福井県の若狭湾に面する地域にはわずか30Km範囲に4つの原子力発電所と高速増殖炉もんじゅや閉鎖となったふげんなどが並ぶ、いわゆる原発銀座がある。しかし、そんな原発銀座のただ中に、ラムサール条約湿地に指定された三方五湖がある。特に五湖の一つである水深34mの水月湖は世界の地質学者で知らないものはいないと言われるほど著名な湖だ。湖底には7万年分の堆積物が地層として積み重なり、「年縞」と呼ばれる層が形成されている。これにより各時代の遺跡の年代を特定したり、地球規模の気候変動などに関する研究が行われている。地層1枚あたりの厚さは平均0.7mmで、湖底から地下45mの深さに達する。各地層には規則的に黒色系と白色系の粘土があり、黒色系は春から秋に繁殖した植物性プランクトンの死骸で構成され、白色系は晩秋から初冬に積もった鉄分を含む粘土で構成されていると言う。7万年分もの「年縞」が整然と残されているのは世界でも類を見ないそうだ。これほど整然と残されたのには理由がある。水月湖は水深が深く、湖底は酸素がないため、生物が生息出来ない。若狭湾には山が背後に迫り、風が遮られて、湖面に波立つことが少ないために地層が綺麗に保存された。水月湖の近くには断層があり、断層運動で毎年平均1mmほど湖底が沈下しており、そのために7万年分もの地層が堆積可能となったのだと言う。地層の堆積する量と湖底の沈む量が近いためにこれほど長い期間の地層が保存された「奇跡の湖」だ。考古学では放射性炭素を利用して年代測定が行われるようになって来ているが、水月湖の地層とその地層に埋まった落ち葉の炭素を調べることで、放射性炭素による年代測定の精度をより高めることが可能となる。また水月湖の3万年前の層から、厚さ20cmの火山灰が見つけられており、分析の結果、鹿児島県の姶良カルデラ大噴火によるものと判明した。欧米では異分野の研究者が集まって、遺跡の研究を行なっている。しかし、日本ではまだまだ遺跡の研究は考古学者が独占状態である。そのため、個人の識別に頼る土器編年がまだ大手を振っている有様だ。


愛染山