で、コロナ禍の中で、経済を「貿易」から「内需=国内消費」へ方向転換することにした。米国は貿易戦争を仕掛けただけでなく、中国のIT企業の台頭に脅威を感じ、今のうちに中国のIT企業を抑え込もうとしている。一橋大学の野口悠紀雄名誉教授は2018年2月23日の段階で、現代ビジネスで「中国がまもなく「世界最強のIT国家」になる歴史的必然性」なる記事を載せている。「中国のITにおける強さが、潤沢な資金力や優秀な人材に支えられている面は確かにある。しかし、そうしたことだけではない。中国の特殊な社会・国家構造が、中国のIT産業に対して有利に働くのだ。」「ITには従来なかった特殊な規模の利益が働く。そして人口は途方もない大きさだ。IT産業は本質的な意味で中国に合っていると考えざるをえない。そのことが中国でいま実証されつつあるのだ。」「AI(人工知能)の技術開発においては、ビッグデータをどれだけ集められるかが重要だ。それを簡単に集められる中国は、人工知能のディープラーニングにおいて、有利な立場に立つ。」。中国はこのコロナ禍で、政府も民間も一挙にITを進化させた。危惧を残す5Gも今年中に国内全域がカバーされてしまい、顔認識の監視カメラも国内全域に敷設が完成する。科学ジャーナリストの倉澤治雄氏によれば、「全国民14億人を1秒で特定できる監視システムの構築」となる。今年の末までには6億2600万台のカメラが設置される。都市部では「天網(てんもう)」、農村部では「雪亮(せつりょう)」と呼ばれる監視システムで、監視カメラだけでなく、通信ネットワークやスーパーコンピューターがセットされており、「ファーウェイ、ZTEをはじめ、中国の名だたるハイテク企業が参加」している。マレーシアでは、光ケーブルなどのパソコンLAN環境が整備されなかったために、一挙にスマートフォン文化となったように、中国でもクレジットカードを飛び越して、いきなり電子決済が普及し、アリババグループによる「信用スコア」により、銀行よりずっと早く、かつ簡単な「審査」で借り入れが容易に出来るようにもなっている。すべてがスマートフォンで、簡単に出来る。1月の大連市訪問時も、一度も現金支払いをする場面はなかった。あらかじめ知人にお金を渡しておいて、知人がすべてスマートフォンで決済した。同じく今日の人民網は、「河南省の企業、5Gで無人鉱山を実現」と報じている。「焦煤集団千業水泥(セメント)公司は、5Gネットワークやモノのインターネット(IoT)、人工知能(AI)クラウドコンピューティングなどの技術を駆使して、「5G+無人鉱山」プロジェクトを立ち上げた。」とある。今年5月に米国のツイッター社の重役に就任した、元スタンフォード大学人工知能研究所所長の李飛飛氏は、16歳で米国に移住した1976年生まれの女性コンピューター科学者である。同氏は、2016年にはグーグルGoogleのチーフサイエンティストに就任し、同社の中国進出に貢献してもいる。米国には多くの中国系IT科学者がいる。中国はITの先端を行く有利な条件を備えており、世界で最も早い「監視国家」となるが、それはいずれ日米欧でも達成されるだろう。日本でも監視カメラはすでに全国に設置されている。デジタル通貨が導入されれば、行動だけでなく、お金の動きまで監視される世の中になる。社会生活の「デジタル化」は共産主義、資本主義とは関係なく、完璧な「監視国家」をもたらす。その動きをもはや誰も止められない。1949年に英国人ジョージ・オーウェルの書いた小説『1984年』の監視社会は、デジタル化がもたらすことになった。
「日経XTECH」より