天気予報がはずれてすっかり夏の強い日射しが刺して来た日だった。家の玄関先に鉢植えの山野草をたくさん並べているが、何かとお世話になっている施設のお二人の方が通りかかり、この山野草を偶然目にされた。しばらくお二人と立ち話をしたが、お二人とも地元の方たちなので岩手の自然もごく当たり前のこととして受け入れられておられる。お二人はそれぞれ休みの時にはその時期になれば決った山へ入られ山菜採りをされておられる。その際山野草もよく見かけるという話を伺った。あらためて岩手の山は豊富な山菜と山野草に溢れていることをお話しするとむしろ驚かれていた。四国の山も山菜や山野草はむろん見られるが東北ほど種類は多くない。最近釣り人が熊に襲われ左の眼球破裂を負ったそうだが、熊や鹿等の動物の種類も多く、それだけそうした動物たちの餌となるものが豊かにあると言うことになる。岩手では花が長く咲いていることにも気付かれておられなかった。地元で子供の頃から同じ景色をずっと見てくれば当然それが普通のものとして受け取られる。釜石では各所で熊が出没しており、そのたびに注意が呼びかけられている。熊も人が怖いのだ。とっさに出くわすと双方が驚いて、特に熊の方は攻撃的になってしまうのだろう。これまで釜石へ来てからは二度ほど熊を目撃した。いずれも奥深い山の中ではなく、職場の駐車場のすぐそばの裏山の傾斜地で10mくらい離れたところの栗の木に登っていた。大きさからすると子熊のようで木の下の草むらでは枯れ木の折れる音がしていたので恐らく親熊がいたのだろう。もう一度は海岸沿いを走る国道45号線を悠然と横断している親熊だった。夏毛のためちょうど家で飼っているシェパードくらいの大きさに見えた。海岸側の歩道に沿った柵を乗り越えている時に見つけたのだが、最初は熊だとは気付かなかった。実際犬だと思ってしまった。道路を横断し始めてはじめて熊であることに気付いた。車を止めてできるだけ刺激しないように山側に消えて行くのを待っていた。その間他の車は一台も通らなかった。玄関先で立ち話をしたお二人の方たちもある種の岩手でよく出会う匠の方たちである。自分たちの本来の職業以外の分野で優れた能力を発揮される。むしろ本職の方が顔負けするほどの腕を持っておられる。昔から「能ある鷹は爪を隠す」と言うが岩手にはこの爪を隠した「鷹」がたくさんおられる。甲子川の上空を飛んで餌を狙うミサゴも鷹の一種だが、あんなに高い所からよく見えるなと思う高さから獲物を狙っている。鋭い目を持っているのだろう。古いレンズには「鷹の目」と称されるレンズがあり、非常にシャープで高い解像力を持つ。多くの岩手の匠は爪だけでなく、この「鷹の目」も持っているように思う。峻別する目だ。東北人のこうした生き方がどこから来ているのか、大いに興味をそそられる。
近所で見かけた桔梗